発表までに2年。純国産の体操プログラム
ー日本体操協会・一般体操委員会はどのような組織なのでしょうか。
荒木達雄さん(以下、荒木):日本体操協会の役割は2つあります。第1には体操競技、新体操競技、トランポリン競技などの技術成績を高めオリンピックや世界大会でメダルを取ること。2つ目は、健康維持のための体操を全国に広めることです。
TV等で競技面が大きくクローズアップされますが、一般体操は競技ではなく体づくりや体の調整を目的とした体操を普及させるために、全国で体操祭や講習会を開催して子どもからお年寄りまで体操に親しんでもらう企画運営を行っています。
ー今回発表された「The Taiso」はどのような目的のものでしょうか
荒木:子どもからご年配の方まで、一緒に体を動かすことができるプログラムを目指しました。運動環境に合わせて3パターンの長さから選べるように工夫されています。
ー日本ではすでにラジオ体操が一般的に普及していますが、どのような違いがあるのでしょうか。
荒木:ラジオ体操はアメリカのメトロポリタン生命保険が1925年に放送したものをモデルにして、日本の郵政省が制作したもの。全身を大きく動かすという目的ではどちらも同じです。「The Taiso」はより現代的なエッセンスを加え、覚えやすさも大切にしています。ラジオ体操は第一・第二共に、13の運動種目、長さは3分20秒です。「The Taiso」は5種目にしぼり、通常版を2分13秒に設定しています。忙しい方でも取り組みやすい内容に仕上げました。
ーテンポが良く、楽しみながら体を動かせる音楽ですね。
荒木:音楽は非常にこだわりました。作曲・編曲は大谷 幸さんに依頼し、完成までには何度も話し合いを重ねましたね。リテイクも3回ほどお願いしてしまいましたが、素晴らしいものをつくっていただき、感謝しています。
ー一番時間をかけたのはどのような部分ですか?
荒木:体操のプログラム自体はすぐに固めることができたのですが、実際に使用が想定される現場でのヒアリングを丁寧に行いました。試作版を介護施設や、小学校に出向き、実際に体を動かしてもらい、そこで出た改善点を反映するという流れです。構想から、完成版の発表までは2年ほどかかりました。
一過性のブームではなく、確実な浸透を
ーどのようなところで利用されているのでしょうか?
荒木:20秒版は、すでに日本体操協会が運営する体操の競技大会等で観客向けに導入しています。スポーツの試合の観客の方々は、ぐっと力を込めながら観戦しているうちに体が緊張していることが多いのです。観戦の合間に体を動かしていただけるよう、狭い場所でも安全に実施できるようなプログラムになっています。
ー今後の普及プランは決まっているのでしょうか?
荒木:「The Taiso」は一過性の人気で終わるものではなく、10年20年先も使われるものを目指しています。全国での体操イベントでの活用や、協会の会員である指導員の方を通じた地道な普及活動を予定しています。
ーコロナ禍では自宅での運動方法を様々なアスリートが発信しています。協会発信という強みはどのようなところで発揮していくことができますか?
荒木:協会の一番の強みは、所属する選手たちです。たとえば、「The Taiso」をトップレベルの体操選手がアレンジをするとどうなるか、など魅力的で、好奇心を刺激するようなコンテンツを一緒に作成していくことも考えています。体を動かすこと、健康維持の価値は、コロナ禍に限らず普遍的なものです。一過性の発信ではなく、恒常的に伝え続けていくことが私たちの変わらぬ役割です。
「The Taiso」第1弾が発表されたのは2020年4月12日。構想から2年越しの完成が、コロナ禍に重なった。自粛期間中の自宅トレーニング、「家トレ」がブームとなっているが「The Taiso」が目指すのは、日常的な運動習慣の促進だ。メロディを聞けば体が動くというほどに浸透したラジオ体操を“良きライバル”として、時節に流されない普及活動を進めていく。