アスリートの活躍と深い関係性にある「休養」

 今やアスリートにとって休養(リカバリー)は運動(トレーニング)や栄養(バランスの取れた食事)と同じか、それ以上に大事なアスリート活動を長く続けるための要素となっている。かつては練習やトレーニングを長時間行うことがアスリートの成長にとって重要だと思われていたが、人体に関する科学的研究が進むにつれ、試合でのパフォーマンスを高めるには筋肉や脳をしっかり休ませるのも大事ということが分かってきた。

 昭和の時代のプロ野球選手は睡眠時間を削って夜の繁華街で飲み歩くことが武勇伝として語られていたが、そんな選手はもはや絶滅危惧種となっている。大谷選手がお酒をほとんど飲まないこともよく知られているが、その理由の一つは睡眠の質が下がるからである。飲酒が睡眠の質を下げることはさまざまな研究によって明らかになっている。

 では睡眠の質を上げるにはどうしたらいいか。この分野の研究も加速度的に進んでいる。大谷選手とサポート契約を結んでいる西川は、2009年にマットレス「エアー01」、2010年にピロー(枕)「エアー3D」を発売し、アスリートの睡眠の質を上げる寝具を次々と送り出してきた。

 ちょうど同じ時期に株式会社ベネクスというベンチャー企業が神奈川県、東海大学と産学官連携事業を開始し、2010年2月にナノプラチナなどの鉱物を含む独自素材を練り込んだ繊維を使って開発したリカバリーウェアを発売した。リカバリーウェアとは睡眠時に着用すると血行を促進し、疲労回復をサポートしてくれるパジャマのことである。これがスポーツ関係者の間で「疲労回復効果が実感できた」とクチコミで広まり、大ヒット商品となった。

レッドオーシャン化するリカバリー業界

 そこから日本におけるリカバリー(休養・抗疲労)市場が一気に活性化した。さまざまな企業が研究を始め、独自の素材を生み出し、新しい商品を次々と発売している。

 2017年設立の株式会社りらいぶが開発した「リライブウェア」は、人気YouTubeチャンネル「令和の虎CHANNEL」で話題になり、タレントの出川哲朗さんが出演するテレビCMで人気が沸騰している。

 2018年設立の株式会社TENTIAL(テンシャル)は、「BAKUNE」(バクネ)という印象深いネーミングのリカバリーウェア(疲労回復パジャマ)を開発し、存在感を発揮している。

 トレーニングギアでおなじみのSIXPAD(シックスパッド)は2020年に先端テクノロジー×睡眠ブランド「NEWPEACE」(ニューピース)を始動。2023年にはシックスパッドブランドのリカバリーウェアの発売も開始した。

 磁気ネックレスで有名なコラントッテも、2019年に健康3大要素をトータルサポートするブランドとして立ち上げた「コラントッテRESNO(レスノ)」を2023年に心地よい睡眠環境を考えるブランドにリニューアル。リカバリーウェアの開発・販売に力を入れている。

 リカバリーウェアを世に広めた株式会社ベネクスが中心となって立ち上げた一般社団法人日本リカバリー協会によると、2023年のリカバリー市場は推計5.4兆円で、2019年の3.9兆円から1.4倍の規模に成長しているという。その市場規模は2030年に14.1兆円まで拡大する見通しだ。

 ただ、市場規模がこれほどまで拡大し、商品ラインナップが多様化してくると、どのメーカーの商品が最も疲労回復効果が高いのか比較するのが難しくなってくる。それとリカバリーウェアは普通のパジャマに比べてはるかに高額なので、費用に見合った効果が得られるのかどうかも気になるところだ。

寝具メーカー初となるリカバリーウェア開発

 そんな中、睡眠の質を上げるための研究を長年にわたって積み重ねてきた西川が2024年11月に満を持してリカバリーウェアの販売を開始した。一般医療機器「家庭用遠赤外線血行促進用衣」の届出をした「[エアーリカバリー]スリープテック※ウェア」をはじめ、リカバリーアイテム全5アイテムを全国の取り扱い店舗と公式オンラインショップで新たに展開する。

特殊繊維素材「PHT」を採用した、nishikawaの[エアーリカバリー]スリープテックウェア

 同社のリカバリーウェアはナノプラチナなどの鉱物を繊維1本1本に練り込んだ特殊繊維素材を採用し、遠赤外線を放出して筋肉のコリはハリを和らげ、血行を促進する効果があるという。また、手首と足首を温めるために長めに設計した独自の仕様「スリープフラップ」が就寝前に快適なぬくもりを与え、スムーズなリカバリーをサポートする。

 リカバリーウェアは元々、要介護者の血行障害を改善したり、介護士の体を労ったりする介護用品として開発されたがアスリートの疲労回復にも効果があるのではないかと注目を集め、一気に広まった。その分野のサポートを以前から行ってきた西川が参入することで、市場規模がさらに拡大する起爆剤になるかもしれない。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。