冬の競技は練習場所の確保も難しい 降雪機を使うのにも費用はかかる

――スキーやジャンプをしている人口は増えていますか?
年々増えている感覚はあるんですけど、やはりスキージャンプに触れやすい地域が大多数ですよね。そうではなくて、競技にはあまり触れられないけど興味があるという子どもたちにもやってもらいたいので、そういうイベントが必要かなと思います。

――どんなイベントが必要だと思いますか?
スキージャンプという競技自体がなかなか触れられないスポーツなところもあるので身近に感じられるものがあれば良いかなと思います。体験型のイベントとかしてみたいですね。やっぱり、ジュニア世代の子どもたちが競技を始めてくれることが、競技人口の増加につながりレベルの底上げにつながりますからね。

――体験できる場所なども必要ですね。
そうですね。ただ、これはウインタースポーツのあるあるというか、冬の競技によくあることなのですが、そういう場所の確保がとにかく難しいと感じています。イベントを行えるような場所もそうなのですが、始めようと思った子どもたちが練習する場所も限られています。私たちも、やはり練習しないとうまくならないですし、勝つことが難しくなります。なので、場所をいかに確保するのかが大事になりますね。環境によっては整備をしないといけないところもありますし、そこには人の力が必要になってくると思います。

――練習環境を整えるためにジャンプ台を作ったりするのは、かなり費用が必要になりますね。
ジャンプ台を新設するとなると相当のお金が必要になると思うので、まずは既存のジャンプ台の整備に充てる費用だとか、その整備に関わる人のために何かできればいいなと思います。

――場所や季節によっては人工雪も必要になりますね。
年々と地球温暖化が進んでいるようで、競技をするうえで雪不足が心配になってきています。周りには、まだ草が生い茂っているなかでジャンプ台にだけ雪を着けてやることもあります。降雪機を使って雪を作るのですが、もちろんそれにも費用がかかってきます。温暖化は深刻な問題になってきていて、冬の競技であるスキージャンプが、ときどき夏の競技なのではないかと錯覚してしまうくらいです。そのくらい深刻な問題で、本当に心配です。

――そういった環境問題は日本に限った話ではないですよね?
そういった環境問題に対しては、海外のほうが比較的に目を向けているように思います。個人ひとりひとりの意識がしっかりしているイメージです。小さなことからでも良いので、日本でも自分のできるところから何かを始められたら良いなと思っています。

©Unlim

地元の北海道が被災 「何もできない自分が悔しい」

――被災地への支援活動をされたと聞きました。
2年前に北海道で震災があり、各地でいろいろと大きな被害が出ました。そのときの私は、ちょうど海外で試合があり遠征中でした。なので、そのときは被災地に足を運ぶことができなかったんですが、その夏の大会で得た賞金を全額寄付しました。何もできない自分が悔しいというか、申し訳ない気持ちでいっぱいになったので少しでも役に立てたらと思いましたし、今までたくさんの人たちに応援されて今の自分があるので、恩返しというか、北海道の人たちのために何かをしたかったんです。

――地元の震災は、高梨選手にどういう影響を与えたのでしょうか?
私は北海道で育ってきましたし、震災が起きていろいろなところで被害が出たということに、本当に胸が痛みました。帰国してからは実際に被災地へ行き被害の様子を見て、いろいろな方々のサポートもあって競技に集中できている、という自分の環境が、いかに幸せで、いかに恵まれていたのかということを痛感しました。

©Unlim

(あとがき)※Unlimについて
「私は、いろいろな方々のサポートもあって、恵まれた環境で競技させて頂いています」と答える高梨沙羅は、現在のスキージャンプの取り巻く環境を問題視している。その高梨沙羅が「Unlim」への参画を決めた理由は、そういった環境問題の解決や地元の北海道への恩返しという思いがあったからだ。自分が地球環境や震災被害の問題を訴えかけることで、多くの人に知ってもらい協力を得られると考え、「Unlim」を通して主張することを決めた。
 そのスポーツギフティングサービス「Unlim」によってもたらされる変化について、高梨沙羅はこう答えた。
「サポート体制がしっかりと整うことによって、競技を始められる人が増えていくと思います。競技人口が増えれば注目度も増し、さらなる投資などのいろいろな力も増えてきます。そういった結果、競技レベルも上がっていくと考えています。そして、一般の人たちも一緒に盛り上がることによって、スポーツというものがもっと力のあるものに変わっていくはずです。そういう世界を夢見て、目指して、頑張っていきたいなと思いますし、今度はそういったものを与えられる選手になっていけるようになりたいですね」

高梨沙羅が競技普及を考える「未来の子供たちのために競技環境を整えたい」

女子スキージャンプの高梨沙羅が、子どもの頃の競技活動を振り返る。今では世界トップクラスとして活躍を続けるが、それまでは親に大変な思いをさせたという。そして今、第二の高梨沙羅を目指して頑張る子どもたちが活動を続けていくにも、同じようにさまざまな面での負担が大きい競技だと訴える。スキージャンプの競技普及のためにも、同じ競技を行う子どもたちに対して高梨沙羅がしてあげたいと望むこととは――(文=佐藤俊、写真=高橋学)


佐藤俊

1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒。仕事はサッカー、陸上、卓球などスポーツから伝統芸能など幅広く、「断らない主義」です。著者「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「越境フットボーラ―」(角川書店)、「駅伝王者青学 光と影」(主婦と生活社)等々。