16歳で1部リーグデビューした名手ウーゴ・サンチェス

©ボルクバレット北九州

9月26日、Fリーグからリーグの選手登録に関するリリースが発表された。リリースで最も注目を集めたのは、バサジィ大分の日本代表FP仁部屋和弘が今シーズン初めてFリーグに選手登録されたことだろう。

そのリリースには、さらにFリーグ・ディビジョン2のポルセイド浜田にFP土屋良平が登録されたこと、そしてボルクバレット北九州に新外国籍選手が登録されたことが記されていた。その選手の名は、FPウーゴ・サンチェスという。Fリーグでは、21日にフウガドールすみだがFPガリンシャの加入を発表したばかり。少し年配のサッカーファンなら、「ガリンシャの次は、ウーゴ・サンチェスかい!」と突っ込みたくなるような展開だろう。

このメキシコの英雄と同じ名前の29歳は、スペイン人だ。ウーゴは6歳の時、2014年にフットサル日本代表が練習試合を行ったアスカル・ルーゴの下部組織でフットサルを始めた。スペインの子供の多くは、フットサルとサッカーを並行してプレーするが、彼がサッカーをプレーしたのは、小学生のころの1年だけだという。

20m×40mのピッチで戦術眼や技術を磨いた少年は、弱冠16歳のときにアスカル・ルーゴのトップチームに昇格する。このときチームを率いていたのが、今も「大きな影響を受けた指導者」という現フットサル日本代表のブルーノ・ガルシア監督だった。その後、ベニカルロ、サンタ・コロマ、C.D.ブレラとクラブを転々とし、2013年にサンティアゴ・フットサルに加入する。そこで2017/2018シーズンまでプレーしていたが、同シーズンにチームは2部降格が決まってしまう。

サンティアゴ・フットサルに加入2年目から4シーズンにわたってキャプテンを務めていたウーゴには、スペイン1部リーグの複数クラブからオファーが届いた。しかし、すでに14シーズンをスペイン1部リーグで戦ってきたスペイン人のバランサーは、新たな挑戦を欲していた。そんなときに連絡をとったのが、ボルクバレット北九州の監督を務める馬場源徳だった。

関係者の間で「日本フットサル界のビエルサ」とも称される馬場源徳は、朝から晩までフットサルのことばかり考えている、まさにフットサルの狂人だ。現在はF2の北九州で指揮を執っているが、6年に渡ってスペインのサンティアゴ・フットサルで仕事をし、庶務からトップチームのアシスタントコーチまで、あらゆる仕事をこなしてきた経験を持つ。当然、トップチームとの選手たちとも深く交流しており、このときにウーゴとも知り合っていた。

2人は馬場が日本に帰国してからも連絡を取り合い、互いに日本とスペインを行き来するなど交流を続けていた。そしてウーゴは北九州の監督となった馬場から日本のフットサルの話を聞くとともに、「1選手以上の意味を持つ、選手を獲得したい」という相談も受けていた。

北九州と馬場が抱えた「今なのか」という葛藤

スペインの2017/2018シーズンが終わってから、馬場と連絡を取ったウーゴは、「サンティアゴの2部降格は僕にとって人生の分岐点だ。1部のクラブからもオファーを受けているけど、新たな挑戦をしようと思っている」と、打ち明けた。

これを聞いた馬場だが、即座にウーゴに獲得をオファーすることはできなかった。「クラブのみんながF2で頑張っている中で、明るいニュースを出していきたい。また、みんなが学ぶ対象となる選手がクラブにいれば、選手もクラブももっと成長できる」と、クラブが発展していくうえで、近い将来の外国籍選手獲得を考えていた馬場にとって、ウーゴは願ったり叶ったりの存在だった。

だが、現実問題として馬場が指揮を執っているのは、日本のクラブ。しかも今シーズンできたばかりのディビジョン2で、中位に甘んじている。アリーナこそFリーグ・ディビジョン1の基準を満たしているものの、まだ資金面などでディビジョン1昇格の基準を満たすことができていない。スペイン1部リーグでも、十分プレーできるだけのプロの実力者を、アマチュア選手しかいないクラブが今、このタイミングで獲得するべきか。その確信が持てなかった。

