ヘビー級では初めての4団体統一戦

 世界のボクシング界が「4ベルト時代」となって30年余、ヘビー級で全団体統一戦が行われるのは初めてである。

 1990年代にかけてあのマイク・タイソン(アメリカ)が3団体のベルトをまとめた頃は、まだマイナー団体だった最後発のWBOにタッチする必要はなかった。その後、WBOが力を付けて押しも押されもせぬ「4ベルト時代」となってからはビタリ&ウラジミールのクリチコ・ブラザーズ(ウクライナ)が最重量級を支配した。しかし4団体の王座を兄弟で独占したことはあっても、肉親同士で「ただひとりの王者」を決めるわけにもいかなかったのである。余談だが、ビタリ・クリチコは引退して政治家に転身し、いま戦禍の首都キーウの市長を務めている。

 近年のヘビー級はフューリー、アンソニー・ジョシュア(イギリス)、デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)の突出した個性派チャンピオンが覇を競ってきた。フューリーはワイルダーと歴史的なトリロジー(三部作)を制し、現在のWBC王座に君臨している。かたやウシクは1階級下のクルーザー級王者からこのクラスに侵攻し、ジョシュアに勝って一挙3本のベルトを手にした。

 そもそもフューリーとウシクの一戦は今年の春に実現直前まで話が進んでいた。昨年12月、デレク・チゾラ(イギリス)を10ラウンドTKOに撃退してWBC王座を守ったフューリーが、観戦に訪れていたウシクをリングに上げてフェイスオフ。最接近した両者を見て誰もが統一戦を期待し、4月29日にロンドンのウェンブリー・スタジアムで挙行とまで伝えられたのだ。しかしほどなくして交渉は決裂した。報酬の配分と契約に再戦の約束を盛り込むかどうかでもめたのだ。

 そのおかげで今年のヘビー級戦線は停滞した。ウシクは夏にポーランドでダニエル・デュボア(イギリス)を相手に3王座の防衛戦を行ったものの、フューリーのほうはタイトルマッチのリングに立っていない。きたる10月28日にサウジアラビアのリヤドで試合を行うが、相手は総合格闘技の元王者フランシス・ガヌー(カメルーン)。プロボクシング初戦のガヌーではさすがにWBCもタイトルマッチを承認するわけにはいかず、試合はノンタイトル戦である。

伝説のヘビー級チャンピオンの影も

 フューリーをようやくリングで観ることができると喜んだ矢先にガッカリさせられたボクシングファンもいたことだろう。もっともガヌーとの試合で手にする報酬は1億ドル(約150億円)にもなるという噂が出ているから、フューリーにすれば魅力的なオファーである。ウシクとの統一戦でもこれほどは稼げまい。

 このたびの「SIGNED」報道によって、今度こそヘビー級王座統一戦、という期待感がいやがうえにも高まっているのは確かだ。交渉が実った背景にはウシクが報酬配分(フューリー70パーセントに対し30パーセント)をのんだとも囁かれているが、さて……。クルーザー級ですでに4団体王座統一の偉業を達成しているウシクにすれば、最重量級でもベストを証明するチャンスを是が非ともつかみたいに違いない。

 ところで試合がいつ行われるのか、この肝心な点については明らかにされていない。開催地がリヤドということのみである。早ければ年内(12月23日)ともいわれるが、まず来年になるだろう。4月という見方も出ている。

 忘れてはいけないのが、フューリーがその前にガヌーと戦うということだ。今回、ガヌーにはマイク・タイソンが付いており、これも10月28日の試合を盛り上げるだろう。スマートさを兼ね備えたフューリーが足もとをすくわれる可能性は低いだろうが、万が一のことがあれば目も当てられない。そうでなくとも、これまで気の向くままに引退&再起発言を繰り返してきたフューリーであるだけに、まだまだウシクもファンも安心できないか。


VictorySportsNews編集部