チャーター便を利用したのは「三井住友VISA太平洋マスターズ」の大会前のPCR検査で陰性となった選手と関係者。検査結果が2週間有効であることから、公共交通機関を使用しないことで検査結果を持ち越しできるようにするための措置だという。日本ゴルフツアー機構(JGTO)の選手会事務局長である池田勇太が全日空(ANA)とスポンサー契約を結んでいることから航空会社の協力を得ることができた。

莫大な経費がかかるプロゴルファー

プロゴルファーにとって、飛行機の移動は切っても切り離せない。そのため、有名選手には航空会社がスポンサーについていることが多い。ANAのホームページによると、スポンサー契約を結んでいるプロゴルファーは池田勇太、石川遼、上原彩子、松山英樹、三浦桃香の5人。

一方、日本航空(JAL)がスポンサー契約を結んでいるプロゴルファーは、宮里藍、宮里聖志、宮里優作、松森彩夏、香妻琴乃、畑岡奈紗、勝みなみ、渋野日向子の8人となっている。

今回のチャーター便は搭乗者個人が片道2万5000円前後の運賃を負担したが、航空会社とスポンサー契約を結んでいる選手は通常、本人の運賃はかからない。契約内容によって搭乗回数、搭乗距離などの取り決めはあるが、年間数百万円にも及ぶツアー転戦費用の中でかなりのウエイトを占める航空運賃をサポートしてもらえるのは大きなメリットだろう。

プロゴルファーは華やかな職業に見えるかもしれないが、プロ野球選手やプロサッカー選手と比べると莫大な経費がかかる。チームスポーツは試合会場までの移動費や宿泊代はすべてチームが負担するが、プロゴルファーは個人事業主なので移動費も宿泊代もすべて自腹。試合に出場するためのエントリーフィや練習ラウンドのプレーフィも支払っている。

さらに、帯同キャディを雇うと1週間10万円が基本料金で、上位に入ると順位に応じた特別報酬も支払う。試合会場のハウスキャディにお願いする場合でも、通常のキャディつきプレーであれば同伴競技者4人で3000円くらいずつキャディフィを支払うが、1人で支払うと1日1万2000円ということになる。

1試合に出場する経費は、どんなに安く抑えても20~30万円かかる。これが男子ツアーだと年間20試合以上、女子ツアーだと30試合以上あるので、予選を通過できずに賞金ゼロの試合が続くと、赤字がどんどんふくれ上がっていく。

サポートしやすい“移動費”

赤字を減らし、黒字にするためには、収入を増やすか、支出を減らすか、どちらかの方法しかない。プロゴルファーが収入を増やすには、試合に出場して賞金を稼ぐ方法(賞金収入)と、スポンサー企業から金銭的なサポートを受ける方法(スポンサー収入)がある。

ただ、ゴルフは個人スポーツなので、人気選手にスポンサー企業が集中する傾向がある。有名選手であればあるほど、賞金収入よりもスポンサー収入のほうが多くなるが、人気がなく露出の少ない選手はスポンサーがなかなかつかない。

今は女子選手にスポンサーが集中しており、レギュラーツアーの出場権がなくてもステップ・アップ・ツアーやBS放送・CS放送のゴルフ番組で露出が見込める選手はスポンサーがつくが、男子選手はレギュラーツアーの出場権があってもスポンサー獲得に苦戦する“男低女高”状態となっている。

一方で、支出を減らすためのサポートは比較的多くの選手が恩恵を受けやすい。航空会社のサポートは一部の選手に限られるが、車のサポートはかなり多くの選手が受けている。車の移動もプロゴルファーにとって必須。試合会場であるゴルフ場の多くは空港や鉄道の駅から離れた場所にあり、商売道具であるキャディバッグを運ぶことを考えると、長距離であっても車での移動が便利なケースが多い。

PGAツアーで5勝を挙げている松山英樹はトヨタが世界展開する高級ブランドLEXUS(レクサス)と所属契約を結んでいる。宮里藍は引退後もホンダとスポンサー契約している。メルセデス・ベンツは日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)およびJGTOのオフィシャルスポンサーを務めており、香妻琴乃、松森彩夏、柏原明日架、大西葵、金澤志奈、稲見萌寧、吉田優利をサポートしている。

自動車メーカーではなく、ディーラーや中古車販売店からサポートを受けている選手もいる。今季から青木瀬令奈の所属先となったマツシマホールディングスは京都を拠点に新車ディーラーや中古車販売などを手がける企業グループ。また、中古車販売のカーセブンは、アン ソンジュ、岡山絵里、川岸史果をサポートしている。航空券や車の提供など移動費のサポートは、選手はありがたいし、スポンサー企業も現物支給で金銭的な負担がそれほど大きくないので、お互いにとってメリットが多い。

2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で大打撃を受けているスポンサー企業もあるが、選手たちも試合が次々と中止になる中、戦いの舞台を求めて国内から海外まで飛び回っている。12月開催となった全米女子オープンも16人の日本人選手が出場資格を得て、ほとんどの選手が出場すると見られる。過酷な移動を続ける選手たちへのサポートはぜひ続けてほしい。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。