2部ブンデスリーガは2021-2022年シーズン、1部から降格してきたシャルケとブレーメンが同居するために「史上最高の2部」と謳われ、ドイツ各紙やテレビ局が2部ブンデスリーガの特別枠を設けるくらいに盛り上がった。その時に比べると、今季はそこまでの特別感はない。とはいえ、「1部のホッフェンハイム対ハイデンハイムよりも、2部のマグデブルク対ハンザロストックの方がエモーショナルになる」と言う声も聞かれる。
まずは再び2部に戻ってきたシャルケ。ルール地方の人気クラブであるこの名門については内田篤人、板倉滉、吉田麻也が所属していたために日本でもよく知られているが、普段の練習でも数千人が集まったり、2022-2023シーズンのホームゲームには1試合平均61133人を集めた人気クラブだ。2部にいた2021-2022年シーズンはコロナ禍の影響もあってか減ったものの、今シーズンは2部になってもそんなに変わらないだろう。アウェー戦に帯同するファンたちも数千人にはなる。しかし、現在上月壮一郎が所属するこのシャルケが再び1年きりで余裕で1部昇格を果たせるかというと、そう容易ではない。
今季で2部6シーズン目となるHSVも、初めて2部でスタートした時には、そんなに長い時間1部に戻ってこられないとは誰も予想していなかった。昨シーズンも昇格寸前まで行ったにもかかわらず、シュツットガルトとの入れ替え戦で敗れて、それを逃した。2003年から2006年まで高原直泰が所属していたHSVは、ドイツのレジェンド、ウーヴェ・ゼーラーが全選手人生を捧げたクラブとして知られ、のちに長谷部誠や内田篤人を指導することになるフェリックス・マガトが選手時代、1982-1983年シーズンにキャプテンとしてUEFAチャンピオンズカップを制覇している。2015-2019年には酒井高徳と伊藤達哉が所属し、現トッテナムのソン・フンミンが高校時代を過ごし、欧州でのキャリアの一歩を歩み始めたのもここである。
ハンブルクを拠点とするもう一つのザンクトパウリは、ハンブルクの港地区を拠点にし、近年はそこまで目立たないとはいえ、1960年代、70年代くらいからパンクロック系の人たちをサポーターにし、幹部も体制批判的な発言をする”ちょっと違うクラブ”として知られ、ドクロマークをつけたサポーターは、ドイツ国内だけでなく、世界中にいる。20年ほど前に倒産しかけた時には、「こんなに愛されるクラブを消えさせるわけにはいかない」とばかりに、バイエルンが救済に乗り出したくらいである。宮市亮も2015年から2021年まで所属した。
シャルケと同様1部から落ちてきたヘルタBSCベルリンは、首都ベルリンの1番手的なクラブだったが、長年のミスマネージメントにより財政が緊迫。今年になって777パートナーズが資本投入を行い、現在人員整理と組織刷新を進めている最中である。東ベルリンの”小”クラブだったウニオン・ベルリンと立場が逆転してしまった。ホームのオリンピアスタジアムは7万4649人収容でリーグ戦では空席が目立つことも多いが、毎年ドイツ杯決勝の会場であり、1936年のベルリンオリンピックのために造られたスタジアム建築自体が一見に値する。細貝萌(2013-2016)と原口元気(2014-2018)もここでプレーした。
その他に2部の中でも古豪と呼ばれるのは、かつて清武弘嗣(2012-2014)や長谷部誠(2013-2014)らも所属した1.FCニュルンベルク。拠点ニュルンベルクは、バイエルン州フランケン地方にありクリスマスマーケットで有名だが、サッカー業界的には『キッカー』誌を発行するオリンピア出版社があることでも知られる。1920年から1968年までに9度リーグ戦優勝を果たしている(ブンデスリーガ創立は1963年)が、2019年の史上9度目の降格以来、2部に甘んじている。今シーズン、シント=トロイデンから林大地、グルニク・ザブジェから奥抜侃志を獲得した。
