大切なモチベーション

 14試合が組まれた今年のLIVは2月に始まったが、香妻の姿はなかった。昨年終盤から続く腰痛の治療を最優先させたからだ。昨年を踏まえ、今年の活躍への青写真もあっただけに「移動が大変だったりする中、去年は無理して試合に出ていた部分があった。開幕に間に合わず、めちゃくちゃもどかしい気持ちはある」と話す。ただ、必要以上に焦ることはない。これもさまざまな国を転戦して精神的なキャパシティーが広がったからか―。「万全な状態で出ないと意味がない。時間があるのでしっかりと準備をして、万全にして出るのがベストだと思う」と冷静に語った。

 オフの間は主に日本で過ごし、治療は東京や大阪で週4回程度行っている。このほか、LIVの医師とも連絡を取り合いながら、盤石の状態に近づけようとしている。トレーニングも変えた。体の外側の筋肉を鍛えるものから、コアの部分に重点を移した。「腰周りの小さい筋肉から鍛えている。腰痛が出ずに強くするトレーニングで、一から見直して取り組んでいる」と週4回の地道な鍛錬を説明した。

 従来より家族と過ごせる時間が増えたのは、LIVに主戦場を置いた副産物だった。妻や幼い息子との貴重なひととき。「遠征から帰ってくると身長が伸びていたり、できることが増えたりと、子どもの成長は早い。子どもにプレーしている姿を見せたいので、まだまだ長く頑張らないといけないなと思う」。30歳の〝ジーニー(愛称)〟にとって、何物にも代え難いモチベーションとなっている。

頂点へのポイント

 今年の初参戦を予定しているのが4月25日からの第6戦メキシコシティー大会だ。初めてフル参戦した昨年、個人の最高順位は9位。ポイントランキングでは45位だった。予選落ちなしの3日間54ホールで争われ、会場には音楽が鳴り響くなど、既存のトーナメントとは一線を画すLIV。不慣れなシチュエーションにもまれ、2年目の目標を次のように掲げる。「去年はあまり優勝争いに絡めなかったので、今年は優勝争いをしていきたい」と日本選手初制覇へ明確に狙いを定めた。

 1大会の出場選手数は54人。ジョン・ラーム(スペイン)にブルックス・ケプカ、ダスティン・ジョンソン(ともに米国)ら世界ランキング1位の経験者をはじめ、海外のそうそうたるゴルファーたちとともに濃密なバトルを繰り広げた。レベルの高い争いを経験し「ショートゲームは良かったなと思う。今年はさらに磨きをかけたい」とグリーン周りの寄せやパットなど小技は通用するとの手応えを得た。

 まだ見ぬ頂点へ、鍵としてロングアイアンなどロングゲームを挙げる。ボールを打つ練習を少しずつ増やしているほか、ギアの面でもより良いものを指向している。「契約がフリーになり、いろんなメーカーさんの協力もあっていろいろ試すことができている。ドライバーは去年も満足していたけど、よりいいものを使うのが一番。ドライバーとかフェアウエーウッドを変えたりすると思う。ロングゲームが思うような形になってくると、優勝まで見えてくる」と貪欲な姿勢でレベルアップを図っている。

実体験に基づく視野

 歴史の長い米男子のPGAツアーでは松山英樹が今年の開幕戦で優勝し、相変わらずの存在感を示している。松山以外にも金谷拓実、星野陸也らがPGAに主戦場を移して奮闘中だ。積極的に海外へ挑む層があるが、香妻は世界の実情を見たからこそ、日本の若手に思うところがある。「日本のツアーで満足している選手も結構いるなと感じている。もっともっと海外に出て挑戦するべきだと思う。日本でシードを取っている選手たちは、海外に行っても通用する可能性は十分にある」と熱弁する。

 超高額の賞金はLIVの特徴の一つで、香妻は昨年の獲得額を4億円余りと明かしていた。それに意外にも多くのことを吸収した。LIVでは各ホールに選手が分散して一斉にスタートするショットガン方式。故に、選手たちは宿舎を含めて同じような時間軸で行動することが多いという。「練習やトレーニングでの時間の使い方とかアップのやり方とか、すごく参考になった。いろんな選手と話すことで意識も変わる」。間近で世界トップクラスの姿を目にしたことが、自身の進化へプラスになっている。

 昨年はLIVの合間を縫って出場した8月の日本ツアー、Sansan・KBCオーガスタを制し、同ツアー3勝目を収めて祝福を受けた。実体験を基に、理想像を次のように思い描く。「日本のツアーからLIVやPGAに行くなり、DP(欧州ツアー)に行くなりする選手が増えていくと、その選手たちが日本に帰ってプレーしたときにもっと盛り上がり、いい流れになると思う」と口にした。ワールドワイドな視野を持つジーニー。地球の至る所での活躍を期待せずにはいられない。


VictorySportsNews編集部