羽生結弦が出るかどうかで視聴率は大きく変わる

「フィギュアはテレビ界においてはドル箱。ゴールデンタイムでも安定した数字が期待できます。浅田真央さんが現役だったころは、20%超えも珍しくありませんでしたし、それ以降は多少落ちたとはいえ平均15%は超えています。宇野昌磨選手らもがんばってはいますが、羽生選手が出るかどうかで視聴率は大きく変わる。いまでも羽生選手の演技の瞬間だけは20%を軽く超えるんです。日本での視聴率は、業界全体のスポンサー収入に直結する。今回、羽生選手の参戦したことで放送するテレビ朝日やスポンサーは大喜びしたことでしょう」(広告代理店関係者)

プロ野球の人気カードでも数字が取れず、ゴールデンタイムの地上波放送はほとんど実現しない現在のスポーツ界。フィギュアスケートの視聴率は、W杯前のサッカー日本代表戦にも匹敵する。当然、関係者の誰もが今の人気を維持したいと考えているのだが、フィギュアの取材を続けるあるスポーツ新聞の記者は、その最大のキーマンである羽生の様子が気にかかっているという。

「試合後のインタビューでは勝利にこだわる姿勢をアピールしていましたが、五輪を連覇したことで、モチベーションが下がっているのではないか、と思います。今大会でも勝つためだけなら必要ないレベルの難易度の高いプログラム。もはや彼の関心は、自分フィギュアを完成させること。今回はまだ未完成ということでやりませんでしたが、次の目標として公言している、公式戦で4回転アクセルを成功させたら、その先の目指すところはどこになるのか、プロに転向もあるのではないかと囁かれています」

羽生や高橋大輔が出場しないと完売にならない選手依存の弱点

浅田真央や高橋大輔、羽生結弦の活躍で大人気となったフィギュアスケートだが、日本では長年マイナースポーツとして扱われてきた。“数字をとれる”人気スポーツとなったのは、2006年トリノ五輪で荒川静香が金メダルをとって以降のことだ。

「もともとフィギュアはヨーロッパやアメリカで人気のスポーツ。シーズンオフに行われるアイスショーには大勢の観客が訪れます。ただ日本と異なるのは、ヨーロッパにおけるフィギュアのメインは男女で行うアイスダンスだということ。日本ではシングル競技がメインのように思われていますが、ヨーロッパでは氷上の華麗なダンスを楽しむファンのほうが多いんです」(前出・スポーツ紙記者)

実は、そこに日本フィギュアの問題点が隠されている。

「欧米にはフィギュアという競技そのものを楽しむ文化がありますが、日本の場合、選手個人のファンが多い。競技に復帰した高橋大輔も羽生結弦もメインのファンは、おばさま方で、はっきり言ってしまえば、ジャニーズや演歌歌手の追っかけと同じ(笑)。だから羽生や高橋が出るアイスショーはすぐに完売になりますが、それ以外の選手だとなかなかチケットがさばけない。浅田真央も引退後に自身でアイスショーをプロデュースしていますが、大きな会場を埋められるほどではない。彼女は視聴率は持っているけど、動員はそれほどでもない。テレビで応援したいタイプの選手なんです。華やかさでいえば、羽生以上の存在はなかなかいません。選手個人ではなく競技自体の人気がもっと上がらなければ、羽生の引退で一気に人気が落ちる可能性もあります」(テレビ局関係者)

羽生の次のスターが誕生しないと再びマイナースポーツに逆戻りも

スポーツがひとつの文化を形成していくために欠かせないのは、その競技の経験者だ。リトルリーグや野球部の出身者がプロ野球のファンになり、サッカー部の出身者がJリーグのファンになる。だが、フィギュアスケートの経験者は、それらに比べると悲しくなるほどに少ない。

「本格的にフィギュアを始めたいと思っても、練習場や教えられるコーチの数が限られているんです。常設のリンクは東京、横浜、名古屋、仙台、福岡などごくわずか。しかも競技を続けるには、莫大な金がかかる。練習場所を確保し、コーチや振付師を雇い、音楽や衣装を用意し、さらに海外への遠征費もかかる。最低でも年間1000万円は必要です。いまその資金をスポンサー契約料でまかなえるのは、男女あわせても羽生と平昌五輪銀メダリストの宇野昌磨くらいでしょう。他の選手は、アイスショーなどのギャラでなんとか競技を続けている状態です」(前出・スポーツ紙記者)

競技自体の人気上昇が望めないとなると、やはり頼みは個人の人気。フィギュア人気を支え、維持するための“ポスト羽生結弦”の候補はあらわれるのか? 男子なら宇野、女子なら宮原知子や坂本花織、本田真凜など次の「北京五輪世代」も奮闘しているが……。

「浅田真央の物語性や羽生の圧倒的な華やかさ。若い選手たちには、まだそういうスターの要素が欠けている。演技や勝利だけではないドラマティックな要素が必要だと思います」(前出・テレビ局関係者)

荒川静香が火をつけ、浅田真央・高橋大輔が盛り上げ、羽生結弦が大きく育てたフィギュア人気。彼らに並ぶようなスターが早く出てこなければ、再びマイナースポーツへと逆戻りする可能性もある。


星野三千男