観客数は約13万6千人で、販売額が下振れしたのは、競泳の高価格帯のチケットなどが振るわなかったため。逆に手ごろな価格だった飛び込みやハイダイビングは「非常に好調だった」(組織委)ことで、販売枚数は伸びたそうだ。

 22年前と同じくメイン会場となったマリンメッセ福岡で、大会前半に行われたのはアーティスティックスイミング(AS)だった。平日だった開幕日は決勝種目がなかったこともあってか、約7千席の会場で来場者は700人あまり。近隣の学校から観戦に来ていた子どもたちが帰ると、スタンドは一気に寂しくなった。「厳しい日があるのは想定していた」と組織委の担当者。2日目以降も満席の状況には遠く、女子ソロで2大会連続2冠を果たした乾友紀子(井村ク)の圧巻の演技や、デュエットで日本勢22年ぶりの金メダルを獲得した安永真白、比嘉もえ組(井村ク)の快挙を、もっと多くの人に会場で見てもらいたかったという思いが胸に残った。

 大会後半に行われた競泳は、地元福岡出身で自己ベストをマークするなど奮闘した女子平泳ぎのベテラン鈴木聡美(ミキハウス)や、男子400メートル個人メドレーで驚異的な世界新記録をマークしたレオン・マルシャン(フランス)のレースでは大きな歓声が巻き起こった。観客数は前半より格段に増えたが、それでも前述の通り、一部のチケットは期待通りには売れなかった。水泳の中では花形の競泳も、東京五輪、昨年の世界選手権と日本は苦戦続き。世界選手権では池江璃花子(横浜ゴム)が6年ぶりの代表復帰を果たしたが、注目を集めるような絶対的な金メダル候補は不在。終わってみれば男子400メートル個人メドレーの瀬戸大也(CHARIS&Co.)と同200メートルバタフライの本多灯(イトマン東京)の2人が銅メダルを獲得したのみで、金メダルを手にして来夏のパリ五輪代表入りを決められた選手はゼロと、厳しい結果となった。

 メディアの立場としても、せっかくの地元開催とあれば、事前に多くの記事を出して盛り上げにつなげたいという思いは強い。ただ、選手の取材機会がなければそれも難しい。今回の世界水泳を前に、代表決定後に日本水泳連盟の主催で競泳代表選手の取材機会が設けられたのは2度。代表選考会の日本選手権が終わった直後の4月と、大会開幕直前の7月だった。2度目は当初、開幕前日の7月13日に東京で設定された。13日には福岡でASや飛び込みの公式練習と開幕前日会見が予定されていたことから、どちらかしか取材できないという状況になるため、メディアからの要望で競泳の取材日を変更してもらう事態になった。ハイダイビング男子の荒田恭兵(高岡SC)が6月に世界選手権への出場を決めたときも、水連から発表はなく、ホームページに掲載されていた代表名簿に名前が追加されただけ。日本勢で初めて世界水泳に出た荒田が、27メートルの高さから飛び込むというスリリングなその競技性とともに大きな話題を呼んだことを考えれば、大会前にもっと周知されていれば、さらに注目を集めることもできたのではないだろうか。

 アマチュアスポーツとプロスポーツを一概には比較できないかもしれないが、8月から沖縄で開催されたバスケットボール男子のワールドカップは、日本戦のチケットが入手困難とされ、実際に試合では満員の観客が会場を埋めた。初戦では購入していた法人が来場しなかったため一部空席が生じる問題はあったものの、大会組織委が当該エリアの再販売を実施したため、次の試合からはそれも解消。テレビ視聴率も高く、日本が48年ぶりに自力での五輪出場権を獲得したという結果も含め、世界水泳とは対照的だった。

 折しも世界水泳後、競泳の代表選手からはSNSで日本水泳連盟の強化体制に対し「アスリートファーストではない」などと不満の声が上がった。世界水泳での結果やチケット販売の責任が全て水連にあるわけではないが、強化策や選手への注目度を高めるための施策に改善の余地があることは否めない。現状では来夏のパリ五輪も厳しい戦いになることが予想されており、好結果が出なければ競技への注目度の減少にもつながる。課題山積の日本水泳界は様々な点で改革が求められている。


VictorySportsNews編集部