「彼には『一人の選手だけど、一人の選手以上の活躍、クラブの成長を助けてくれる選手が欲しい』とは言っていましたが、当然、彼が現役のうちに来てくれるなんて思ってもいなかったので、『将来、スペインで引退したあとにでも来てほしい』とは言っていました。でも、何度か話して『あの話だけど、どうかな?』と切り出して、少しずつ彼に日本に来てもらえるように説得していきました」と、馬場は言う。

監督という立場からすれば、ウーゴは絶対に欲しい選手だった。「彼はゴールゲッターではなくて、ゲームメイカーやキャプテンで、戦術的に監督を助けてくれる存在です。我々が目指したい、九州でやる純正なフットサルを目指すには、こういう選手が一番の材料だと思います。監督がどれだけ口で言ってもできないことを、やってくれる選手がいればいいですよね。トレーニングの理解力、解決能力、そして練習や試合の向き合い方。6歳からフットサルをやっているという意味でも、我々が今、一番求めている人材でした」。

そう言ってから、「というよりも今のボルクバレットには、少しだけ早すぎる人材でもありますよね。昨シーズンまでスペイン1部のサンティアゴでキャプテンを務めていた選手で、パワープレーの守備も攻撃もやるような、バリバリの中心選手です。サンティアゴが降格してからも、彼と同レベルの選手はみんなスペイン1部リーグのクラブに移籍しました。Fリーグのディビジョン1でも通用する選手ですからね」と、馬場は苦笑する。

大輪の花を咲かせる可能性を秘めた北九州の重大発表

決して資金が有り余っているわけではない。クラブとしても外国籍選手を獲得できるレベルにあるのか、馬場はフロントとともに「今、取るべきなのか」と、何度も議論を重ねたという。「フロントもですが、コーチングスタッフも僕とアシスタントコーチが一人しかいない状態です。簡単な決断ではありませんでした。それでもクラブとしても、いつか外国籍選手を獲ることになる。北九州でフットサルをプロスポーツにしたい。本物のスペイン人もたくさん連れてきたい。最終的には『いつかやらないといけないことだよね』と話して、ちょっと前倒しになるけれど、ウーゴを獲得しようということになりました」。

フロント、コーチングスタッフともに迷い、悩み抜いた末に出した決断は、『ここから北九州の、九州の、日本のフットサル界を盛り上げていく』という気持ちと覚悟の表明でもある。すでに北九州は今年だけでもスペインから4人のコーチを招聘し、選手たちへの指導を行った。来月も別の指導者が来日する予定であり、こうした活動はFリーグ・ディビジョン1のクラブとも一線を画している。さらにスペイン1部リーグでプレーできる実力者のウーゴが加入するのだから、Fリーグ・ディビジョン1で満足のいく出場機会を得られずに悩んでいる若手には、期限付き移籍先として強くお薦めしたい。

住友金属(現鹿島アントラーズ)にジーコがサッカーを伝えたように、北九州でフットサルの伝道師となることが期待されるウーゴも、前向きな姿勢を示している。日本という異国の文化に触れつつ、トップチームの練習に参加するだけでなく、ジュニアの練習にも顔を出して、子供たちと触れ合っているという。

ロベルト・カルロス参戦に一時的に沸き、普段の静けさを取り戻している感の強いFリーグ。「悪魔の左足」の現役復帰に比べれば、瞬間的な話題性には乏しい。それでも北九州が蒔いた種は、将来的に大輪の花を咲かせる可能性を秘めている。ファンの方には、29日のヴィンセドール白山戦でFリーグデビューを果たす予定のスペイン人選手のプレーに、ぜひ注目してもらいたい。

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河合拓

2002年からフットサル専門誌での仕事を始め、2006年のドイツワールドカップを前にサッカー専門誌に転職。その後、『ゲキサカ』編集部を経て、フリーランスとして活動を開始する。現在はサッカーとフットサルの取材を精力的に続ける。