24年のベイスターズの打撃成績は、打率.257、69盗塁はリーグ1位、522得点、長打率.375がリーグ1位、出塁率.313がリーグ3位(1位は.314で阪神)で101本塁打はリーグ2位(1位はヤクルトの103)と、軒並み高水準の数字を残した。防御率3.07がリーグ5位だったことを考えると、やはりイメージ通り強力な打線を武器に好成績を残したといえる。

 この強力な打線をさらなる強みとし、最大限効率的に得点を稼ぐにはどうしたらいいのか。国内FA権を取得した佐野が残留し、オースティンとはオプションを行使して契約を延長するなど、その主要メンバーが大きく変わらない中で、やはり重要になるのは打順だ。そこで、今回は客観的なデータでベイスターズのベスト布陣を分析。24年の成績から、最も効果的なオーダーを導き出す。

 まず、改めて考えたいのが打順の意味合いだ。米大リーグ、ドジャースで大谷が2番に入っていることからも、セイバーメトリクスが浸透するメジャーでは「2番最強打者説」が打順論において地位を確立しているのは、日本でも多くの人が知るところ。その「2番」以外にも、セイバーメトリクスでは主に以下のような打順のセオリーがある。

① 打力上位3人を「1番」「2番」「4番」に配置
② 「1番」は出塁を重視し走力は不問、「4番」は長打を重視、「2番」は併殺を回避できる一定の走力があるとベター
③ 打力が4、5位の打者を「3番」「5番」に配置
④ 「6番」以降は打力順に配置

 では、この「打力」をどう判断するか。打者の力量を考える上で、よく使われる指標が「OPS」,「RC27」「wOBA」だ。

 「OPS」は「On Plus Slugging」の略で、長打率と出塁率を足し合わせた数値。選手がチームの得点にどれくらい貢献できているかを表すもので、もはや説明不要といっていいほど一般的になっている。24年シーズンのベイスターズで150打席以上に立った選手の数字は以下。(数値の目安:1.00=MVP級 900=ベストナイン級 .800=オールスター級 平均は.700前後 ドジャース・大谷は1.036)

《OPSランキング》
① .983 オースティン=12球団トップ
② .837 牧
③ .815 宮崎
④ .723 山本
⑤ .707 梶原
⑥ .705 佐野
⑦ .685 桑原
⑧ .683 筒香
⑨ .678 蛯名
⑩ .633 度会
⑪ .621 森敬
⑫ .585 京田

 「RC27」とは、ある打者1人で打線を組んだ場合に1試合27アウトを取られるまで挙げられる得点数を表すもの。要は「1番」から「9番」まで全員が牧だったら何点取れるか…といった仮定による数値だ。RCは「Runs Created」の略で、出塁能力と進塁能力を一定の指数から割り出し、RC27は「RC÷(打数-安打+犠打+犠飛+併殺打+盗塁死)×27」で計算。DeNAで150打席以上に立った選手の値は以下のようになっている。(数値の目安:9.0=MVP級 7.0=ベストナイン級 6.0=オールスター級 平均は5.0前後、ドジャース・大谷は10.02)

《RC27ランキング》
① 7.88 オースティン=リーグトップ(12球団トップはソフトバンク・近藤)
② 6.13 牧
③ 6.03 宮崎
④ 4.78 梶原
⑤ 4.38 山本
⑥ 4.22 桑原
⑦ 4.14 佐野
⑧ 3.76 蛯名
⑨ 3.37 筒香
⑩ 3.28 度会
⑪ 2.95 森敬
⑫ 2.81 京田

 もう一つの「wOBA」とは「weighted On Base Average」の略で、打者が1打席あたりにどれだけチームの得点増加に貢献したかを表す数値。総合的な打撃力を表すとされる。計算式は「敬遠を除く四球」「死球」「失策出塁」「単打」「二塁打」「三塁打」「本塁打」にそれぞれ独自の指数をかけて「打数+四球–敬遠+犠飛+死球」で割るというもの。同じくベイスターズで150打席以上に立った選手の順位は以下の通り。(数値の目安:.430=MVP級 .370=ベストナイン級 .340=オールスター級 平均は.320前後 ドジャース・大谷は.431)

《wOBAランキング》
① .430 オースティン=12球団トップ
② .374 牧
③ .370 宮﨑
④ .327 山本
⑤ .326 梶原
⑥ .316 筒香
⑦ .315 佐野
⑧ .314 桑原
⑨ .314 蛯名
⑩ .293 森敬
⑪ .292 度会
⑫ .268 京田

