取材・文/Baseball Crix編集部 写真/榎本壯三
vol.1はこちらからvol.2はこちらから感覚を確かなものにするためには試合と試合の“間”が必要
──前回のインタビューでは、かつては一軍と二軍の入れ替えがあまり頻繁に行われなかったとありました。そこにはどんな理由があったと思いますか。首脳陣が我慢強かったということなのでしょうか?
篠塚 ひとつはいまよりも試合が少なく、日程に余裕があったことがあるよね。それに加えて、一軍に上がっていった選手は、ちゃんと結果を残していたからじゃないかな。ファームでしっかり育てられていたんだと思うよ。いまは一軍に上がってきても、結果を出せる選手がまず少ないよね。少し活躍できても勢いが続かない。入れ替わりでほかの選手が上がってくるけれど、同じような感じで、一度落ちた選手がまた上がってきて、というようなことが起こる。一軍と二軍を行ったりきたりするのは、選手も落ち着かない。そうなる理由がどこにあるかを考えていくと、ファームの試合が増えたことの影響ではないかと思うんだよね。以前は一週間で、試合が3日、練習が3日、休みが1日くらいだった。それが、今は週に5日くらい試合をすることもある。積み重ねていくような練習、反復練習をする時間が足りていないように感じる。
──育成選手なども交えた三軍の試合なども年々増えていますね。
篠塚 育成中の選手にとって、試合というのは練習でつかんだ感覚を試す場であるべきだと思う。試合というのは“一瞬”のものだから、そこでうまくいっても、それが自分の体が覚えた感覚、身についた技術に裏付けられたものとは限らない。偶然ということもあるからね。試合の結果だけで力がついたと判断されて一軍に上がってきた選手は、すぐに不調に転じるということもある。だから試合の間に、しっかり練習する時間を挟むことで、感覚を自分のものにしていくというのが大事。試合と試合の“間”が必要なんだよ。それなしに長続きする技術をつくるのは、俺は不可能だと思うよ。ファームのコーチは、試合の前後の練習にも目を光らせて、選手にたしかな技術がついているのかを見極めないといけない。そこは一軍のコーチの目が届かないわけだから、改善の余地はあると思う。少年野球なんかでも同じだよ。土曜日、日曜日に集まって試合や練習を行うことが多いけれど、平日に自分で頑張って練習して、「次はこれを試してみよう!」とワクワクしながら土日を迎える。そんな習慣づけができている選手は伸びるよね。
──メリハリが大事であると。
篠塚 もうひとつ言うと、ファームから一軍に上がった選手が、試合に出られない期間が続くと、どうしても体力が落ちて、動きが悪くなることがあるんだよね。それも力が出せない理由になっていると思う。ファームできつい練習をやって、しっかり体を鍛えておくことは、一軍で控えに回っている間も体のキレを保つことにもつながっていく。実際には、一度増やした試合を減らすというのは難しいとは思うけれど、もう少し練習量を増やすための方法を考えてもいいんじゃないかな。
育て上げる選手の候補を決めて、監督とチーム内すべてのコーチで共有すべき
──他に、コーチ陣に必要だと思う姿勢みたいなものはありますか?
篠塚 ファームには40人から50人くらいは選手がいるわけだけど、全員を均等に見るというのは不可能だよね。有望な選手を選んで、「いつまでに絶対に育てるんだ」という期限を決めて、監督とすべてのコーチが共有することが必要。そのとき選ばれたのが野手だったとしても、投手コーチも目を向けて気づいたことは伝える。もちろんその逆もね。そうやって、「全員で育てる」という意識が必要だと思う。もちろん、選ばれなかったらその選手は終わりということではなくて、力を伸ばしてくれば、候補にすくいあげられる仕組みも必要だけどね。
──篠塚さんの時代は、そういう方式はあったのですか?
