文=浅田真樹

納得性の高いMVPとは

 終った話を蒸し返すようで申し訳ないが、昨季までわずか2シーズンだけ行われた “特殊”な2ステージ制とチャンピオンシップの話である。あえて“特殊な”と付記したのは、2004年以前に行われていた、2ステージのチャンピン同士がチャンピオンシップで対戦する形式の純粋な2ステージ制とは違っていたからだ。年間勝ち点という要素を取り入れたことによって、納得性に欠けるモヤモヤした印象が強い制度だったのは間違いない。

 昨季のJ1は、年間勝ち点3位の鹿島アントラーズがチャンピオンシップを制し、年間優勝となった。だが年間勝ち点で言えば、1位の浦和レッズと3位の鹿島とでは15もの差があり、何とも釈然としない結末だった。優勝した鹿島の選手でさえ、表彰式後には複雑な表情を浮かべていたのが印象的だ。

 しかし、2ステージ制とチャンピオンシップの影響を受けたのは、優勝争いだけではなかったのではないか。そんなことに気づかされたのは、昨年12月に行われたJリーグアウォーズでのことだ。

 2016年シーズンのMVPには、川崎フロンターレの中村憲剛が選ばれた。川崎の成績は年間勝ち点2位、年間順位3位である。つまりは、優勝クラブ以外からMVPが選ばれたわけだ。Jリーグではこれまでのべ24人がMVPに選ばれているが、優勝クラブ以外から選ばれたケースは中村憲剛が9例目。それ自体は決して珍しいことではない。また、中村憲剛のサッカー選手としての能力の高さに疑いの余地はなく、これまでJリーグで積み上げてきた実績も申し分ない。社会活動やメディアへの対応など、ピッチ外での振る舞いも含めて尊敬に値する選手である。しかも中村憲剛は、これはすでに広く知られた話だが、大学卒業時まで年代別日本代表に選ばれるなどの目立った実績が全くなかった。ほとんど無名の立場から川崎の練習参加にこぎつけ、どうにかプロになったという異色の経歴の持ち主だ。

 そんな選手がJリーグの最優秀選手に選ばれたのだから、実に喜ばしいニュースである。

 だが、そこでどうしても引っかかってしまうのだ。もしも年間勝ち点1位の浦和がチャンピオンシップでも勝利し年間優勝を果たしていたら、MVPの選考は同じ結果になっていたのだろうか、と。

 投手と打者それぞれに個人タイトルがいくつもあり、数字で明確に個人成績を順位づけできる野球と違い、サッカーは選手個人を評価するのが難しい。圧倒的なゴール数を記録して得点王にでもなってくれない限り、あくまでも主観的な印象に頼らざるを得ない。結果として、MVPは優勝クラブから選出されることが多くなる。選手とはチームの勝利のためにプレーするものであり、最も多くの勝利(勝ち点)を手にしたクラブの中から、最も勝利に貢献した(と思われる)選手をMVPに選ぶのが、最も納得性の高い選考ということだろう。

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「年間3位」ではなく「年間勝ち点2位」

 ところが、2016年が厄介だったのは、冒頭に記したような複雑な方式下でのシーズンだったことだ。

 前述の納得性で言えば鹿島からの選出が適当なのだろうが、年間勝ち点で浦和に大きくおくれを取っている以上、1シーズンをトータルで評価するMVPは選びにくい。だからと言って浦和から選んだのでは、チャンピオンシップという年間優勝決定方式を否定することにもなりかねない。選考委員会は相当頭を悩ませたに違いない。実際、Jリーグから出されたプレスリリースには「最優秀選手賞は2016明治安田生命J1リーグ年間勝ち点2位を獲得した川崎フロンターレから中村憲剛選手が初の受賞」とある。「年間3位」ではなく、「年間勝ち点2位」を強調しなければならないあたりに、苦労の跡がうかがえる。ちなみに、J1が18クラブに固定された2005年以降、年間順位3位以下のクラブからMVPが選ばれるのは初めてのことだ。

2016年12月20日に行われた2016Jリーグアウォーズ今シーズン活躍した選手、監督、審判員等に贈られる各賞の受賞者が発表されました。最優秀選手賞は2016明治安田生命J1リーグ年間勝ち点2位を獲得した川崎フロンターレから中村憲剛が初の受賞。同選手の受賞により、最優秀選手賞の最年長受賞記録が更新されました
最優秀選手賞は中村(川崎F)が初受賞【2016Jリーグアウォーズ】

 言うまでもないことだが、中村憲剛がMVPにふさわしくないと言いたいわけではないし、中村憲剛を腐すつもりも全くない。チャンピオンシップなどなく、「わずか勝ち点2差で優勝を逃した川崎」から中村憲剛がMVPに選ばれていたら、こんな邪推に至ることもなかっただろう。わずか2シーズンで役目を終える愚策に、あらためて気づかされたJリーグアウォーズだった。

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浅田真樹

1967年生まれ。大学卒業後、一般企業勤務を経て、フリーライターとしての活動を開始。サッカーを中心にスポーツを幅広く取材する。ワールドカップ以外にも、最近10年間でU-20ワールドカップは4大会、U-17ワールドカップは3大会の取材実績がある。