ここまでの競技人生は平坦ではなかった。13年世界選手権種目別あん馬で優勝し、14年は世界選手権団体銀メダルの一員となったが、その後は国内大会で安定感を欠くようになり、16年リオデジャネイロ五輪は落選。引退を決意した。
ところが、徳洲会の米田功監督にその旨を告げると「もったいないやろ」と言われ、胸を衝かれたような気持ちになった。
「やめようと思った時に米田監督に『やめてまうんか』と言って頂いたり、周りの方々から『まだいけるでしょ』と拾い上げてくれたり、手を差し伸べて引っ張ってくれたりした」
それは、誰もが亀山が持つ人一倍の才能を認めていたから。長い手足、世界一美しいつま先。天からのギフトに加え、とことん競技に打ち込む姿勢があった。
「神様がいて『君にはオリンピックで金メダルを獲れる才能を与えているから、あとはやってごらんよ』と言ってもらっているような不思議な感覚があります」
亀山自身もそう語っている。
とはいえ、東京五輪の代表入りも一筋縄ではいかなかった。亀山が個人枠での五輪出場を決めたのは今年6月下旬。カタール・ドーハでのワールドカップ(W杯)最終戦を終えた後で、五輪本番まで1カ月を切ったタイミングだった。
種目別W杯でしのぎを削り合ったのは世界にいるあん馬のライバルたちだけではない。種目別W杯で得られる国別の個人枠はわずか1つ。亀山には、跳馬の米倉英信、鉄棒の宮地秀享、ゆかの南一輝という国内のライバルもいた。どの選手も世界トップクラスの技を持つハイレベルな選手たちだ。
「周りが本当に強く、僕は(五輪代表候補の)1番手ではなかったと思う。決まった時は運が転がってきたという感覚になりました」
強い気持ちで臨む初オリンピック
ドーハから帰国して隔離生活を送っていた7月上旬、亀山は残り僅かな日数で強化すべきポイントをはっきりと定めていた。それは、「本当に良い演技だけを求めて練習する」ということだ。
東京五輪の選考会として19年から参戦してきた種目別W杯では、ミスを恐れるあまり攻めの演技をできず、次第に小さく縮こまってしまっていた。最後のドーハW杯でそれに気づいた。
「ミスをしてはいけないという状況が続いたので保守的になり、良い演技をちゃんとつくって来られず、演技が崩れていると感じた。五輪まで本当に良い演技を求めて練習していく。それをやることで金メダルに近づくと思う」
こうして迎えた7月24日の予選。「ほどよく緊張した」という亀山はゆっくりと息を吐いて集中力を高め、演技を開始した。最初の倒立でやや反ったが、落ち着いて次の技へ。取っ手を片手で持って360度旋回する「ショーン」を美しくさばき、ミスの出やすいF難度の大技「ブスナリ」も決めた。
両手を胸の前で交差しながら情感を込めるような着地。目を閉じたまま両手を握りしめた表情から、演技への満足感が伝わった。
「良い演技を思いきり出そうと思っていた。何も考えず、感じるままにやって、結果的に良かった。初めてのオリンピック。本当に感謝と喜びでいっぱいです」とかみしめるように言った。
決勝ではさらに難度を上げて挑む予定だ。
「思い切って本当に良い演技を目指すだけだと思う。シンプルにそこに集中したい。点数は人が決めることなので、自分がどれくらいできたかに尺度を向けてやっていきたい」
今大会は、自身と同学年の内村航平と一緒の出場だった。開幕前、亀山は「巡り合わせですね。おなじ『コウヘイ』として頑張りたい」と意気込んでいた。内村は種目別鉄棒予選でミスが出て決勝進出を逃したが、自身の演技を終えた後も日本チームの演技をフロアで見守り、「亀山は五輪が初めてで、気持ちが入った演技をしていた」と勢いを感じていた。
決勝では予選1位の李智凱(台湾)や、リオ五輪種目別金メダルなど実績十分のマックス・ウィットロック(英国)らとの争いになるだろう。予選の点を見る限り、僅差の戦いが予想されるが、多くの選手が難度を上げてくる見込みで、その中でもミスをしないことが重要になる。
しかし、亀山の気持ちがぶれることはない。
「絶対に自分が金メダルを獲ると信じ込んで突っ走っていきたい」
回り道をしてきたからこそ、得られる喜びも大きいはず。すべての思いを込めて、決勝の舞台に向かう。