ディスカバリーは世界220の国と地域で50種類の言語で放送されているアメリカのネットワークチャンネル。この会社とPGAツアーがパートナーシップを組み、GOLFTVというブランドが設立され、アメリカ以外の国や地域でライブ放送やオンデマンドの国際的なビデオストリーミングサービスが開始された。2019年1月1日から日本でのサービスも始まっている。
PGAツアーで5勝を挙げている松山英樹に加え、今シーズンは2018年4月のRBCヘリテージでスポット参戦ながら劇的な勝利を挙げた小平智も本格参戦を果たした。世界中のトップ選手たちが集まる世界最高峰ツアーを日本で見るためには、予選ラウンドはCS放送のゴルフネットワーク、決勝ラウンドはBS放送のNHK BS1というのが従来のパターンだった。
だが、NHK BS1のPGAツアー中継ははっきり言ってひどかった。何がひどかったかというと、日本人選手が出場していない試合になると、優勝者が決まる前に中継が終わってしまうのだ。そして、何が始まるかというと、大谷翔平が出場するメジャーリーグのロサンゼルス・エンゼルスの試合である。
あらためて言うまでもないが、PGAツアーはゴルフの試合で、メジャーリーグは野球の試合である。ゴルフが見たくてテレビをつけているのに、急に野球の試合を見せられても困る。
そんな状況をPGAツアーも承知していたようで、PGAツアーとディスカバリーの陣営はゴルフネットワークとパートナーシップを組み、2019年から決勝ラウンドもゴルフネットワークが生中継できるようになった。PGAツアーを楽しみにしているファンにとって、非常にありがたいことである(NHK BS1も引き続き放映権を持っている)。
ただ、ゴルフネットワークも放送時間に限りがある。日本人の生活時間帯に合わせて早朝から生中継が始まるのが一般的なパターンだが、その時間帯に該当するのは現地時間の午後スタートで、午前スタートの選手のプレーはダイジェスト映像で流すしかなかった。メジャートーナメントになると、午前スタートの時間帯から生中継することもあったが、通常の試合でも午前スタートを生中継すれば、見たい人はいるはずだと感じていた。
GOLFTVはそのような期待に応えるべく、年間2000 時間以上のライブ放送を提供。また、PGAツアー傘下の 6 つのツアー団体が運営する年間 140 試合以上のPGAツアー コンテンツを放送するとともに、GOLFTVでしか視聴できないプレミアムコンテンツをオンデマンドで配信し、エンタメ性と情報提供の両方を兼ね備えたコンテンツをゴルフファンに提供していくという。
プレミアムコンテンツの一例として挙げているのは、タイガー・ウッズと独占グローバルコンテンツパートナーシップ契約を結び、「スキルアップのための練習方法と指導ビデオを配信」「タイガーの準備ルーティーンへの独占アクセス」「PGAツアーのラウンド前後の舞台裏へのアクセス」「ラウンド後のコメントを独占配信」などだ。
有料版には「GOLFTV LIVE PASS」と「GOLFTV PRO PASS」の2種類があり、「GOLFTV LIVE PASS」が月額999円、年額8999円。「GOLFTV PRO PASS」が月額1499円、年額12999円。まだサービスが始まったばかりなので、日本人にとって不親切に感じる点はいろいろあるが、今後は世界のゴルフ視聴が大きく変わるのではないかという可能性を感じる。
GOLFTVのサイトを見ると、このサービスはPGAツアーだけではなく欧州ツアーや欧州女子ツアーもコンテンツとして視野に入れていることが分かる。2019年からサービスが始まったのは、日本以外にも、オーストラリア、カナダ、イタリア、オランダ、ポルトガル、ロシア、スペインなど。2020年は韓国、タイ、インドネシア、ポーランドなどにも進出。2021年は中国、ドイツ、南アフリカ、2022年はイギリス&アイルランド、インド、スウェーデン、2024年はフランス、中東などに拡大していく構えだ。
日本ではゴルフ人口の減少が懸念されているが、世界に目を向けるとゴルフに対する注目度はますます高まっていくと予想されており、ディスカバリーは世界中のゴルフツアーを世界中で見られる環境を作るために、約2200億円を投資したわけだ。
世界のトッププロも、今はPGAツアーと欧州ツアーを行き来する選手が多くなっている。日本人選手も松山や小平がPGAツアーを拠点にするのに対して、谷原秀人、宮里優作、川村昌弘などは欧州ツアーに積極参戦している。
また、PGAツアーの下部組織であるPGAツアーチャイナで昨シーズン賞金ランキング4位に入り、今シーズンは米国本土のウェブドット・コムツアーに参戦してPGAツアーへの出場権獲得を目指す小斉平優和といった若手選手も出てきた。
さらに、PGAツアー3勝の丸山茂樹は今年9月に50歳になるので、日本のシニアツアーに該当するPGAツアー・チャンピオンズへの参戦に強い意欲を示している。
これらの選手を既存のメディアがフォローするのは難しい状況だったが、GOLFTVのサービス開始によって、すべてを網羅することができるかもしれない。
ゴルフ界にも黒船襲来!?2200億円のビッグマネーでゴルフ視聴が変わるか
Jリーグが2017シーズンから10年間、DAZN(ダ・ゾーン)と約2100億円の放映権契約を結んだことは多くの人に驚きをもたらしたが、PGAツアーが2019年から2030年までの12年間、Discovery(ディスカバリー)と約2200億円の放映権契約を結んだことも、近い将来、ゴルフファンに大きな驚きを与えるかもしれない。
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