「小さな頃から勝負事が好きだった」

小さな頃から勝負事は好きでした。なかでも体を使って勝敗を争うことが好きで、友だちと鉄棒から跳んだ距離を競ったり、跳び箱を跳べた段数を競ったりしていましたね。どんな勝負事でも勝つことを模索する負けず嫌いだったことは確かです。
自転車でも友だちとスピードを競い合うことがしばしばありましたが、その頃は特別に自分が速いと感じることはありませんでした。それは賞金王ランキングで首位になっている今(2021年8月現在)も、自分が強い、速いと思ったことは一度もありません。わずか9名のS級S班にいる現在も、脚力だけでいうとトップテンにも入らないでしょう。ですが、競輪は頭を使って駆け引きをすれば、脚力で劣っていても勝てる競技なのです。だから、いまだに燃え尽きることがなく、勝つための思考を続けられているのだと思います。

「まだまだ強くなれる」トップに輝いても進化し続けるための心構え

まだまだ強くなれると思っている僕は、他競技でも参考になることがあるのではないかと考えています。それは、自身にそのような成功体験があるからでしょう。
中学生までは水泳に取り組んでいましたが、その経験が競輪でも生きていると感じることがありました。ひとつはレースのペース配分です。最後に一着でゴールするためにどのタイミングでどのように力を使えば良いかなど、展開を考えてレースに挑む方法はよく似ていたので戸惑うことがありませんでした。水泳の経験が競輪に役立ったことは、もうひとつあります。それは肩まわりの柔らかさです。競輪では相手とぶつかることが日常茶飯事なのですが、相手と当たるときには肩を横に出したりします。そういったときに肩まわりが柔らかいと、フォームを崩さずに自転車をコントロールしやすいのです。茨城の吉田拓矢選手も確か小さい頃に水泳をやっていたと聞いたのですが、やはり肩まわりをうまく使いこなしていて柔らかいフォームで乗っている印象です。
そのように他競技の経験が生きていると感じる選手は少なくありません。たとえば、陸上経験のある選手は足腰が強く脚力を持っているイメージです。同様に、野球やサッカーの経験者も、基本的に足腰が強い選手が多いように感じています。そういった特徴は多かれ少なかれ、どの選手にもあるものです。結局は、そういった自身の強みと言える特徴をどう生かすのか、それを考えられることのほうが重要だと思います。

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最も影響を受けた他競技の選手はイチロー選手

最近では他競技の選手から話を聞いて、吸収できることがないか探っています。
2018年のトークショーをきっかけに、広島カープに所属する一岡竜司投手と仲良くなりました。時々、野球について聞くことがあります。以前にウォーミングアップについて聞いたのですが、彼はリリーフピッチャーなので急に出番となることがほとんどなのです。そのときは、準備する時間が多い自分たち競輪選手とは環境が違い過ぎることに、ただただ驚いただけでした。
その他にも仲の良い競艇選手に聞いたりすることもありますが、彼らは体を整えるよりもエンジンやプロペラの整備を重要視しているようで、ウォーミングアップについては参考にできることがあまりありませんでした。
このように参考にできないパターンも多々ありますが、これまでで最も影響を受けた他競技の選手はイチローさんです。実際にお会いしたわけではないですが、イチローさんの著書で感銘を受けました。最初に読んだときはわからないことが多かったのですが、年齢を重ねるにつれて理解できるようになってきました。5、6年前にプロアスリートとしての甘さに気がつかされ、プロとして気持ちを改め直すきっかけとなったのです。
スポーツに限らず、どんな物事でも取り組む気持ちや姿勢は大事だとということを理解しました。振り返ると、過去の自分は言われたことになんとなく取り組んできたことが多かったように思います。イチローさんの著書をはじめ、多くの有名なアスリートの著書を読みましたが、その意識から違うことに気づかされたのです。今では学生時代の自分に言い聞かせてやりたいですね。
そういった意識が変われば、競技以外の生活スタイルも変化していきます。そのように他競技の選手から影響受けた現在は、後悔しないように毎日を一生懸命に送ろうと心がけています。そう思えるようになってからは、不思議と成績も向上するようになりましたね。

「競輪は自分の力だけでは勝てない」

現在ではプロの競輪選手として練習の姿勢だけでなく、普段の生活や人間関係にも気を配るようにしています。競輪は自分の力だけでは勝てません。同じラインを形成する選手からは信頼されたほうが良いわけで、そのために自身の役割をこなすことはもちろん大切になります。そのうえで普段から良き人気関係を築いていれば、さらに信頼度を上げることができるでしょう。やっぱり、自分勝手にやっている選手より信頼できる選手が勝ったほうが、負けた選手も喜びやすいですよね。なので、あいつには勝たせたくないと思われるより、こいつなら勝たせても良いかって思ってもらえるような選手になれるように努めています。
そういった意味では、大谷翔平選手が花巻東高校時代に書いていたマンダラチャートの内容に、今はすごく共感できます。それと同時に、高校生ですでに人間性まで必要になることを見抜いていた大谷翔平選手はやっぱりただものではないと感じ、尊敬して注目していますね。

松浦悠士(まつうら・ゆうじ)
1990年11月21日生まれ(30歳)、広島県出身。98期生として日本競輪学校(現:日本競輪選手養成所)を卒業し、2010年7月に熊本競輪場でデビュー。G1タイトルは2019年11月小倉競輪祭、2020年8月オールスター競輪、そして今年5月には日本選手権競輪を制して「ダービー王」の称号を手にしている。S級S班は今年2年目で、現在の獲得賞金ランキングでは首位を独走。株式会社チャリ・ロトとは 2017年7月よりスポンサー契約を結ぶ。

(協力)チャリロト パーフェクタナビ編集部
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チャリロト「パーフェクタナビ」では、競輪・オートレース・自転車競技の最新情報を毎日発信。競輪選手やオートレース選手のコラムも数多く連載中。


VictorySportsNews編集部