分厚い防御と臨機応変にスペースを突くキック戦術で存在感を誇示。クルセイダーズの指揮官として国際リーグのスーパーラグビーを5度制したディーンズら世界的なコーチとの繋がり、海外の大会への参加数の多さも魅力とされた。国内の有望株も数多く採用するなか、看板選手の1人だった山田章仁は「人と人との距離が近いのも魅力なんじゃないですかね」。前身の三洋電機時代から群馬県太田市の在籍したクラブでは、名だたる実力者がカントリーに位置するグラウンドやクラブハウスで、ランチの種類が多い飲食店で、ショッピングモール内の大手コーヒーショップでコミュニケーションを取っている。実力者たちが、都市部では実現しづらい連帯感を保つ。

しかし近年は、スーパーラグビーにできた日本のサンウルブズに多くの選手を派遣したことなどから、個々のコンディショニングなどにやや難儀。昨季も日本代表経験者、ニュージーランドなど世界ランク上位国の代表経験者をそれぞれ18名、4名を在籍させながら、12月のトップリーグ順位決定トーナメントで4強入りすら逃してしまった。さらに今季を迎えるに際し、オーストラリア代表51キャップ(代表戦出場)のベリック・バーンズが退団。日本代表69キャップで日本人初のスーパーラグビープレーヤーである田中史朗、同25キャップで人気者の山田章仁は環境を変えることでの自己成長などを求め移籍した。それぞれ司令塔のスタンドオフ、パスを供給するスクラムハーフ、トライを決めるウイングのレギュラー選手で、それぞれ的確にスペースを射抜くプレー選択や周囲との緻密な連携で、組織を下支えしてきた。他にも熟練者が抜けたとあって、変革期の到来を予感させていた。

6月22日、埼玉・熊谷ラグビー場。トップリーグの前哨戦にあたるカップ戦が始まった。下部リーグ加盟勢を含めた計24チーム(辞退したトヨタ自動車も含む)が計4グループに分かれておこなうこの大会では、今秋のワールドカップ日本大会へ出場しそうな選手を除いた隊列で試合をする。この日のパナソニックはフッカーの堀江翔太などの日本代表勢を欠き、大量加入した新外国人選手ら9名が同部での公式戦デビューを飾る。試合は昨季昇格したての日野に31―29で辛勝した。経験者の移籍加入が盛んな日野は、故障離脱者以外はベストメンバーを揃えたなか、かつてディーンズのいたクルセイダーズ仕込みのアタックを機能させる。パナソニックは序盤こそ軽快に攻め一時31―10としながら、時間を追うごとにスクラムでの反則や防御の乱れからトライを与えた。失点後の円陣を望遠鏡で覗けば、コーチ陣とトランシーバーで繋がるウォーターボーイが選手へ発言する場面が多かった。

しかし現場にいる選手は、前向きな姿勢を崩さない。入部7年目でゲーム主将となった谷昌樹は、円陣のなかでの出来事を「次に何をするか、どこにアタックするかなどについて、皆で目を向き合って話していました」と強調。さらに続ける。「外国人選手が多いなか、新外国人選手の積極的な発言に皆が耳を傾けたり、通訳の方に間に入っていただいたりしてひとつになれた」

帝京大出身の新人ウイングでゴールキッカーとしても請われる竹山晃暉は、代表活動の合間の堀江と話し合ったとしてこう訴える。「色々な方との話し合いでも、世代交代の時代が来ているんじゃないかという声が出てきています。堀江さんの話を聞いていると、『いま、パナソニックの停滞期に入っているとしても、そこで若手がどれほどの経験を積めるかで未来が変わる』と感じます」

ワイアット・クロケット。ニュージーランド代表71キャップのプロップで、昨季のスーパーラグビー王者となったクルセイダーズからディーンズに誘われ今季からパナソニック入り。先発した日野戦を終えて語ったのは、自らが見出したパナソニックの普遍的なよさについてだ。クルセイダーズも、太田市と同じく都市圏と離れたカンタベリー州を本拠地とする。山田の「人と人との距離が…」に近い趣旨の言葉を、クロケットも残す。「両者には共通点がたくさんあります。まず、私の家族をクラブに呼んでもらうなど、家族全体でチームを作っていくようなところが似ています。1人ひとりの繋がりが強いのです。また、個々が選手としてだけでなく人として高いレベルで過ごさなければならないような文化。この点は、クルセイダーズとパナソニックが全く同じです。いずれも、ベストであるためにどうしたらいいかを日々考えて過ごすチームです」

日本大会閉幕以降は熊谷への移転も検討されているというパナソニックには、取り巻く人や土地が変われど変わらない、もしくは変えてはならないよさがある。それはクロケットのようなキャリアを積んだ新参者になら、すぐに見つけられるものだったのだろう。日野戦後のディーンズはこう話した。「選手の入れ替えは当然あるべきものですし、普通のことです。もちろん、長らく中心的だった選手が抜けた事実はあり、知的財産のようなものが失われたのは間違いないです。しかし長らくプレーしてきた谷のような選手も重要となりますし、次世代の選手も成長してきています。加えて、いまワールドカップを目指してチームを離れている選手もいずれ帰って来ます。彼らとともに、またチームを作っていきます」

ワールドカップ開催の影響などで、トップリーグのレギュラーシーズンは2020年1月に開幕する。それ以降のトップリーグの枠組み作りは、日本協会執行部の刷新などに伴いペンディング状態に近い。新会長候補の森重隆氏は、ヤマハ前監督の清宮克幸氏に改革を委ねるという。体制側が大指針を打ち出すのとは別の文脈で、パナソニックは主導的に自軍の文化を紡ぐ準備を進めている。

向風見也

著者プロフィール 向風見也

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年にスポーツライターとなり主にラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「Yahoo! news」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。