 これらをセイバーメトリクスの打順セオリーに当てはめると、まず「1番」「2番」「4番」に置くべき選手が見えてくる。打力の上位3人は、どの指標を見てもオースティン、牧、宮﨑で、この3人はセ・リーグ全体でもトップ10に入る実力の持ち主たち。「1番」が出塁率、「4番」が長打力を重視するとの定義を当てはめると、「1番・宮﨑」「2番・牧」「4番・オースティン」となる。

 この3人に続く数値を出しているのが梶原、山本。この2人を長打力と守備面の負担も考慮し「3番・梶原」「5番・山本」とする。6番以降を打力順に並べると佐野が一歩抜けており、そこに筒香、桑原、蛯名という外野陣が続く形。中でも筒香は米球界から復帰後、日本の投手の間に苦しみ、左肋骨の骨折で離脱していたことを考えると、その実績からも上昇が期待される。打率.188という数字を見ると確かに期待に応えたとはいえないが、それでもセイバーの指標では梶原を除く外野陣と横一線。本人も「これなら勝負できる」と、第6戦で先制弾に4打点と大暴れした日本シリーズでの活躍に手応えを得たことを明かしており、スタメン候補としての期待は高い。

 その日本シリーズでは桑原が新記録の5試合連続打点を挙げるなど鮮烈な存在感を見せてMVPを獲得。安定した数値を残す蛯名、プロ2年目の躍進を狙う度会を含めた“2番手グループ”が、上位3人の状態次第で外野の枠を狙う形となる。

 残るポジションは、唯一の最大の課題として残る遊撃。こちらは日本シリーズ全6試合にフル出場した22歳の森敬が伸びしろを含めて、25年のレギュラー最右翼となる。守備面でやや不安定さが見られるが、打力は京田を上回っており、林(OPS.467)、石上(OPS.486)には差をつけている。

 そして、導き出される打順がこれだ。

① 三塁・宮﨑 打率.283 14本塁打 56打点
② 二塁・牧 打率.294 23本塁打 74打点
③ 中堅・梶原 打率.292 4本塁打 30打点 (桑原)
④ 一塁・オースティン 打率.316 25本塁打 69打点
⑤ 捕手・山本 打率.291 5本塁打 37打点
⑥ 左翼・佐野 打率.273 8本塁打 62打点 (筒香)
⑦ 右翼・筒香 打率.188 7本塁打 23打点 (度会)
⑧ 遊撃・森敬 打率.251 0本塁打 5打点 (京田)
⑨ 投手

(参考:日本シリーズ第6戦スタメン)
① 中堅・桑原
② 右翼・梶原
③ 二塁・牧
④ 一塁・オースティン
⑤ 左翼・筒香
⑥ 三塁・宮﨑
⑦ 捕手・戸柱
⑧ 遊撃・森敬
⑨ 投手・大貫

 特徴的なのは「1番・宮﨑」だが、セイバーメトリクスでは「1番」に走力は問わず、何より重視される出塁率の高さに加えて三振の少なさから見ても意外ではあるが適役と考えられる。また、左翼を筒香と佐野、中堅と右翼を梶原、桑原、度会、蛯名で争う形が守備的には安定するが、打力重視なら筒香と佐野を同時に起用したいところ。経験が少なく未知数な部分もある梶原が昨季終盤の勢いを保てない場合は、経験豊富な桑原を「中堅」に据える形も考えられる。

 また、この昨季の成績を踏まえた打順に“風穴”を開ける可能性があるのが濵口とのトレードでソフトバンクから加入した三森だ。12球団屈指の選手層を誇るチームで22年から2年連続100試合以上に出場した実績の持ち主。今季は右手骨折による離脱もあって25試合の出場で打率.288、1本塁打、13打点にとどまったが、それでもwOBAは.319で、昨季のDeNAに当てはめると6位。俊足巧打の左打ちでメインは二塁だが、三塁、一塁、外野も守れるユーティリティさも武器で、調子を取り戻せば牧、宮﨑のバックアップどころか、ソフトバンクでも担った1番打者候補にもなり得る存在といえる。

 ドラフトで竹田(三菱重工West)、篠木(法大)の即戦力2人を確保し、昨季に中川颯らを獲得した戦力外組でも阪神・岩田やソフトバンク・笠谷を加えるなど投手陣の補強にも余念がないベイスターズ。23年にリーグ最少だった盗塁数が一気にトップになるなど攻撃面も着実に進化を遂げている。もちろん、今回導き出した“ベスト布陣”は昨季のデータによるもので、客観性がある一方、選手個々の成長力などは加味されていない。キャンプやオープン戦を経て、最終的にどのようなスタメンで開幕を迎えるのか。思わぬ選手の台頭、今後の補強戦略も含めて、セイバーメトリクス視点の打順との違いがどう出るかにも注目したいところだ。


VictorySportsNews編集部