■ワールドワイドオリンピックパートナーって

コカ・コーラ、オメガ、インテル、VISAと世界的な大企業が名を連ねるIOCのトップスポンサー集団。これがワールドワイドオリンピックパートナーだ。現在このカテゴリーにある企業は13社。ここにブリジストン、パナソニック、そしてトヨタと日本を代表する3つの企業が所属している。そう考えれば、東京でオリンピックが開かれるのは至極もっともなことだというのがご理解いただけるかもしれない。

それはさておき、今年6月、このワールドワイドオリンピックパートナーをめぐって衝撃的なニュースが飛び込んできた。コカ・コーラが中国大手乳製品メーカー蒙牛乳業と組んで2021年から2032年まで契約を延長するというものだ。衝撃は中国企業が入るのか、というところではない。実はすでに中国の通販企業アリババグループはこのカテゴリーのスポンサーになっているからだ。

世界を驚かせたのは、12年総額3200億円という莫大なスポンサー料だ。IOCもパートナー企業も契約に秘匿条項があるため公式には一切金額は発表されていないが、関係者の話として伝えられたこの金額はスポーツマーケティングの膨張を象徴する数字となった。

■IOCの巧みな戦略

なぜここまで金額が膨れあがるのか、そこにはIOCの巧みな戦略がある。

ことし5月、東京オリンピックを前に新国立競技場の脇に日本の新しいスポーツの司令塔とも言うべき建物が誕生した。「ジャパン・スポーツ・オリンピック・スクエア」。五輪ミュージアムも併設し、JOC=日本オリンピック委員会や日本スポーツ協会をはじめ、各競技団体が入る最前線基地だ。

同じ頃、スイスのローザンヌにも新たな建物が完成していた。IOC=国際オリンピック委員会の新本部会館。広い吹き抜けのスペースを贅沢に使った不揃いのらせん階段。1階から見上げると、階段が五輪のマークを作り出している近代的な建物だ。およそ160億円をかけて建設された、まさに世界のスポーツの最前線基地といっていい建物だ。新会館の完成でこれまで4カ所にわかれていた各部署が1つにまとまることになった。そのひとつがスポンサー企業のカウンターパートとなるマーケティング部門だ。

コカ・コーラが蒙牛乳業と組んで3200億円もの莫大なスポンサー契約を結んだのには大きく分けて2つの理由があるからだ。一つ目は、五輪マークの使用権や広告利用など、トップスポンサーに与えられる広告価値だ。そのなかにスポンサーチケットと呼ばれる観戦チケットも含まれる。スポンサーに与えられる当然の権利といえばそれまでだが、次の理由がその価値を大いに高めるのだ。その2つ目の理由が1業態1社に限るという厳格なルールだ。先に述べたコカ・コーラと蒙牛乳業は、ノンアルコール飲料のカテゴリーで唯一のトップスポンサーだ(蒙牛乳業は2021年から)。ということはペプシもキリンもアサヒも、このカテゴリーでは五輪を使った広告は一切できないと言うことになる。これは広告だけではない。会場で販売されるのはコカ・コーラ社製品だけ。それ以外の製品が会場にあってはまずいから、飲料は一切持ち込み禁止になる。会場で買うしかない。しかもコカ・コーラ社製だけをだ。車であればトヨタである。すなわち五輪会場で使われる車はトヨタ。CMでオリンピックを活用できるのもトヨタだけ。ベンツもBMWもホンダもなしだ。

そしてこの権利を守るためにIOCには有能な法務部門がある。世界の至る所でIOCの権利(スポンサーに販売している形の商標など)が侵害されていないか、わかりやすく言えば勝手に使われていないかチェックし、悪質なものは訴訟へと発展する。こうして巨大なスポーツマーケットが育っていったのだ。

■結局は…

東京大会でいえば、IOCのスポンサーに加え、東京大会独自のスポンサー企業が50近くになる。そのスポンサー料。結局は誰が払っているのか?それは簡単な話である。コンシューマーである私たちひとりひとりが商品を通して支払っていることになる。それは当然の帰結と言うべきだろう。私たちはテレビを通して無料でオリンピックを見続けているのだから、NHKの受信料であれ、スポンサー企業の商品の購入であれ何らかの形で対価を支払うことはやぶさかではない。

それをすべて知った上で、いまラグビーのワールドカップで起きている飲み物を買う長蛇の列のことや、ほとんど当たらないオリンピックチケットのことを見て欲しい。スポンサー企業のものしか売れない現実、チケットの何パーセントをスポンサーが事前に持っていっているの?という現実。純粋に世界一を目指す選手と応援に情熱を傾ける観客。その裏で起きている現実を知ってみると、また見え方が変わるかもしれない。


VictorySportsNews編集部