プロサッカー選手夢見るも病で断念

 ”健康に前向きな社会を創り、人類のポテンシャルを引き出す”。テンシャルが掲げるこの標語は、中西CEOの過去の苦い経験で得た思いから作られた。中西CEOは小学生の頃からサッカーに打ち込み、プロ選手を夢見ていた。高校は地元の強豪校に進んで活躍し、いよいよプロへの切符をつかめるかもしれないところまで来ていたが、突然狭心症を発症してしまった。手術は成功したものの、プロへの道を断念することとなった。この挫折が後にスポーツや健康の分野での起業へとつながっていった。

「病に倒れた時、健康ではないと何事もできないことを実感した。新しいことにチャレンジをしたいと思っても、体が元気ではないと挑戦できない。テンシャルとして、人類のポテンシャルを引き上げるため、いかに健康に対して前向きで、健康になれるきっかけを作っていけるかをテーマに会社を運営しています」

 創業時はスポーツメディアを展開していたが、約1年半後にコンディショニングブランド「TENTIAL」を立ち上げ、本格的にスポーツと健康の領域に参入する。そして商品開発したのが、疲労回復パジャマ、リカバリーウエア「BAKUNE」だった。専門商社の豊島が開発した、極小のセラミックス粉末を配合した特殊機能繊維「SELFLAME」を用いており、着ることで体の熱がこもって血行促進する。また、寝返りを妨げないように肩周りに余裕のある型を使うなど、快眠にこだわった。すると、睡眠に悩む現代人の琴線に触れたのかヒット商品となり、2024年12月末には累計販売100万セットに達した。

「ヒットの裏側には、日本は特にOECDの中でも睡眠時間がすごく短いと言われていることや、体が不調なまま仕事をしてしまうことで、医療、健康関連などの費用がかかり経済損失になってしまうといった問題があります。日常の健康課題など多くの日本人が抱えているので、少しでも睡眠環境であったり、働く環境をサポートしたい」

プロテニスの西岡良仁選手は創業初期から出資

プロテニスプレーヤー 西岡良仁選手

 スポーツと健康をテーマにしたブランドであるテンシャルだけあって、卓球の平野美宇選手や野球の今永昇太選手といったアスリートへのサポートも行っている。

 その中の1人には、テニスの西岡良仁選手がいる。西岡選手は実はテンシャル創業の頃から出資者として参加していて、サプライヤー契約を結んでいる。ツアーで海外を転戦する際にはテンシャルのパジャマやリカバリーサンダルなどを重宝している。投資家としての一面を持つ西岡選手にとって、テンシャルは初の投資先だった。それだけに今回の上場には感慨深いものがあったという。

「僕としても貴重な経験をした。数年前から僕のYouTubeで初めて中西さんと会って、対談の動画を撮ったりしていた。当時は全然話せていなかったのがおしゃべりが上手くなったとか、中西さんと笑顔が上手くなったとか話思い出として残っているので、今日はすごい嬉しかった」

 また、投資家でもある西岡さんはテンシャルの躍進をこう見ている。

「私たちの(ビジネスでの)ポイントはオンラインを中心に販売マーケティングをしているのが大きい。約7割以上がインターネットを中心に売り上げている」

 オンライン店舗など自社チャネルを中心した販路を作り上げた結果、粗利率69.9%(2024年1月期)という非常に高い割合となっている。一方、テンシャルの認知率は18.3%(2024年12月時点)。認知度をさらに高めつつ商品開発をしていき、将来的には海外での販路も増やしていくことで売り上げを伸ばしていく。

リカバリー市場の拡大と共に売り上げも急伸

 2020年1月期には3700万円だった売上高は、2024年1月期で54.09億円、2025年1月期は119.55億円(予想)と爆発的に伸ばしている。営業利益でも2023年1月期から黒字転換し、2024年1月期は4.73億円で、2025年1月期は13.21億円(予想)を見込む。

「私たちのリカバリー市場は急速に成長していて、2030年までに今の市場規模の2.6倍である14.2兆円にまで成長すると言われてます。健康ニーズであったり健康課題の増加に伴って消費も伸びてくる。テンシャルが選ばれるように商品開発やマーケティングをしっかりしていきたい」(中西CEO)

 ただ、中西CEOは気負いすぎることなく冷静に見ている。

「短期の成果を出しすぎることが長期につながるかなと思ってはいるが、短期にとらわれすぎず、長期的にお客様の価値に向き合っていくことで、結果的に株主の皆さんにとっても価値に繋がっていく。長期に信頼してもらうためにも短期の成果をしっかり出し続けていくことが重要。しっかり仕事を見ながらなんかこれからも成長していきたい」

 テンシャルは主力の睡眠用パジャマ(リカバリーウエア)だけでなく、リカバリーサンダルといった商品でも売り上げを伸ばし始めるなど、着実に顧客の心を掴んでいっている。ただ、同業他社もリカバリーウエアを続々販売している。今後激しい競争にさらされるであろうテンシャルが、どこまで市場を占めることができるのか、中西CEOが狙う次の一手がどういうものか楽しみだ。


大塚淳史

スポーツ報知、中国・上海移住後、日本人向け無料誌、中国メディア日本語版、繊維業界紙上海支局に勤務し、帰国後、日刊工業新聞を経てフリーに。スポーツ、芸能、経済など取材。