「4億ちょっと」
LIVは斬新なトーナメント形式を取り入れている。大会は3日間で予選落ちがなく、1大会の出場選手は原則54人。個人戦の他にチーム対抗戦としても争われ、会場には音楽が流れるなど、エンターテインメント性が目立つ。香妻は個人の最高順位が9位で、4月下旬のアデレード大会(オーストラリア)でマークした。「その試合もすごく盛り上がっていた。ギャラリーが騒げて楽しんでいるというのがLIVの特徴だと思う。最初は戸惑いがあったけどすぐに慣れた。音楽がガンガンに鳴っている中でやると、ギャラリーが動いたり音を出したりするのが気にならなくなる」と前向きに話す。
賞金額も目玉の一つだ。もともと、フル参戦を目指した理由について「まず賞金の大きさに魅力を感じた。それに、PGAだろうが欧州ツアーだろうが、今いる場所よりいいところでプレーしたいというのは常に思っていた。LIVが出てきて、すごい選手たちとプレーできるんじゃないかと思った」と説明している。今シーズンは個人別ポイントランキングでは45位に終わった。それでも、年間の獲得賞金について「4億ちょっとくらい。日本でのそれまでの生涯獲得賞金を3試合で超えるほど違いがあった」と明かす。日本ツアーの今季賞金トップが1億円台ということを考慮すると破格だ。
競技の開始は各ホールに選手が分散し、同じタイミングでスタートするショットガン方式。プレーする時間帯が同一ならば、宿泊するホテルもみんな同じで、選手たちの行動スタイルは自然と軌を一にした。ジョン・ラーム(スペイン)やブルックス・ケプカ、ブライソン・デシャンボー(ともに米国)ら世界の強豪たちとコース外でも身近に接触したことは有意義だった。「朝どんなトレーニングしているのかとか、何を食べているのかとか、小さいことだけど、そういったプレーヤーたちがどういう動きをしているのかが分かった。すごく勉強になった1年でもあった」と明かした。ちなみにラームはいろいろな料理を構わず食べ、デシャンボーは栄養素を考えて食べるものに気を付けていたという。
海外で分かった日本の優れもの
LIVは出場人数が少ないため、海外の一流選手と回る機会が常にある。それに加えてコース外でも刺激を受け、収穫は少なくなかった。プレー面では、トレーニングの回数を増やしたことなどにより、飛距離が伸びた。刺激となったのがケプカのトレーニング。スタート前でも重い負荷をかけ、強度の高いトレーニングを続けているのを目の当たりにした。「朝から大丈夫なのかな、と思うくらいケプカはやっていた。ジムでしゃべったとき『俺はこれくらいやっても大丈夫なんだ』と言っていて、自分も意識が変わり、量を増やした」と話す。以前はシーズン中に週1度程度だったが、現在では週3度。ドライバーショットで15~20ヤードほど飛ぶようになった。
今シーズンは2月のメキシコでの開幕戦を皮切りに米国や英国、サウジアラビアや香港、シンガポールなどを経て、9月の米テキサス州での最終戦まで14試合が実施された。本格的な海外転戦でさまざまな文化や人々との触れ合いを通し、性格面でも変化があった。「例えばサウジでお酒がなかったとか、文化の違いを感じる。いろいろな国に行くようになって、意外とどこでもできちゃうんだなと思った。そして自分の許容は大きくなった気がする。プレーでもそうだし、それ以外でも、他の人に多少無理なことを言われても、そういうのが当たり前なんだと思うようになった」と30歳の香妻は自己分析した。
海外に出たことによって、日本の良さを悟った。日本食のおいしさ以上に痛感したのが、宅配便制度の充実。日本では時間指定で次のゴルフ場へキャディーバッグを送っていた。「海外ではそんなこと、まずあり得ない。海外の選手たちはいつもバッグは自分たちで運んでいる。指定した時間に必ずバッグが着くのは、本当にすごいんだなと思った」。キャディーバッグには大事な商売道具が入っているだけに、神妙に語った。
先駆者としての高み
このほど朗報が舞い込んだ。来季のLIVに出場できることが発表されたのだ。所属チーム「アイアンヘッズ」でキャプテンを務めるケビン・ナ(米国)から電話があり、来年2月にサウジアラビアで行われる開幕戦を前に、米ネバダ州ラスベガスに集合して練習やトレーニングをする計画が伝えられた。メンバーとして溶け込み、日本の先駆者としての意識も芽生える。「LIVの各国選手たちからは日本人イコール僕というのは認識されていると思う。PGAでは松山(英樹)さん、LIVでは僕というのを言ってもらえたら、そういう立ち位置にいれるんだと意識はする。日本に帰ったときも恥ずかしいはプレーできないなとか、上位でプレーしなきゃなという気持ちになる」。言葉を証明するように、帰国出場した8月のSansan・KBCオーガスタ(福岡)では2年ぶりとなるツアー3勝目を挙げた。
サウジアラビアは人権軽視を問題視されることもあり、LIVには当初から反発が起こってPGAと対立していた。昨年6月に両団体が和解し、事業統合することで合意したとの発表がなされたが、11月末時点で具体的な進展は報告されていない。それでも、帰国した際には日本の選手たちからLIVの出場方法や強豪たちと回った感想など、よく質問を受ける。「賞金額や大会フォーマットはすごく魅力的なので、おのずといい選手たちが集まってくると思うし、競争は激化している。そこに負けないくらいの技術、レベルに自分もいなきゃいけないし、今のままでは駄目だなという認識はある」とモチベーションを口にする。
12月はスポンサーへのあいさつ回りなどをこなし、家族との時間を満喫する予定。本格参戦2年目の2025年。次のように目標を掲げた。「優勝したい。パット、アプローチは通用する感覚があった。長い距離を残したときにどれだけチャンスにつけられるかが重要なので、ロングゲームに磨きをかけたい」。〝世界のジーニー〟になる日は近づいている。