まずは日米のツアーで2018年シーズンのスタッツから振り返るとドライビングディスタンスでPGAツアーのトップはロリー・マキロイの319.7ヤード。国内男子ツアーのトップは三井住友VISA太平洋マスターズでプロ初優勝を果たした額賀辰徳の302.93ヤードとなっている。この数字だけを見ても日米でかなりの差があることはわかるが、世界で戦うために今は300ヤードのキャリーが必須だと言われている。
しかも恐ろしく感じるのは、より遠くへ飛ばすことが目的のドラコン競技と違い、ツアー選手は正確性も必要になる。要は世界のトップレベルの選手達はスイングをコントロールしつつキャリー300ヤードを達成させているのだ。ゴルフは飛ばしのゲームではないとよく言われるが、飛ぶことが勝つための条件という時代になりつつあるのは確かだ。

そんな中、PGAツアーでは若手の台頭も著しい。前述したダスティン・ジョンソンの2018シーズンのドライビングディスタンスは314.0ヤードで6位。2007年にプロ転向し、本格参戦し始めた2008年から10年連続でドライビングディスタンスのトップ5を外したことがなかったジョンソンが初めてベスト5から外れたのだ。その背景にはトニー・フィナウやトレイ・マリナックスら新しい力の活躍があるが、そんな中でも今最も注目を集めている選手がキャメロン・チャンプだ。
2018年のウェブドットコムツアーのドライビングディスタンスでトップに輝いており、その数字は驚くべき343.1ヤード。ウェブドットコムツアーで優勝したユタチャンピオンシップでは、430ヤードを飛ばしたという記録が残っている。どんな大男かと思いきや身長は183センチで体重が約80キロとツアーでは平均的。見た目はスラッとした印象さえある。2019年シーズンはPGAツアーに参戦しており、12月16日現在のデータではドライビングディスタンスは328.2ヤードでトップを走っている。ツアーというカテゴリーで考えると現段階で最も飛ぶ男はこのチャンプと言っていいのではないだろうか。シーズンが終わった時にどのようなランキングになっているのかが今から楽しみだ。

ちなみに日本の松山英樹は、2018年は302.0ヤードで49位。日本ツアー時代は飛ばし屋とまではいかなくとも飛ぶ部類だったが、アメリカでは平均的。ただ、PGAツアーで勝つためには飛距離を落としてでも選択しなければならないこともある。飛距離に固執することは体への負担も大きく、選手生命にも関わる恐れもある。そのあたりのせめぎ合いを常に行いながら戦っているのだ。
日本人というわけではないが、日本ツアーに参戦している選手の中に飛距離という面で世界から注目を集めた選手がいる。チャン・キムだ。2018年シーズンは腰を痛めた影響で2018年の3月から試合には出場していないが、日本ツアーでは2016年、2017年と2年連続でドライビングディスタンス王に輝いている。2017年の数字は314.24ヤードと世界でもトップレベル。2017年に出場した全米オープンや全英オープンでも話題になったほどだ。2019年は万全の状態で臨むとコメントしているだけにプレーと共に彼の今年の飛距離にも注目したい。

道具とボールの進化により、平均飛距離はツアーのデータを見ても確かに伸びている。一発の飛びという観点では、それほどではなくても平均飛距離という面ではこの10年でかなりアップしていると言える。毎年、新発売されるクラブの謳い文句通りに飛距離が伸びていたら誰もが400ヤードを達成してしまうが、平均飛距離という見方をすれば間違ってはいないのだろう。飛びの性能というよりはミスの幅を軽減させる技術がより進化しているのが今のクラブなのかもしれない。そう考えるとアマチュアはもちろんだが、よりミート率が高いプロこそ道具の恩恵を受けているのかもしれない。

道具の進化について話したが、そんなことは全く関係ないのでは?と思わせるデータがある。1974年に開催された全米シニアオープンで記録された515ヤードという数字だ。この数字を叩き出したのはマイク・オースチン。ドライバーの飛距離に関しては、コースのロケーションや風、気圧など様々な状況が関係するが、それにしてもこの数字は異次元だ。しかもこの時代のクラブといえばパーシモンにボールは糸巻きだったことは間違いないし、この時のオースチンの年齢は64歳。誰もが本当に!?と思うかもしれないが、この数字はギネスにも記録されている。

私自身も全く同じ疑心を抱いていた。オースチンのことを知ったのは2年ほど前のゴルフダイジェスト社の企画で取材を行ったのがきっかけ。この時の取材の内容を少し紹介すると、彼の理論はオースチン打法として今も受け継がれており、それを日本人でマスターしているのが小野克己さんと弟の賢司さん。この2人への取材によりオースチンのスイングがどのようなものだったのかを知ることになる。例えばフェースローテーションを行なわなかったり、左肩は回さずに下げる動きだったり、いわゆるセオリーと言われるゴルフのスイング理論とは違う部分が多々あることに驚かされた。その詳細はまたの機会に説明したいと思うが、不思議なのはこれだけの数字を残しながら、オースチン打法を受け継いだというPGAツアーの選手を見かけないということだ。もちろんトライして自分には合わなかったというプロはいるだろうが、もしもオースチン打法を忠実にマスターして、自分のものにできるプレーヤーが出てきたとしたら、まさに異次元の500ヤードドライブなんてことも実現するかもしれない。
そうなればコースそのものが対応できなくなるので、飛ばないボールなどのルール規制なんかができるかもしれないが。


出島正登