モンゴル大統領の来訪
2004年4月にモンゴル首相がデンバーを訪れた。米国主要都市との親善交流のための訪米であり、デンバーはウランバートルと姉妹都市の関係があったため来訪したのである。デンバーに着いた首相はモンゴルコミュニティの長老から本間の話を聞いた。
「デンバーには日本館総本部という合気道道場があり、そこの館長の本間先生から私たちは大変お世話になっています。日本庭園付きの大きなレストランがあり、そこで毎年、私たちのために「モンゴル懇親カラオケ大会」を催してくれています。コロラドに住む私達にとっては、年に1度のお祭りのようなものです。そんなことをしてくれる人は他にはいません。私たちは有難くて、有難くて……」
本間から話を聞いた山本が調べたところ、モンゴルの長老は涙ながらに首相に語ったそうだ。異境の地で、我が同胞の老人たちがかように世話になっている日本人がいるのであれば、ぜひとも挨拶に行かねばならない。そんな次第で、モンゴル首相一行が日本館に来訪することとなったのである。
本間は思わぬ展開に驚いたが、日本は歴史的にもモンゴルとは深い関係にある。植芝開祖が若い頃、大陸雄飛を夢見て憧れた国でもある。そんな思いを抱きながら首相一行を鄭重に出迎えた。
ところが同年7月に、今度はモンゴル大統領がデンバーにやってきた。ワシントンでのブッシュ大統領との会談後、モンゴル最高位ラマ僧チョイザムズ・デンブレル師、国防長官、外務大臣など総勢20名余の要人を引き連れて大統領がデンバーにやってきた。そしてまた日本館を訪問したのである。
4月に訪問した首相からの報告で、本間のことが話題になったとも推察せられるが、その当時、要人警護SPに本間が合気道を指導し、また軍幹部や政府高官にも本間の弟子がいた関係もあり、大統領が本間に関心を持ち、日本館を訪ねてくることになったようだ。
無刀取りの武者修行
日本館総本部の完成後、本間館長は武者修行の旅に出かけるようになった。
彼が武者修行に飛び出して行く先は、ほとんどが開発途上国の言葉も通じない国々である。彼はその開発途上国の末端道場を前線道場と呼び、そこにあえて身を投じて己を鍛えているという。
特に他武道(空手、中国拳法等)を稽古している道場へ積極的に出稽古に行く。この場合、他武道からの挑戦者も危険であるが、それ以外にもテロ、犯罪、風土病等に襲われる危険が常に存在することになる。
我が身を厳しい異国の前線道場の緊張の中に置き、他の武道家と同じ目線から己の武道、武技の確認工夫を行なおうというのである。彼らの世界(アウェー)で、名も知らぬ武道家達とどのように対戦し、どのように彼等を扱って自分のペースに引き込むか、つまり「無刀取り」の実践修行をしているということである。
その実践修業と併せて、AHAN(Aikido Humanitarian Active Network)というボランティア活動を行っている。開発途上国へ出かけて行くと、貧しい子供達の姿を見にすることが多い。その姿を見ていると本間はじっとしていられなくなる。例えば孤児院があるとそこを訪れ、事情を聴き、食糧、教材など必要な支援を行う。
無刀取りの実践修業とAHAN活動の二刀流を行うことによって、本間は合気道の精神を現地武道家達に訴えているのだ。