ーまず今年のスポーツ界では鹿島アントラーズの経営権をメルカリが取得するという大きな動きがありました。日本製鉄が保有していた株式72.5%のうち61.6%を約16億円で取得したというのは報道の通りでしょうか。
小泉 「はい、大体それくらいです。私たちは2年半くらいアントラーズのスポンサーをしてきたのですが、クラブが将来の戦略としてチーム強化、マネタイズ、ファンの喜びなど、いろいろなことを考えた時にテクノロジーを入れていかないといけないということになりました。そのパートナーとしてメルカリに話が来たということです。日本製鉄さんが実業団スポーツとしてスタートさせたアントラーズですが、Jリーグができて、DAZNも入ってきて、選手の海外移籍も盛んになるなど、ダイナミックな経営が必要になる中でB to Bの会社としての役割は終わったのではないかと。そうしたことを全て考えた上で、一緒にやっていくという形になったということです」
ー元々、小泉さんはアントラーズのファンだったとか。
小泉 「元々サポーターですね。私の場合は13歳の時にJリーグがスタートし、父が鹿島市の隣の町の出身だったため、よく見に行っていました。生粋のファンとしてスタートしています」
ー池田さんは、このニュースを聞いてどう思いましたか。
池田 「必然だなと。この数年間、小泉さんがアントラーズに関わっていたのは知っていましたし、こういう流れを生む先陣になるんだろうなと思っていました。五輪の前だったのは驚きでしたが、五輪後にはこうした動きがスポーツ界で加速していくのではないでしょうか」
ースポーツとは異なる業界の経営者からアントラーズの社長に就任した小泉さんですが、今までのビジネスとの違いを何か感じる部分はあるのでしょうか。
小泉 「経営としては一緒ですよ。クラブも、もっとファンを喜ばせるにはどうするべきかを分かっています。ただ、今までは意思決定が遅いとか、現場に全然権限がないとか、やることは分かっているけど進みが悪いという課題があった。そこに対して、われわれは仕事のやり方、システムなどを入れていって、どんどん現場でトライアンドエラーできる体制をつくっています。
これは決して日本製鉄さんをディスっているわけではないので勘違いしないでほしいのですが、製造業のようなB to Bの会社はミスが起きないように仕事を設計していくのが定石です。一方で、われわれネット企業、エンターテインメント系企業には『ミスをしていいからチャレンジしよう』という企業文化があります。そもそもの思想が真逆なので、そこに対して私たちは業務としてどんどん変えていく。何が当たるかはわからないけれども、手数が多くないと事業は成功しないので、そのための仕組みを変えているところです」
ー住友商事、博報堂など大手企業にも勤めてこられた池田さんは、それまでの仕事とベイスターズでの球団経営に違いを感じましたか。
池田 「地域密着型ビジネスであり、メディアさんが周りに多いという違いはあります。あとは、スポーツ界はクローズドだということ。異質な存在を許容しない、否定から入るところはあります。ただ、基本的に会社経営であることとそんなに変わらないですね」
ーステークホルダーの多さについては。
池田 「ステークホルダーというより、スポーツには“魔力”みたいなものがあって、普通の会社は“ダメダメな経営”だったら見放されて倒産していくものですが、スポーツというのは関わっていると名誉になるみたいなところがあって、とにかく関わりたい人が出てくる。“ダメダメな経営”でも、奇跡的なまでに次へ関わりたい人が現れるので、なかなかつぶれない。昔のベイスターズは、まさしくそうであったと言えるのかもしれません。地方に行けば行くほど支えてくれる人が出てくるという特異性もある。そんな特異性に気を緩ませ、勘違いしていると、本質的な経営がうまく回らず、お金の無心みたいな経営になってしまったりすることも多々見てきました。そこは最近も気になりますね」
ー日本は人口減少の局面にありますが、それを踏まえた施策は。
小泉 「鹿島アントラーズは鹿嶋市として6万7000人、広域のホームタウンとしては27万人の人口がありますが、御多分に漏れず人口が減ってきたり、高齢化が進んでいたりする。そこで、私たちは地域の課題解決にテクノロジーを入れていきたいなと思っています。市とは結構仲良くやらせてもらっていて、アントラーズのやることに関してはポジティブに受け止めてもらっているのですが、だからこそ地域の課題解決にテクノロジーを入れて当たっていこうと考えています。例えば、交通渋滞などの交通系の課題や医療ですね。アントラーズは、カシマスタジアムの敷地内に『アントラーズスポーツクリニック』という自分たちの診療所を持っているので、そういうところで一緒にビジネスをつくっていこうと考えています。人口を増やすことは簡単ではありませんが、少し住みやすさの部分を変えていこうということです。
あとはオンラインです。27万人というのは商圏として明らかに少ない。ただ、昨年は物販で9億円以上を売っています。オンラインを使って日本全国でファンを獲得し、年に1、2回でもいいからスタジアムに来てもらう。あと、今後の話でいうと、パブリックビューイングをはじめ、新たな視聴体験をつくっていこうとも考えています。定住人口の少なさはしようがないと思うので、交流人口を増やしていくことを考えていかないといけないかなと思っています」
ーカシマスタジアムは減席も視野に入れていると聞きます。
小泉 「カシマスタジアムは五輪で11試合を行うので、それまではあまりいじれません。ただ、それ以降は耐震審査をした上で、触っていきたいなと思っていて、基本的には減席する方向です。現状の収容人数は4万人ほどですが、平均すると1試合あたりの動員数は2万人ちょっと。2階席はかなり空いています。これはベイスターズさんも同じですが、VIP席などシートに付加価値をつけていく流れにかじを切っていこうかなと思っています。そこは県などと歩調を合わせながらという感じです」
池田純氏×小泉文明氏対談・第一回 <了>
2020年1月3日(金)第二回公開予定
池田純氏×小泉文明氏対談・第一回「経営者目線で語るスポーツビジネスの特異性と地域活性化」
レジャー産業に関わる195社が出展する日本最大規模の展示会「レジャージャパン2019」が東京ビッグサイト青海展示場で開催された。セミナーでは、横浜DeNAベイスターズ初代球団社長で一般社団法人さいたまスポーツコミッション会長を務める池田純氏とフリマアプリ大手メルカリ会長でサッカーJ1・鹿島アントラーズ社長の小泉文明氏の対談が実現。「これからのエンターテインメントとスポーツ」をテーマに、約1時間半にわたって熱いトークが交わされた。VICTORYではその模様を全4回にわたって紹介。まずは、経営者としてスポーツビジネスの世界に乗り出した2人が、その特異性やスタジアムを中心とした地域活性化について語り合った。
鹿島アントラーズ小泉社長。これからの動きに期待だ (C)共同通信