世界タイトルマッチは井上戦ともうひとつ、武居由樹(大橋)−比嘉大吾(志成)のWBO(世界ボクシング機構)バンタム級戦。パンチャー同士の必殺KO戦は近年の日本人対決でも屈指のスリルを提供するに違いない。ほかにも、日本スーパーバンタム級王者の下町俊貴(グリーンツダ)、OPBF&WBOアジアパシフィック・ウェルター級王者の佐々木尽(八王子中屋)とホープたちが出場する。

中量級平岡アンディの挑戦

 世界戦に準じた試合も開催される。イスマエル・バロッソ(ベネズエラ)と平岡アンディ(大橋)によるWBA(世界ボクシング協会)スーパーライト級挑戦者決定戦だ。両者にとって世界タイトルマッチ出場をかけた重要な試合であるだけでなく、勝負を占うおもしろさが十分ある。ここでは、この一戦にフォーカスしよう。

 平岡はガーナ人の父と日本人の母を持つ28歳。180センチの長身を生かしたシャープなボクシングでここまで23戦全勝(18KO)のレコードを誇る。アメリカの大手プロモーション、トップランクと契約してラスベガスのリングも経験済みだ。日本から世界をうかがう中量級のサウスポーである。

 ちなみにアマチュアボクシングでパリ五輪に出場した岡澤セオン(INSPA)も父親がガーナ人だが、アンディとセオンには実際に交流があるという。

 横浜生まれのアンディがグローブを手にしたのは4歳の時だ。中学、高校は陸上で活躍し、国体にも出場した。横浜高校在学中に花形ジムからプロデビュー。東日本新人王を獲得後、アメリカに修行に出る。現地での体験は平岡に大きな影響を与えた。世界チャンピオンの大志を抱き、帰国後は大橋ジムに移籍して再び全勝ロードを駆けていく。

 日本ユース王座から日本王座にステップアップし、同時にWBOアジアパシフィック王座も守り続け、世界に飛び出すチャンスを待っていた。昨年の出番は1試合のみだったが、この間も父親のジャスティス・トレーナーと積極的に海外へ出かけて腕を磨いていた。父の祖国ガーナでは元世界フェザー、ジュニアライト級王者のアズマー・ネルソン氏からアドバイスを受けた。ネルソン氏はアフリカ最高の戦士と名高い元名チャンピオンである。また今年春に滞在したイギリスでは世界上位の実力者ジャック・カテラルとスパーリングをし、ダウンを奪って周囲を驚かせたという。

年齢を感じさせない対戦相手

 国内レベルでは図抜けた平岡にとって今回のバロッソ戦は、まさしく「世界のテスト」となる。

 バロッソはWBAスーパーライト級の暫定チャンピオンでもある。ランキングからすれば同級6位の平岡よりも格上で、プロで31戦25勝23KO4敗2分。41歳と聞けば衰えもあって当然だが、平岡ファンはこのバロッソにそれは期待できそうにない。バリバリの41歳なのだ。

 平岡と同じサウスポーの強打者だが、タイプは異なる。「Blade」の異名通りに切れる刃のようなパンチを放つ平岡に対し、バロッソはタイミングのずれた左強打を死角から飛ばしてくる。これで意外にも思えるようなワンパンチKOを演出するのだ。

 昨年5月、ローランド・ロメロ(アメリカ)との王座決定戦では3ラウンドにダウンを奪いながら早いストップ負けを宣告されて気の毒だったが、8ヵ月後に再び暫定王座決定戦の打診があり、リングに上がったベテランはオハラ・デービス(イギリス)を初回あっという間に片づけてしまった。

 さて平岡はこの難敵に勝って世界スーパーライト級王座への挑戦資格を手に入れられるか。

 そしてもう一点注目すべきは、世界の中量級戦が日本のイベントで行われること。井上尚弥の活躍で軽量級のホットスポットになった感のある日本で、今後平岡のあとに続く国内中量級ボクサーたちの励みとなるに違いない。

 だからこそ今度の平岡にかかる期待は一層大きくなるのだが——。


VictorySportsNews編集部