4団体王座統一へ大切な一戦
世界タイトルマッチは2試合。井上拓真(大橋)が世界カムバックをかけて挑むWBA(世界ボクシング協会)バンタム級王座決定戦がひとつ。そしてライトフライ級の2団体チャンピオン寺地拳四朗(BMB)が出場する。
寺地はアンソニー・オラスクアガ(アメリカ)の挑戦を受ける。当初はWBC(世界ボクシング評議会)とWBAの王座に君臨する寺地がWBO(世界ボクシング機構)のライバル王者ジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)と雌雄を決するはずだったが、ゴンサレスが急病のため、カード変更となったものだ。
寺地が大きな目標に掲げる全王座統一のためにも、負けられない一番である。バンタム級の井上尚弥(大橋)がアジア人で初めて果たした世界のメジャー4団体王座統一。井上に続き、この偉業を達成できるのではないかと期待されているのがライトフライ級の寺地なのである。
31歳の寺地はいまボクシング人生の充実期にいる。天才的な距離感覚で主導権を握るボクシングは磨きに磨かれ、前回の京口紘人(ワタナベ)戦のように攻撃的な面でもファンに訴えるようになった。「まだまだ強くなる」と寺地が自信を隠さないのも納得のボクシングを見せているのだ。
振り返れば、不思議な気がしないでもない。アマチュアを経験して2014年8月にプロデビューした寺地が初の世界タイトルを握ったのはその3年後。ガニガン・ロペス(メキシコ)に判定勝ちを収め、10戦全勝でWBC王座に就いた。
この試合はマジョリティ・デシジョン(2−0判定)だったが、防衛戦ロードでは徐々に安定感を増す。打たせずに打つ盤石のボクシングで8連続防衛に成功。当時の寺地は具志堅用高の持つ「日本記録V13超え」を公言し、連続防衛記録にこだわっていた。苦戦すらほとんどない寺地なら現実味のある目標に思えたものである。
挫折と勇気ある変化
ところが9度目の防衛戦で矢吹正道(緑)に10ラウンドTKO負けを喫し、この計画は頓挫する。プロ初黒星を味わい、無冠となり、モチベーション(連続防衛記録)も喪失——これが2021年9月のことだ。あの時、現在の4団体王座統一にまい進する寺地の姿を想像できたものがどれだけいたろうか。いま思えば矢吹戦の負けは劇薬のようなものだったのか。
寺地は半年後(昨年3月)のダイレクトリマッチで矢吹に3ラウンドKO勝ちして、WBC王座に返り咲いた。何より周囲を驚かせたのが、それまでと打って変わって攻撃的なプレッシャー・スタイルで飛ばして試合を決めたことだ。
ただでさえ、負けた相手の世界王座に直接挑み奪還することは難事である。そこで戦法をガラリと変えて出ようというのだから相当なプレッシャーだったろう。結果的に、この成功体験は寺地にかつてない自信をもたらした。
続けざまに京口とのWBC−WBA王座統一戦が用意されたのも、寺地にとっていいタイミングだった。チャンピオン対決は強烈なインパクトを与える試合内容。京口の反撃にも耐えて最後は寺地が倒しきった。鋭く力強い左ジャブとワンツーで京口にかけるプレッシャーも強く、寺地の新たな魅力を大いにアピールしたのである。
ベルトを2本まとめた寺地は、「ベルトが増えるにつれてプレッシャーも大きくなりますね」と統一事業の難しさを語りつつ、「そこで勝っていくのが強いチャンピオンなのかなと思います」とさっそく次の統一戦に意欲を示した。
残念ながら、ゴンサレスとの3団体王座統一戦は試合まで2週間となったところでひとまずお蔵入りとなった。さらに対戦相手がサウスポーから右構えに変更されたわけだが、寺地に動揺はうかがえない。それだけいまの自分の力に自信があるに違いない。
また小柄なフットワーカーのゴンサレスよりもファイター型に近いオラスクアガのほうが試合としてかみ合いそうではある。