町野修斗が加入し、日本代表の選手を獲得できたとドイツでも話題になったホルシュタイン・キールは、2部の常連である。2020-2021年シーズンのドイツ杯2回戦でバイエルンを敗退させてセンセーションを起こした(PK戦の末6ー5)のは記憶に新しい。拠点の港町キールを州都とするシュレースヴィヒ・ホルシュタイン州は、ドイツで、1部ブンデスリーガで戦ったことのあるクラブが一つもない3州のうちの一つであり、2019年にもタイトル争いをしながら、僅差で昇格を逃している(ちなみに1部ブンデスリーガ所蔵クラブを出したことのないのは他にチューリンゲン州とザクセン・アンハルト州。しかし旧東ドイツのクラブなので、ブンデスリーガに統合されたのは1991年になってから)。
前述したマグデブルクとハンザロストックは旧東ドイツのクラブで、特にマグデブルクは東ドイツ時代、国際舞台でもタイトルを獲得した強豪だった。1973-1974年シーズンにはUEFAカップウィナーズカップ優勝を果たしている。拠点のマグデブルクはザクセン・アンハルト州の州都で、3部から2部に昇格した2022-2023年シーズンは、スタジアムの熱い雰囲気がドイツ全国で話題を呼んだ。かつてHSVを率いて魅力的な攻撃サッカーをしながらも解任されたクリスチャン・ティッツ監督は4シーズン目。HSV時代にお気に入りだった伊藤達哉をベルギーのシント=トロイデンから獲得。重用している。
田中碧と内野貴史に加え、ドイツ人の父、日本人の母を持ち、日本代表入りも期待されるアペルカンプ真大が所属するデュッセルドルフの取り組みにも注目が集まる。今季、スタジアム観戦を無料にする「フォルチュナ・フォー・オール」というプロジェクトを実験的に行う予定であるからだ。なんと、チケット料金をスポンサーがカバーし、無料観戦をアウェー席も含めて可能にするというのだ。初回は10月に行われるカイザースラウテルンで計3試合。歓迎する声がほとんどだが、個人データの濫用や、ファンたちの形骸化に懸念も持つ人がいないわけではない。
カイザースラウテルンも、かつては1部に所属した名門である。ドイツ代表のミロスラフ・クローゼやミヒャエル・バラックもプレーしていたことがある。2004年にギリシア代表を欧州選手権優勝に導くことになるオットー・レーハーゲル監督のもとで、1997-1998年シーズン、1部に昇格して1年目にいきなりブンデスリーガ優勝を成し遂げた快挙は今でも語り草である。数々の財政難と存続の危機、3部での4年間を経て、1年前に2部に戻ってきた。ベッツェンベルクと呼ばれる山の上のスタジアムは、その暑さで知られる。2006年のW杯ドイツ大会グループリーグの初戦で日本代表がフース・ヒディング監督率いるオーストラリアに敗れたのもこのスタジアムだった。
スターらしき選手はいないが、今季はボルシアMGから古巣のカールスルーエに戻ったラース・スティンドル、RBライプツィヒから同じく古巣ハノーファーに戻ったマルセル・ハルステンベルク、パーダーボルンに加入した、以前ブレーメンやウニオン・ベルリンで活躍したマックス・クルーゼは、いずれも元ドイツ代表選手。前述の町野のキールでのパフォーマンスにも注目が集まる。将来、1部ブンデスリーガでも活躍するような、若きタレントの台頭にも注目だ。
田中碧、町野修斗、林大地ら日本人10選手がプレー 個性豊かなクラブが集まるブンデスリーガ2部が開幕
現地時間7月28日、HSV対シャルケの1戦に57000人の観客が入り、5−3と華々しく開幕した2部ブンデスリーガの2023-2024年シーズン。日本人選手が10人も集まるドイツの2部にはファンたちを惹きつける個性的なクラブがたくさんある。どんなクラブがあるのかを見てみよう。
7月のブラウンシュワイク戦で競り合うキールの町野 (C)共同通信