2018年までは幕張メッセで行われていましたが、2019年から会場を大宮ソニックシティに移しています。これはCygames(サイゲームス)側がGRAND FINALSの会場を探している時に、候補のひとつとして挙げられたこともありますが、埼玉県側としても、eスポーツやゲームを観光資源として活用することを考えており、利害が一致しての開催となりました。また、さいたま市から生まれたさいたまスポーツコミッションもスポーツ振興による街作りを計画しており、日本初となる地方新聞(埼玉新聞)とスポーツ新聞(サンケイスポーツ)がコラボレーションした号外を配布しています。その中には、さいたま市の清水勇人市長、さいたまスポーツコミッションの池田純会長、Cygamesの木村唯人専務取締役によるeスポーツを題材にした鼎談が掲載されています。

Shadowverse World Grand Prix 2019 GRAND FINALSの会場となった大宮ソニックシティ

したがって、会場の大宮ソニックシティは単純に試合会場としての参加ではなく、Shadowverse World Grand Prix 2019の共催として参加しています。埼玉県やさいたまスポーツコミッションは後援として、大会に名を連ねています。
つまり、Shadowverse World Grand Prix 2019は、公式大会でありながら地方自治体との共催によって行われた大会であるわけです。これにより埼玉県はeスポーツに明るい土地としての認知度も高まり、会場に設置した埼玉県観光PRブースにて埼玉県の名産品のアピールもできています。県内外から観客が訪れ、多くの集客を見込めるイベントで、埼玉県のことを知ってもらうことができ、良い機会となったのではないでしょうか。そもそも埼玉県は数年前まで観光課がなく、発足して間もないと言います。その為、他県に比べ観光に対する基準や規定がなく、既存の観光資材だけでなく、アニメやマンガの聖地などもいち早く取り入れた経緯があります。そういう点でeスポーツを観光資材のひとつとして取り入れやすい環境にあったわけです。

埼玉県観光PRブース。

こうみてみると、Shadowverse World Grand Prix 2019の開催が地方創生の一環として、大きく役立っているように思えますが、実際のところその効果はあったのかを考えてみたいと思います。
会場で観た感じでは、会場ロビーの埼玉県観光PRブースが目に付いたくらいで、他に埼玉県をアピールしている様子はありませんでした。PRブースにはそれなりに人が訪れていましたが、Shadowverse World Grand Prix 2019との限定コラボ商品が気になっていた様子で、埼玉県の魅力を感じて貰えたかは微妙なところではないでしょうか。来場者にとっては、たまたま会場が埼玉だった程度で終わる気がしなくもなく、地方創生の一環としての効果があるとまでは言えないでしょう。

Shadowverse World Grand Prix 2019とコラボした埼玉銘菓の十万石饅頭。同じく大宮のご当地サイダーである「大宮盆栽だー!!」もShadowverse World Grand Prix 2019仕様。

ただ、Shadowverse World Grand Prixが毎年、大宮ソニックシティで開催するとなれば話は変わってきて、大宮ソニックシティが『Shadowverse』の聖地のひとつとなるわけです。高校野球=甲子園、高校ラグビー=花園ラグビー場のように、大会名と会場名が同義になるほど定着すれば、そこには大きな意味が出てきます。『Shadowverse』プレイヤーが「大宮を目指す」と言えるほど定着すれば良いわけです。
また、今回の大会をきっかけに、PRブースなどで参加した企業や物産観光協会自体が、ノウハウを学びとって、自らeスポーツイベントを開催することができるようになれば、eスポーツによる地方創生となりうると考えます。
埼玉県はサッカーの県として周知されています。それは、浦和レッズと大宮アルディージャのふたつのメジャークラブチームがあり、地域密着の活動による結果です。eスポーツで地方創生をするには、やはり地元と連携のとれたeスポーツチームの存在も必要になってきます。埼玉県出身もしくは在住のプロゲーマーも数多くおり、その選手と埼玉県が連携をとることも重要です。
すでにeスポーツで地方創生が成功していると言われる富山県と大分県をみても、1回の大きなイベントを成功させて終わりと言うことではなく、小さくても継続して行っていることが重要であることがわかります。
埼玉県がeスポーツで地方創生を為すのであれば、やはり継続していくのが、もっとも堅実な道であると言えるでしょう。今回の開催ははじめの一歩としては大きな一歩であると言えます。大会単体の成果としても約2000人収容の大宮ソニックシティは立ち見がでるほどの混みようで、最終的には入場規制がされるほどでした。来場者は劇場型アリーナでの快適な観戦も経験でき、関東地方全般からのアクセスの良さも感じ取れたのではないでしょうか。特に東北、北陸、北関東からのアクセスは、幕張や台場に比べて格段に良く、大宮だからこそ来られた人もいると思われます。そういった感想が残っているうちに、次のイベントの開催をすることで、大宮、埼玉のイメージが定着していくわけです。

Shadowverse World Grand Prix 2019は、入場規制がかかるほどの人の入りで、大盛況で幕を閉じた。

先述したとおり、埼玉県はアニメの聖地として確立している場所が何カ所かあります。アニメの場合は、作品の舞台に現存の土地が選ばれ、実在する建物や名所などが登場することで、その土地との繋がりができ、ファンが聖地化して訪れることがあります。eスポーツの場合は、そういったゲームの舞台と実在の場所がリンクすることがほとんどありません。なので、如何に関係の無いeスポーツをその土地に定着させるか行動していかなければならないのです。
Shadowverse World Grand Prixが、日本有数の規模を誇るeスポーツイベントだとしても、単発の大会開催くらいでは、地方創生が成り立つほどの力はありません。まあ、eスポーツに限らずどんなイベントでも同じことです。ラグビートップリーグもラグビーワールドカップで得た人気が、今後続いていくとは考えておらず、次の一手を考えています。せっかく得た機会なので、火を消さずに灯し続けられるように、継続して行くしか無いわけです。また、今回の経験を活かし、埼玉県が主催となり街ぐるみで取り組めるようになることが、eスポーツの街として周知されていくことにつながるでしょう。今後の埼玉県のeスポーツへの施策に期待します。


岡安 学