日本陸上競技連盟の関係者は「優勝タイムは9秒台になるのではないか」とも話す。サニブラウン(9秒97)、桐生祥秀(9秒98)の激突で、9秒台決着になるかもしれないのだ。残念ながら、自己記録10秒00を持つ山縣亮太は欠場となったとはいえ、他にも10秒0台の自己ベストを持つ選手が4人も出場する。小池祐貴(10秒04)、多田修平(10秒07)、飯塚翔太(10秒08)、ケンブリッジ飛鳥(10秒08)。いいタイムが出そうな雰囲気だ。

今、9秒台の可能性が最も高いのはサニブラウン・アブデル・ハキーム(フロリダ大)で間違いない。立て続けに9秒台をマークしている。5月には9秒99(追い風1・8メートル)。6月5日のNCAA全米大学選手権準決勝では追い風参考記録ながら、9秒96。さらに中1日の決勝では追い風2・0メートル以内の公認記録の範囲内となる追い風0・8メートルの条件下、9秒97。桐生が持っていた9秒98の日本記録を更新した。サニブラウンは20歳を迎え、まさに走れば9秒台が出るという状態に突入しているのだ。

「サニブラウンは日本選手権に出る意味があるのか?」。そんな声を聞いたことがある。答えからすれば、サニブラウンにとって、日本選手権を勝つことは、9月に開幕する世界陸上(カタール・ドーハ)の代表権を得る上でも大切になるのだ。

追い風参考も含め、短期間に3度の9秒台と実力は抜け始めているサニブラウンだが、世界陸上の代表が安泰なのかと言えば、そうとも言えないようだ。日本選手権を優勝すれば、無条件で内定するのだが、それを逃した場合は、厳しい代表争いを余儀なくされるのだ。

どういうことか。国際陸上競技連盟が今季から正式に導入した世界ランキングで、サニブラウンは29位で、それは何と日本人4位なのだ。桐生の11位、山縣の18位、小池の25位を追う立場に置かれている。世界ランキングは、1レースのタイムを基にポイント化したものと、大会の格が加味された順位のスコアの合計得点となる。男子100メートルの場合、上位5レースの平均得点が世界ランキングの対象となる。桐生は1277点、山縣は1243点、小池は1223点。一方、サニブラウンは1216点となっている。

世界ランキング制度は一見、実力を反映していないようにも思える。カラクリは、この通り。トラック種目の場合、大会の規模によって10段階に格付けされ、順位による点数が変わってくる。桐生が男子100メートルでは日本人初優勝を飾ったアジア選手権は上から4番目となる「GL」のカテゴリーで、1位だと170点の順位のよる点数を獲得。山縣が10秒00の3位だった去年のアジア大会は、アジア選手権より1段下の格付け。そのカテゴリーは「A」で、同様に3位だと110点となる。小池が今年6月に走ったオスロ・ダイヤモンドリーグは上から3番目となる「GW」。結果は5位だったが、順位のよる点数を130点をゲットできた。一方、NCAA全米大学選手権は優勝タイムが9秒86というハイレベルながら、大会の格付けは上から7番目の「C」。日本国内のレースと比べても、「B」の日本選手権よりも低く、静岡国際などと同じとなる。その結果、NCAA全米大学選手権は1位でも、もらえるのは60点、3位だと、わずかに45点だけしかもらえない。レベルの割に合わない大会だったのだ。

日本選手権に関する話に戻す。日本陸上競技連盟が発表している世界陸上の代表選考は、大きく以下の通りだ。
①本選手権終了時点で参加標準記録を満たした日本選手権の優勝者。
現時点では、有効期間となる18年9月7日以降に参加標準記録(10秒10)を満たしているのは山縣も含め4人。桐生、サニブラウン、小池は日本選手権で優勝すれば、代表に内定できる。
問題は、サニブラウンが①を逃した場合である。残る2人(①が該当者なしの場合は3人)は「参加標準記録を満たし、2019年9月16日時点IAAFワールドランキングにおいて日本人上位」の順で決まるそうだ。

前述の通りサニブラウンは世界ランキングで日本勢4位。日本選手権で優勝を逃してしまうことになると、日本勢ランキング2番手の山縣か、3番手の小池、5番手となる39位多田(1197点)らとのポイント争いとなる。

もちろん、サニブラウンは今後、ダイヤモンドリーグなど海外の格付けの高いレースに出場することで、世界ランキングも上がっていく可能性は高い。ただ実力が必ずしも反映されない世界ランキングで、世界陸上の選考をされることになってしまうことには変わりはない。またNCAA全米大学選手権、日本選手権と緊張感あるレースを戦うサニブラウンだが、休みなく、夏も大きなレースに出ることを求められる。

日本陸上競技連盟の関係者によると、打倒サニブラウンへ、他の選手も目の色を変えているという。見逃せない戦いになりそうだ。

星野泉

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