フットサルは、サッカー選手の“セカンドキャリア?”

最初にお伝えしたいのは、「フットサルが、サッカー関係者から必ずしも見下されている」ということはないということです。そういうケースもあるのかもしれませんが、今回お話を伺った中では「見下されている」と感じている方はいませんでした。
 
ただ、両競技の距離はあるようにも感じます。現役のサッカー指導者の中には、「そもそも現役時代にフットサルを知らなかった」という方もたくさんいらっしゃいます。認識としてはミニサッカー、スモールコートでの少人数でのウォーミングアップやゲーム感覚で取り入れられている印象だったそうです。
 
ピッチの狭さ、ゴールの小ささ、プレー人数の違い(11人と5人)、ポジションの概念の違い、オフサイドがないこと……サッカーとのリアリティの差を懸念され取り入れられていない向きもあるようです。その反対に、フィジカルに劣る選手、キック力がない選手からすれば、フットサルのほうが好ましいと感じる面もあります。
 
また、フットサルをやっている子ども達が少ないことも1つの要因として挙げられます。幼稚園・保育園、小学校・中学校・高校のフットサルチームはまだまだ多くありません。親御さんからはフットサル=友達との遊びと受け取られ、練習があるということすら理解されていなかったそうです。フットサルの知見に関する不安から、コーチ志望者も少ないのが現状です。
 
ピッチ環境やボールの面も、ネックになっていることがあるようです。例えば、屋内コートや人工芝でのプレー、フットサルボールの購入という経済面での負担がハードルとなり、普及を妨げている面もあります。
 
さらに「フットサルはサッカーで成功できなかった選手のセカンドキャリア」というイメージもあるようです。サッカーでは通用しなかったり、フィジカル的に厳しいと判断した選手の、次の選択肢でもあったようです。ブラジルやスペインのように幼少期からフットサルを始め、成長と共にサッカーかフットサルを選択するという時代になってくるのが1つの理想かもしれません。
 
「フットサルは、本当にサッカーに生きるのか?」という懐疑的な声もあります。これは、まだまだ時間がかかるかもしれません。フットサル出身選手というくくり自体まだ特別であり、もっとたくさんの選手が出てきてほしいところ。また、現状の「フットサル出身選手」にはドリブラーが多く、決定力のあるフォワードやゲームメイクできる中盤の選手、アンカーやセンターバックの選手が出てきてこそ、サッカーに生きるという声が定着するでしょう。

競技としての認識、理解ができていない

トップリーグの差も大きいと感じます。Jリーグがビジネスとして成り立っている一方、Fリーグはまだまだ発展途上。フットサルはトップ選手でも兼業が多く、資本に大きな差があります。フットサルの監督はそれなりのバックボーンがなければチームを率いることができないのですが、生活を理由に監督オファーを断わらざるを得ないケースも。

長く東海地方に暮らすサッカーコーチのお話では、フットサルは現役時代には関東で盛んだった印象で、自分たちにはサッカー以外の選択肢はない部分があったようです。また、フットサルは足元の技術に特化していて、「視野が狭くわがままなタイプの選手になる」という誤解もサッカー界にはあるようです。
 
ホームタウンにJリーグもFリーグもある地域で、育成からトップまで指導経験のある指導者に伺った意見としては、「そもそも競技としての認識、理解が出来ていない」という面も。理解出来ないことを理解しようとするのか、排除するか。サッカーを長年やってからフットサルに入った人に伺うと、サッカーをやっている時には理解できなかったことがどうしても多いようです。
 
もう1点指摘があったのが、「サッカー界には、プレーモデルやコンセプトの存在を認識している人が少ない」ということ。プレーモデルが理解できれば、フットサルとサッカーの違いは人数や環境やルールの違いによる「有効なプレーモデルの違い」という見方もできます。それがわからないと、フットサルそのものの否定に繋がる可能性もあるわけです。

フットサル指導者からみたサッカー指導

フットサル指導者からサッカーの指導を見ると、アバウトに感じる面も多いようです。例えば、サッカーでは早い段階から3人目の動きを導入しますが、その基礎である2人組のプレーをあっさり通り過ぎるケースが多くあります。結果、対策されると応用が効かないのです。「個」の次が「チーム」単位になる指導をする方が多く、個人プレーの修正やフォーメーションの変更しかできないように映ることもあるそうです。
 
経験則、感情論、抽象論、結果論が多く、その場限りの非科学的な指導も目につきます。選手からすると基準が見えず、「何とか監督の言われた通りに」となってしまいます。結果、ピッチ内の事象に気付かず、短絡的なハイスピードでの個や走りの勝負になり、「1対1が11個ある」という発想しか出てきません。ペア、トリオ、ゾーンの概念については認識自体が希薄で、継続性、発展性がない。情報量が少なく、時間作りやスペース認知などの概念が未発達で、臨機応変さにも欠けているようにも見えます。
 
現有戦力と次の対戦相手、という短期計画に基づいたプレーモデルやシステムを構築する方が多いのも特徴です。そもそものコンセプトの設定が不明瞭で、設計図なしに即興で対応して行く傾向が強く、設計図を持つことを「机上の空論」と見なす風潮も感じます。
 
