■空手が誇る2枚看板、清水希容選手

第1回で紹介した喜友名選手ともう一人、空手“形”の金メダル候補、それが女子のエース清水希容選手だ。2014年、16年の世界チャンピオン、実績は十分だ。

東京オリンピックの新種目に空手が決まった時には金メダル確実といわれていた清水選手だが、2018年の世界選手権でスペインの37歳の選手に敗れた。スペインのサンドラ・サンチェス選手、この種目で清水選手と二強といわれる選手だ。去年9月に東京で行われたプレミアリーグは史上稀にみる接戦となった。決勝で激突した二人はなんと27.68の得点で並んだのだ。史上初の再演武となった対戦は清水が振り切って優勝した。しかし、11月にサンチェス選手の地元スペインで行われた大会では清水選手が大差で敗れている。

そして今年の初戦でも清水選手は苦杯を喫した。サンチェスか清水か、現時点での清水選手の金メダル確率は40パーセント。厳しいようだが、それがいまの清水選手の評価なのだ。

空手では“組手”にもメダル候補がいる。男子は荒賀龍太郎選手や西村拳選手、女子は植草歩選手や宮原美穂選手だ。メダル候補として紹介したが、あえて金メダル候補としなかった理由はお察しの通りだ。荒賀選手と植草選手は金メダルに届く可能性はあるだろうが道は険しい。そのほかの選手はメダルに届くことはあっても金メダルはといわざるを得ない。
それでも新競技として空手で2つ以上の金メダルが取れたとすれば、その貢献度は高いと評価していい。

■柔道 ずらりと並ぶ金メダル候補

日本が最も多くの金メダルを獲れる競技は、日本初のIOC委員で大河ドラマ「いだてん」でも大活躍だった、かの嘉納治五郎を祖とする柔道だ。

男子7階級、女子7階級に加え、新種目として男女混合の混合団体が実施される。あわせて15個の金メダルがあるなかで日本がいくつ獲れるか?柔道の成功が日本の成功を左右するといっても過言ではない。ではこのなかで金メダルに一番近い選手は誰か。まず73キロ級の大野将平選手をあげたい。まあ、異論は少ないだろう。

前回リオオリンピックの金メダリストにして、現役の世界チャンピオン(2019年優勝)。技は切れるし、心も強い。混合団体では代表を引っ張る存在でもある。リオのあと学業優先で一時実践を離れたが、復帰後も強さは変わらない。阿部一二三選手と丸山城志郎選手がしのぎを削る66キロ級に目が行きがちだが、東京五輪の日本柔道の象徴は大野選手といっていいだろう。大野選手は特A級の金メダル候補だ。金メダル確率75パーセントとしておこう。

続くのが66キロ級だ。阿部選手、丸山選手どちらが選ばれても日本の金メダルが最有力。では大野選手との違いは何かといえば、やはり経験だ。どちらが出場しても初の五輪。最後まで国内で競い合うのは大事なことだが、対外国人の戦略もしっかり立てなければいけない。阿部選手が選ばれれば、妹の詩選手と同じ日に畳に上がることになる。丸山選手が選ばれれば「阿部を抑えて選ばれた」というプレッシャーがあるだろう。数あるプレッシャーをはねのけて金メダルを獲得できるか、この階級の金メダルはその後の選手につなぐ重要な役割となることを付け加えておきたい。この階級の日本の金メダル確率はずばり65パーセント。まずはどちらが代表に選ばれるか、これから始まる欧州遠征と4月の選抜体重別選手権を見守ろう。

女子のナンバーワンは間違いなく阿部詩選手だ。詩選手を語る上で欠かせないのが対外国選手の勝率、それが抜群なのだ。2018年、19年と世界選手権を連覇。続く格付けのグランドスラムでも優勝を重ねた。去年のグランドスラム大阪の決勝を迎えるまで対外国選手に48連勝。2016年3月の国際大会デビュー戦以来、なんと一度も負けていなかったのだ。しかし、その決勝でフランスのブシャール選手にゴールデンスコアで敗れた。それでも対外国選手の勝率は98パーセント。まだ代表に内定はしていないが、出場すれば金メダルに最も近い日本女子選手といっていいだろう。確率は大野選手に並ぶ75パーセントをつけたい。

ほかにも金メダル候補は多い。70キロ級の新井千鶴選手は2017年、18年と世界選手権を2連覇。1年前であれば阿部選手よりも上にランク付けしていたかもしれない。
しかし、2019年の世界選手権でまさかの3回戦敗退。11月のグランドスラム大阪、12月のワールドマスターズでも銅メダルにとどまった。
この階級は海外の柔道強国のヨーロッパ勢、ブラジルにも強豪がひしめく。ライバルに研究され世界のトップの座を明け渡した形だが、まだまだライバルを押しのける力、その可能性を新井選手は秘めている。金メダル確率は50パーセント。少し甘目かもしれないがそう期待させる選手であることは間違いない。

もうひとり78キロ超級の素根輝選手を忘れてはいけない。去年の世界選手権で初優勝、そしてグランドスラム大阪でも優勝し、なんと柔道で内定一番乗りとなった選手だ。素根選手といえば福岡・南筑高校2年の時の金鷲旗(福岡国際センターで行われる伝統ある高校柔道大会)決勝、大逆転の5人抜きが忘れられない。相手は阿部詩選手を擁した夙川学院高校。相手先鋒の阿部選手に4人抜きを許したあと、大将で出てきた素根選手がオール一本勝ちで5人を抜いて大逆転優勝を果たしたのだ。

素根選手は以前から将来の金メダル候補といわれていたが、あの鬼気迫る5人抜きを見て「東京の金メダル候補になれる」と思ったことを思い出す。国内のライバル朝比奈沙羅選手だけでなく世界の強豪を退けつかんだ東京オリンピックの切符。勢いを買って金メダルの確率50パーセントとしたい。

忘れてはならないのが今大会の新種目混合団体。フランスという大きなライバル、ブラジルなど新進気鋭の強国もあるが、柔道の母国の威信を見せてほしい。90パーセントの確率で金メダルを取ると期待している。

このほか柔道は男子60キロ級、女子48キロ級を始め、金メダルに手が届く階級は複数ある。しかし、50パーセントを超えるのは混合団体含め、ここで紹介した6つが現実的であろう。JOCのトップに立ち「金メダル30個」という目標を掲げた山下会長は、柔道界では言わずと知れた「世界の山下」だ。目標達成のためには、柔道でどこまで上積みできるかにかかっている。


(第3回に続く)

VICTORY編集部総力取材 金メダルを獲るのはこの選手だ!〔第1回〕

東京オリンピックの開幕まで半年を切った。すでに60人を超える選手たちが代表に内定しているが、これから続々とオリンピック選手が決まってくる。JOCの山下泰裕会長は「金メダル30個はいける」と鼻息が荒いが日本は本当に30個の金メダルをとれるのか?

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VictorySportsNews編集部