SSCとは、どのような役割を担い、何を目指していく組織なのか。池田氏は「①スポーツイベントや大会の誘致と開催支援②ツール・ド・フランスの日本大会『さいたいまクリテリウム』の開催と自転車を活用した街づくり、自転車文化づくり③アリーナ戦略の立案・見極めとアリーナなどのハードと連携したスポーツ及びエンターテインメント文化の発展など、スポーツを通じてさいたま市の街づくり、地域活性化に取り組む行政と私が組んで生まれた組織」と説明する。

サッカーJ1浦和、J2大宮、ラフレさいたま、NTTデータ経営研究所、NTTコムウェア、ジェイコムさいたま、埼玉大学などと提携。さいたま市とその周辺地域にあるスポーツ施設群、宿泊施設などを活用、ネットワーク化する連携協定「さいたまスポーツシューレ」の運営母体という位置付けにもある。日本初の「スポーツを通じた地方創生」「スポーツを通じた地域経済の活性化」を実現する団体としてモデルケース、ベンチマークになることが期待されており、球団経営の収益性改善だけでなく、プロ野球を軸とした横浜市の地域経済への貢献を果たした実績などから、トップである会長職として、2017年12月からさいたま市のスポーツアドバイザーを務めていた池田氏に白羽の矢が立った。

3月19日には、さいたま市内で連携協定締結に関する記者会見が開かれ、池田会長、清水勇人市長のほか、J1浦和・立花洋一社長、J2大宮・森正志社長、埼玉大・山口宏樹学長、NTTデータ経営研究所・川島祐治社長、NTTコムウェア・阪本作郎副社長、ジェイコムさいたま・菊池孝太郎社長、ラフレさいたま・市川義明総支配人が出席した。池田氏は会見で「東京五輪・パラリンピックが開催される2020年以降は“地域”の時代が来ます。コンテンツをどう用意して、新しいさいたまのスポーツ文化を発信していくか。スポーツ都市としてのブランドを作らなくてはならない」と意欲を示し、清水市長は「民間を巻き込んでいくことで、スポーツを支援するとともに、スポーツのビジネス化、産業化につなげていきたい」と今後を見据えた。

今回のさいたま市とSSC、関係各社の連携で何が今後進んでいくのか。浦和の立花社長は、さいたま市桜区に2005年に完成した総合スポーツクラブ「レッズランド」の活用を挙げた。大宮の森社長は「アルディージャが持っているリソースには限りがあるが、スタジアム、コーチ、運営スタッフのノウハウは活かせるのではないかと思う。育成のデータなど次の世代につなげていければ」と説明。ラフレさいたまの市川支配人は「私たちは2002年日韓ワールドカップでブラジルチームを受け入れさせていただきました。スポーツチームの受け入れのノウハウを活かし、事業の創出につながればと思っています」と宿泊、研修施設などとしての役割を想定していることを明かした。

今後はより具体的、かつ大規模な事業展開が期待される一方、関係各社の発言からはまだ手探りの状態であることがうかがえる。浦和の立花社長は「これからいろいろなことを考えるスタート地点に立ったところ」とし、大宮の森社長も「リソース、ノウハウを活用しながら、さいたまに関わる皆さんに貢献していきたい」と話すにとどまった。

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その中で、具体的かつ注目すべき発言をしたのは、横浜で数々の話題を創出してきた実績を持つ池田会長だった。さいたま市では、これまで世界最高峰の自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」の名を冠した自転車競技イベント「ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」を実施しているが、この大会運営をSSCで担うことを踏まえ、自転車を通じた街づくり、さいたまに自転車のブランドイメージを作る戦略を提案。荒川の河川敷に自転車愛好家らが集えるクラブハウスや温泉施設を建設するといった一般生活者にまで自転車文化を広げ、「楽しいところに人が集まる」との考え方を地でいくアイデアを披露した。

さらに驚くべきは「1万人規模のアリーナ」の建設にまで言及したことだ。会見後、その真意について池田氏は「少子高齢化が進む中で、地方創生・地域活性化は結局のところ人口問題であり、人を呼ぶことが必須。楽しいものに人が集まる」と説明。スポーツやエンタメを誘致できる適度なサイズの「ハコ=会場」が、地域活性化のカギを握るとの考えには、清水市長を含めたさいたま市も賛同しており、今後の展開が注目される。

鎌倉が地元の池田氏だが「自分たちの持つ宝物に当事者は気付きにくいもの。改革、発展のカギは『よそ者、若者、ばか者』が握るという話をラジオで聞いたとき、すごく心に刺さりました」と話す。池田氏は、SSCによる「スポーツ都市さいたま」の実現に大きな社会的意義を感じるとともに、今後は5カ年計画で民間性を強め、株式会社化を目指す意向もさいたま市とともに持っているという。

映画 『翔んで埼玉』では埼玉県民の“自虐性”にスポットが当たったが、それも“地元愛”の裏返し。SSC並びに池田会長は「スポーツ都市」という前例のないブランドのパイオニアとして、さいたまを全国に本気で発信しようとしている。


VictorySportsNews編集部