認識や認知に影響を与える、データ分析やテクノロジーの活用という面でも抵抗があるようで、ビデオを用いたプレーの論理的解析を導入をしているサッカー現場はまだ少なく、リアリティに欠けるトレーニングも見られます。

なぜサッカー強国でフットサルが普及しているのか

ブラジルやスペインを始め、サッカー強国の多くの選手がフットサルを経験しています。これは、下記のような多くのアドバンテージが得られるからだと思われます。
 
○1人1人がボールに触る機会が圧倒的に多い
○子どもにとってコート、ボールのサイズが合っている
○スペースを活用する能力を養い、ハイプレッシャーに慣れる
○戦術メモリーと決断力が養われる
○ボールを持っている時のプレーが向上する
○ボールを持っていない時の動きの質や種類、細かな状況の認知、サポートの仕方を学べる
〇ボールを持っている選手だけでなく、ボールを持っていない選手同士での連携を意識できる
〇身体の使い方やボールを奪う為の個人での守備と戦術的なグループでの守備を学べる
○長短のボールの使い方と対処法が学べる
○バスケットやハンドボールのレーン理論や戦術など他競技の要素も学べる
○連携の最小単位である2人組の関係を徹底して学ぶことができる
 パスラインやコンビネーションの基礎となる2人組での出し手と受け手の太い幹を作れる
〇再現性が高く、局面毎の練習に最適
〇コンセプトの実現や選択したプレーの成否が結果となってわかりやすい
○フットボールのロジックを学べる
〇戦術的なインテリジェンスが養われる
〇情報処理キャパシティと処理スピードが上がる
○何より楽しく面白い

ゴール前でのプレーが多く、失点に直結しやすいミスが起こりやすいこと、運ぶドリブル(パス)、仕掛けるドリブル、晒すドリブル、貯めるドリブルなどドリブルの種類を感じやすいこと、試合の流れが入れ替わりやすいこと、セカンドボール予知能力が向上すること……様々なメリットがあります。

「フットサルができる選手は、サッカーを上手にプレーする」

以前、全日本選手権を制したフットサル選手にこんな話を聞きました。
 
「フットサルを始めた頃は、サッカーで培ったものそのままにプレーして勝つこともできた。けど、ある試合で本格的なフットサル専門チームと対戦し、カルチャーショックを受けた。何もかもが違って、いいようにやられてしまった。
 
ボールを持たれる前からすでに優位な状態を作られ、身体を当てることもできず、見たこともないシステムのボール回しに翻弄された。ボールを持っても、すぐに奪われる。フットサルの何たるかを実践するチームと対戦して、本当にフットサルが面白くなった。プレーも変わった」
 
指導者育成の内容にも違いがあります。筆者自身、サッカーの指導者ライセンスも、フットサルの指導者ライセンスも取得経験がありますが、フットサルの指導者講習の内容には驚かされた記憶があります。本当に細かく具体的で、論理的で、指導内容にしても非常に厳しく徹底された覚えがあります。認知・決断・実行の戦術的行動プロセスが明示され、競技構造面から考えられた戦術解決策も豊富に用意されており、選手を観察・分析・評価して指導する為の指針や規準もありました。
 
教本の作成にはスペイン人指導者が関わっていたとのことで、スペインの体系化された指導内容が入っていたわけです。こういったものは、同じ協会内でサッカー界にももっと反映されても良いのではないでしょうか。
 
サッカーの指導者ライセンスでは最近になって認知のプロセスについての言及がなされてきましたが、認知科学の領域からの資料提供やサッカーの構造やコンセプトが体系化されたものなどもさらに出てきて欲しいところです。
 
周辺視野や直接・間接視野などのスポーツヴィジョンの具体的な手段、選択的注意力と分割、脳トレとエクササイズ、食事改善など科学的に証明されているものが大学などでアカデミックな研究がされているにもかかわらず、サッカー界では現場との連携が不十分で活かされていないケースもあります。「サッカーはバスケットやハンドボールに近づいている」という論調もありますが、それら他競技を取り込んで発展していったフットサルが軽視されているのは学びとしては非効率な面もあるでしょう。
 
流行りや一過性ではなく、論理や体系として、サッカーやフットサルとはどういうスポーツで、どういう構造で、どうやったら上手くいくのか、相手に勝てるようになるのか、ある意味学術的であり、論理的であり、強い相手にどうやったら勝てるか……フットサルではそういったものが論理的に考えやすく、考えざるを得ない部分もあります。
 
サッカー指導者も、フットサルのロジカルな情報を欲している部分はあると思います。サッカーにしろフットサルにしろ、フットボールをプレーするためには何も考えないで自由にやろうとしてもできないし、基準を持っていなければ決断しようがありません。自分勝手にやりたいことを感覚でやる、それはこのスポーツの本質から外れていること。お互いに学び合い、活かしあえれば良いのではないでしょうか。
 
スペインの某監督はこう言っていたそうです。「サッカーができても、フットサルがうまくできるかは分からない。だが、フットサルができる選手はみなサッカーをうまくプレーするだろう」
 
<了>

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