取材を重ねていくと真の金メダル候補は実は20人にも満たないことがわかってきた。誰もが気になるオリンピックの金メダル候補、第1回目は金メダルに最も近い選手を紹介したい。(この連載の中では取材に基づいて金メダルの可能性をパーセンテージで指摘する。金メダルの確率が10パーセントに満たない選手は金メダル候補とはしないことを付け加えておきたい。)
■第1回は桃田賢斗選手の予定であったが…
原稿を書いている最中にニュースが飛び込んできた。マレーシアで交通事故にあい復帰に向けて動き出していたバドミントンのエース桃田賢斗選手に眼窩底骨折が見つかったのだ。最初に桃田選手をはじめ事故で負傷されたスタッフの方々にお見舞いを申し上げたい。そして亡くなられたドライバーの青年とご家族にはお悔やみを申し上げる。
桃田選手はいったん「大きな負傷はない」として3月の実践復帰を目指して代表合宿にも参加することになったが、その中で物が二重に見える「複眼」の症状が出たそうだ。繊細な技術で世界のトップに立ってきた桃田選手への影響は本人にしかわからないが発表では「全治3か月」、復帰時期が大幅にずれ込むことは間違いない。当初の構成では、ここに桃田選手の話をかくはずだったが、まずは復帰を静かに見守りたいと思う。
■いま一番金に近い男 喜友名諒選手
とすれば、いま日本で最も金メダルに近い選手は誰か?
それはずばり、空手の喜友名諒選手だ。喜友名?何て読むの?どんな選手だっけ??えっえっえっ???という声が聞こえてきそうだが、喜友名(きゆな)選手は日本が誇る“形”の絶対的王者だ。空手はオリンピックの新種目、まずは競技そのものを少し説明しておこう。
空手は日本発祥とされる格闘技、柔道のように白い空手衣を着た選手が蹴りや突きで相手を攻め立てる。相手と面と向かって技を決めるのが“組手”と呼ばれる対戦型の種目だ。柔道と同じように階級があり相手に見舞う技の有効性で雌雄を決する。
もうひとつ空手の真髄ともいえるのが“形”=「かた」である。ひとりで目に見えない敵を相手に蹴りや突きを繰り出し、ときに威嚇するような声があがる。相手との間合いを詰めるために飛び跳ねるような動きもある。実は、伝統に裏打ちされた決まった動きであり、その正確さやスピード、技のキレとキメ、息遣いなど動きのすべてが採点対象となり判定で勝ち負けが決まる。
かつて中東で空手の取材をしたことがあるが、会場には空手を習っている大勢の子たちが詰めかけ、日本の選手の一挙手一投足をじっと見つめ、大きな拍手を送る姿は今でも忘れられない。
男子“形”で2年に1度の世界選手権で現在3連覇中なのが喜友名諒選手なのだ。空手の発祥とされる沖縄県の出身で、空手界のレジェンド、佐久本嗣男師とまさに二人三脚で世界のトップに駆け上った喜友名選手は世界選手権だけでなく国際大会で連戦連勝。一度見てもらえればわかるが、正確な技や躍動する動きはもちろんのこと、その顔つきや声も超一流。
彼が畳に足を踏み入れた瞬間から日本武道館を埋めた観客が静まり返り、空手の神髄を演じる姿をはっきりと想像できる選手だ。その技と胆力は世界が認めている。まさに金メダルに最も近い日本選手といえる。金メダル確率は、ずばり90パーセントだ。
(第2回に続く)