文/京都純典

勝率6割以上を記録しながらもV逸

歴史的V逸となった2016年シーズンのソフトバンク。さまざまなメディアでその要因が語られているが、そもそも、「ソフトバンクは弱くなったのだろうか?」という疑問が浮かぶ。たしかに、昨季の90勝から今季は83勝と勝ち星こそ7つ減らした。7月以降は35勝35敗1分と勢いがなくなり失速もしている。だが、それでも最終成績は83勝54敗6分と貯金を29も作り、勝率は.606と非常に高い。

 2リーグ制以降、勝率6割以上でリーグ優勝を逃したチームはソフトバンクでのべ24チーム目。その数だけからは、一見、珍しくないように見えるが、そのうち13回のチームは2リーグ制となったばかりで球団数も多く、上位と下位の差が激しかった1950年代のことである。

 その差が徐々に縮まっていくと、1960年代は4チーム、1970年代は3チームと減っていき、1980年以降では1986年の巨人、1991年の近鉄、2005年のソフトバンクのたった3チームだけだ。2005年のパ・リーグはプレーオフ制を敷いており、ソフトバンクはレギュラーシーズンで勝率1位だったが、プレーオフでロッテに敗れた。つまり、プレーオフがあったシーズンを除けば、1980年以降、勝率6割以上で優勝を逃したのは今季のソフトバンクで3チーム目となる。

 この事実を見る限り、ソフトバンクが弱くなったというよりも、日本ハムが驚異的な強さを見せたと言ったほうが正しいだろう。

投打の主要成績は昨季と大きな差はなかった

しかし、いくら日本ハムの驚異的な追い上げがあったとはいえ、あれだけの戦力を持ちながら優勝を逃したことは紛れもない事実だ。昨季と今季でなにかちがいはあったのだろうか。まずは、打撃成績から見ていく。

 昨季のチーム打率は.267、得点651、本塁打141、四球507、出塁率.340。今季はチーム打率が.261、得点637、本塁打114、四球537、出塁率.341であった。

 昨季、141試合に出場し、打率.282、31本塁打、98打点を記録した李大浩が退団したが、新外国人の野手を補強せずにシーズンを戦い、終盤には柳田悠岐をはじめケガで離脱する選手も多かった。それでも、昨季とほぼ変わらない得点を挙げることができたのは、野手陣全体の底上げがあったからに他ならない。

 ただ、底上げと言っても当てはまるのは主力選手に限ったことである。昨季は川島慶三、髙田知季、上林誠知ら、若手選手や一軍半レベルの選手の活躍が目立ったが、そういった選手を探すと、今季は、セ・パ交流戦でMVPを獲得した城所龍磨くらいしかいなかった。昨季、シーズン200打席未満の選手合計打席数は1641。それが今季は1010打席と約600打席も減った。100打席以上200打席未満の選手も昨季は8人いたが、今季は5人である。

 打率こそ昨季の.217から.222に上がったが、昨季よりも若手や一軍半の選手の出場機会は明らかに減っていたのである。主力選手を完全に固定して戦ったツケで、シーズン終盤にかけて主力にケガ人が相次いだのはこのあたりにも原因があるのかもしれない。

昨季と勝敗が逆転してしまったリリーフ陣

©︎共同通信

次に投手陣を振り返っていく。昨季のチーム防御率は3.16、失点491、被本塁打113、1イニングあたりに許した走者の数を表すWHIPは1.20。今季のチーム防御率は3.09、失点479、被本塁打126、WHIP1.17であった。
 
 野手陣同様、投手陣も昨季と大きな差はない。むしろ、昨季より防御率、失点、WHIPはいい成績となっているくらいだ。

 武田翔太が14勝を挙げ、防御率2.95とエース格にまで成長。千賀滉大も12勝を挙げ、防御率2.61。MLBから復帰した和田毅はリーグ最多の15勝を挙げ、防御率3.04。東浜巨は4年目にしてほぼ1年間一軍に帯同し、9勝を挙げた。岩嵜翔は、先発とリリーフで起用され、勝ち星こそ4つだったが防御率1.95。リック・バンデンハークの長期離脱や、攝津正が不振に陥るなか、他の先発陣は期待通りの成績を残した。

 一方で、リリーフ陣は昨季と比べてだいぶ苦労した。昨季、リリーフ陣の成績は23勝11敗、防御率2.81。それが今季は12勝21敗、防御率2.98と防御率は少し下がっただけだが、勝敗は完全に逆転してしまったのだ。

 チームの失点数は昨季と比べて減っているが、終盤3イニングでの失点は昨季の133から166に増えている。先制したときの勝敗は昨季が58勝15敗だったのに対し、今季は60勝23敗2分。昨季は38試合あった逆転勝ちが今季は25試合に減り、逆転負けが24試合から26試合に増えている。

 昨季は、先行逃げ切りや、先発が崩れてもリリーフで持ちこたえて終盤に逆転することがよくあったが、今季は試合の終盤にひっくり返されることが多かったのである。昨季、鉄壁を誇った森唯斗、五十嵐亮太、デニス・サファテのリリーフトリオが、今季は揃って成績を落とし、サファテはリーグ最多の43セーブを挙げながら7敗を喫している。同点の場面で登板し、決勝点を許してしまうことも多かった。

 トータルで見れば、打撃も先発投手も成績は昨季とほぼ変わらなかった。リーグ優勝を逃したのは、リリーフ陣の不調に原因があったのではないだろうか。

剛腕・田中正義はソフトバンクの救世主となれるか

最終的には優勝を逃したソフトバンクだが、今年のドラフト最大の目玉と言われた創価大の田中正義を、5球団の抽選の末に獲得した。好投手は多くいても一球見ただけで凄さを実感できる投手はそういないが、田中はまさにそういった投手だ。肩の故障がどれだけ回復しているか気になるが、万全であれば1年目から2桁勝利は計算できる。

 近い将来、武田と千賀に、近年のドラフトで獲得した松本裕樹、高橋純平と田中でローテーションを組めば球史に残るラインナップになるはず。そのためにも、田中を焦らず起用するベンチマネジメントが首脳陣には求められるだろう。

 投手陣はどんどん新たな力が台頭してきているが、野手は次のレギュラーを狙えるような選手が出てこないソフトバンク。来季のV奪還、そして他を寄せ付けないチームになるためには、田中の活躍と若手野手の底上げが鍵になってくる。

(プロフィール)
京都純典
1977年、愛知県出身。出版社を経て独立。主に野球のデータに関する取材・執筆を進めている。『アマチュア野球』(日刊スポーツ出版社)、『野球太郎』(廣済堂)などに寄稿。


京都純典(みやこすみのり)