公開1ヶ月を待たず、観客動員100万人を突破。埼玉を徹底的にディスる映画『翔んで埼玉』が予想外の大ヒットを記録している。全国に先駆けてスポーツでさいたま市を盛り上げ、ブランドをつくろうとさいたま市と池田氏がタッグを組んで立ち上げた、一般社団法人さいたまスポーツコミッションの会長もつとめる池田氏は、映画タイトルを目にした段階で、このヒットを予想していたという。

「映画にかかわらず、ヒットする商品というのは、そのときどきで社会が抱えている課題が背景にあるときに、その延長線上でタイミングやテーマ、内容が合致したときに生まれやすい。これがマーケティングのセオリーです。

私は以前製菓会社の企業再建・再生を手がけたことがあるのですが、当時は“ハゲタカファンド”とも呼ばれた外資系のファンドが大きな話題というか社会的脅威になっていた時期でした。小泉政権、竹中大臣の頃で、日本の企業の競争力の低下、買収、再生などが大きな社会課題になっていた時期です。そこに日本のファンドが登場し、倒産した老舗製菓会社を買収し、企業再生に乗り出すということで、大きな話題になり数々のヒット商品が生まれました。日本型企業再生のモデルが社会で注目され、その製菓会社は社会でも話題になり、商品は社会的ブームになりました。

私が横浜DeNAベイスターズの社長をやる前は、横浜=ベイスターズというイメージはほとんどありませんでした。当時は今のように、サッカー、バスケ、卓球などのプロリーグも盛り上がっておらず、社会全体としてオリンピックは決まっていましたが、プロスポーツリーグがどうなっていくのか誰もまだ論じていない時代でした。横浜スタジアムには閑古鳥が鳴いていて、チームはプロスポーツ、プロ野球の底辺のような存在でした。社会的にも、子供が野球をやらない、野球人気の低下と懸念が叫ばれていた時期。もう野球なんて誰も観に行かない時代に向かうのではないかといわれていた、オリンピックを前にスポーツに対する社会課題が潜在的に存在していた大きな分岐点のタイミングだったので、その再生が話題になったんです。

映画でいうなら昨年の『カメラを止めるな!』の背景には、“低予算”というキーワードがありました。『翔んで埼玉』は“THE・地方活性化”です。地方の時代といわれてしばらくたちますが、いま各地域でさまざまな取り組みが行われ、多くの人々の地元意識が高まっている。そんなタイミングでなにもないと思われていた埼玉をテーマにした映画ができたわけですから、これはヒットするだろうなと直感したのです」


ダサいという言葉は、「だって埼玉だから」が縮まったものという説があるほど、東京に隣接するなにもない田舎というイメージが強かった埼玉。それを逆手にとって笑いに変えた『翔んで埼玉』を、埼玉県民がこぞって観に行っているというのがおもしろい。

「確かに埼玉にはこれといったブランドがありません。でもだからこそ、新しいイメージをこれから作ることができる土壌が存在しているのです。歴史的遺産や観光の目玉がある地域はどうしてもそこにしばられがち。でもなにもなければ、作っていけばいい。6年前からさいたま市がフランスからツール・ド・フランスをひっぱってきて、自転車レースなどのスポーツで盛り上げる取り組みをしています。浦和レッズや大宮アルディージャなどサッカーは頑張っていますが、それ以外はさいたま市に強いブランドイメージがなかったし、しばらくの間新しいイメージが生まれてきていないからこそできることです。

大きなレースだけではなく、もっと広く自転車文化を一般生活者にまでひろげていく取り組みができれば、もっとさいたまに自転車のブランドイメージがつくれる。こうして戦略的にスポーツの取り組みをひろげていくきっかけになれば、スポーツのさいたま、のブランドイメージは向上すると考えています。さいたま市がスポーツでブランドイメージの向上をすれば、さいたま市民は生活が楽しくなり、“住みたい街”ランキングが向上するなどメリットを感じる方々も増えるでしょう。

カープ人気が絶大な広島で、新しいスポーツを根付かせるのは難しい。でもなにもなければ、なにもないからこそ可能性がある。地域活性化の話になると、『うちの街にはなにもないから』という地方の方々がいます。でもまったくなにもない街なんて絶対にない。むしろイメージが固まっていないことを強みに考えて、新しいブランドを作っていくのが地方活性化のキーだと思います」


『翔んで埼玉』は自虐ネタ満載の映画だが、それでもブランドが作れるのだろうか?

「あくまでもこれは過程だと思います。映画を通して、地元愛が芽生える人が大きな“きっかけ”。『翔んで埼玉』から埼玉って元気だよね!と言われるようになり、引き続き戦略的に地域活性化を考えていければ、埼玉の眠っている“財産”が掘り起こされるきっかけになると思いますよ」


映画をきっかけに街が変わっていくのか。“アフター『翔んで埼玉』”にも注目していきたい。



[初代横浜DeNAベイスターズ社長・池田純のスポーツ経営学]
<了>

取材協力:文化放送

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VictorySportsNews編集部