オリンピック金メダリストの萩野公介さん(2016年リオデジャネイロオリンピック400m個人メドレー)がスペシャルゲストとして会場を訪れ、水泳教室や競泳リレー対決でイベントを盛り上げた。

東京アクアティクスセンター

 東京アクアティクスセンターは2021年7~9月に東京オリンピック2020大会とパラリンピックの水泳競技で使用した後、リニューアル工事を行い、2023年4月1日に再開業した。再開業後に大きなイベントを開催するのは今回が初の試みだという。

「こちらの施設は公益財団法人東京都スポーツ文化事業団という組織が主に管理・運営を担当しておりまして、管理施設はここを含めて4カ所あります。東京体育館(渋谷区)、駒沢オリンピック公園総合運動場(世田谷区)、東京武道館(足立区)を含む4施設で10月9日のスポーツの日にイベントを開催しようということになりました」(担当者)

 イベントに参加した萩野公介さんは「アクアスポーツフェスティバル」の取り組みについて次のように語る。

「僕はアクアティクスセンターのイベントに参加するのが初めてで、水泳教室を行うのも初めてでした。アクアティクスセンターには先月も学生選手権のときに解説の仕事で来ましたが、来ることはあっても泳ぐことはあまりないので、すごく新鮮でした」(萩野さん)

 萩野さんにとって東京アクアティクスセンターはどんな場所なのだろうか。

「僕が最初に来たのは東京オリンピック2020大会の前でしたけど、『ものすごく大きいな』と思いました。辰巳には元々、東京辰巳国際水泳場がありました。あそこは観客席が片面だけで、もう片面はウッドデッキでした。こちらは4方向が観客席に囲まれているので、『ここにお客さんが入ったらすごいことになるだろうな』と思いました」(萩野さん)

 東京オリンピック2020大会は残念ながらコロナ禍で無観客開催だった。新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが2類相当から5類に移行した5月8日以降は観客席に多くのお客さんが集まっているのだろうか。

「学生選手権は親御さんもいらっしゃっていましたし、チームのみんなが応援していましたから、けっこう入っていましたね。収容人数が多いですから全部埋まるのは難しいかもしれないですけど、来年3月に行われる国際大会日本代表選手選考会、パリオリンピックの代表選考会はたくさんのお客さんが入ってほしいですね」(萩野さん)

 東京辰巳国際水泳場は2023年3月31日に閉館し、これからは東京アクアティクスセンターが“日本の水泳の聖地”としてのバトンを受け継いでいくことになる。萩野さんはこの場所がどんな存在になってほしいと期待しているだろうか。

「僕たちの世代にとって『聖地はどこですか?』と聞かれたら、やっぱり旧辰巳を思い浮かべるんですよね。それはなぜかと言ったら、ジュニアオリンピックカップという小学生区分の全国大会が年に2回、春と夏にあって、春JO、夏JOという通称で呼ばれている全国大会が旧辰巳だったんですよ。だから古い人間にとっての聖地は東京辰巳国際水泳場で、それはたぶん僕の心の中で今後もずっと変わらないだろうなと思います」(萩野さん)

「一方で、ジュニアオリンピックカップがこちらで開催されるようになると、初めて出場した全国大会が東京アクアティクスセンターという子どもたちがこれからどんどん増えていきます。そうなると僕が旧辰巳を聖地だと考えていたように、新しく出てくる選手たちにとって、ここが聖地になっていくんだろうなと思いますし、歴史はそうやってつながっていくだろうと強く感じています」(萩野さん)

 ただ、東京アクアティクスセンターは“日本の水泳の聖地”としてのバトンを受け継ぐためだけに新設されたわけではない。大会のレガシーを最大限に活用し、東京の街で誰もがスポーツを楽しみながら健康増進し、人とのつながりを広げるための役割も担っている。

 東京アクアティクスセンターも競泳選手だけでなく一般の水泳愛好家も利用できる施設だ。だが、そのことはまだあまり知られていない。

「僕自身も今日初めて、一般の方が利用できることを知りました。ぜひ利用してもらって、水泳を身近に感じてほしいです。日本は環境がすごく恵まれていて、学校にプールがあったり、学校にはなくても区民プールや市民プールが家の近くにあったりします。でも、1年に1回くらい旅行感覚で『聖地に行ってみたい』とゴールデンウイークやスポーツの日に利用していただけたらうれしいなと思います」(萩野さん)

 東京アクアティクスセンターの担当者も、一般利用者を増やすための施策に懸命に取り組んでいる。

「今回のようなイベントは1年に1回程度ですが、普段からスポーツ振興事業で水泳教室を開催していますし、オリンピアンやパラリンピアンによる水泳教室も開催していく予定です。初心者の方から高齢者の方まで、何かしらの水泳教室を開催していますので、そちらに通っていただくこともできます」(担当者)

 東京アクアティクスセンターのホームページにアクセスすれば、「一般開放」情報が掲載されており、どのプールがどの日時に一般開放されているか閲覧できる。利用料金は一般700円(2時間30分)、中学生以下300円(1回)だ。興味がある人はぜひホームページで利用方法の詳細を確認し、泳ぎに来てほしい。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。