篠塚 自分たちの頃はファームのコーチが少なかったからね。1年目は二軍監督の関根潤三さん(※1)が打撃コーチを兼任していて、守備・走塁コーチに瀧安治さん(※2)、投手コーチに宮田征典さん(※3)と中村稔さん(※4)。それぐらいだったと思う。だから、「自分たちでやらなきゃ」という気持ちが強かったね。
──さて、2017年シーズンに向けて、ジャイアンツは積極的な補強を見せています。常に優勝争い以上を求められる球団としてはやむを得ない面もありますが、若手が得るチャンスは減りそうです。
篠塚 ジャイアンツには、一軍で経験を積ませる期間をつくりにくいという苦しさはあるよね。選手は少ないチャンスで確実に結果を残すしかない。打てなかったとしても、また使いたいと思わせるなにかを残さないとね。同じようなミスをしないことも大事。首脳陣側は、中途半端に上げてすぐ落とすみたいなことを、できる限り減らすための改善は必要だろうね。
──岡本(和真)選手(※5)などは、そうならずに済んでいますね。もし成長を果たした場合、いまの戦力のなかでもチャンスはもらえるのでしょうか。
篠塚 2016年もオープン戦までは岡本でいくと考えていたようだし、チャンスがもらえないことはないよ。他にもドラフト1位の吉川(尚輝 ※6)、2年目の重信(慎之介 ※7)あたりを育てきれるかどうか。重信なんかはチームでも相当な評価を受けていたからね。
──実績ある選手をそろえ、その傘の下で彼らの成長にも期待していくシーズンになる。
篠塚 やっぱりベテランは、「ここぞ!」というときにやってくれるもの。今年も(阿部)慎之助たちの力に頼ることになるんだろうけどね。ファームでしっかり鍛えられた、長く活躍が期待できそうな若手にも出てきてもらわないとね。
[vol.1] 積極補強が若手成長に繋がる? イチローが憧れた天才・篠塚和典に訊く、巨人復活の鍵
球界が世代交代期を迎えている。山田哲人(ヤクルト)や鈴木誠也(広島)、筒香嘉智(DeNA)といった新星が続々と現れ、その力を得た球団が順位を上げている。そんななか、一足先に2000年代中盤より若手が台頭していた読売ジャイアンツは守勢に立つ。この状況を打破し、再び若い力で他チームに対抗できるチームに変わっていくにはなにが必要なのか――。1980年代にジャイアンツの世代交代を牽引し、長きにわたり内側からジャイアンツを見てきた篠塚和典氏にヒントを聞いた。
[vol.2] 感覚を自分のものにするには“反復練習”が欠かせない!篠塚和典氏に訊く、巨人若手成長の鍵
篠塚氏が入団した頃のジャイアンツは、漫画『巨人の星』さながらの猛練習で知られる球団だった。長嶋茂雄監督が若手選手を集め行った「地獄の伊東キャンプ」などは伝説となっている。篠塚氏も、「厳しい練習は技術を自分の体に覚えさせるうえで非常に意味があった」と振り返る。徐々にスマートになりつつあるジャイアンツだが、篠塚氏はファームや育成段階の選手たちに、猛練習の必要性を説く。
※1 1975年の長嶋茂雄の監督初就任に伴いヘッドコーチに。76年に二軍監督を務め、翌年退団。その後は横浜大洋(1982~1984年)、ヤクルト(1987~1989年)で監督を務めた。当時49歳。
※2 V9時代を内野のバックアップとして支え、1974年~1977年まで二軍でコーチを務めた。当時35歳。
※3 「8時半の男」。リリーフ専門投手の先駆けとして活躍。当時37歳。
※4 1965年に20勝を挙げるなどして貢献したV9時代の先発投手。当時38歳。
※5 内野手。2014年ドラフト1位。2016年は出場3試合、10打席。
※6 内野手。2016年ドラフト1位。中京学院大。
※7 外野手。2015年ドラフト2位。2016年は出場25試合、87打席。
(プロフィール)
篠塚和典
1957年、千葉県生まれ。1974年、2年生にして銚子商の4番に座り、春夏連続で甲子園へ。春は8強、夏は優勝に導いた。1975年秋のドラフトで、長嶋茂雄監督の強い希望で読売ジャイアンツから1位指名を受け入団。1994年に引退するまでの19年で優勝8回、日本一3回を経験。引退後は、1995〜2002年、2005〜2010年と二度にわたりジャイアンツでコーチを務めた。2009年には野球日本代表の打撃コーチとしてWBCでの優勝にも貢献。