アスリート同様の土台づくり
スポーツジムといえば重い負荷をかけたトレーニングで筋肉を大きくしたり、短期間のダイエットを志向するところが少なくない。コンディショニングはそれらと一線を画し、体全体をトータルでバージョンアップさせ、人間本来の機能を向上させるイメージ。数多いジムの中で、一般向けのコンディショニングにいち早く特化したのが東京・代官山の「FLUX CONDITIONINGS(フラックスコンディショニングス=以下フラックス)」。2015年開業。トレーナーで同社役員の湯本昌造氏は「ただ筋肉をつけるのではなく、柔軟性を上げたり、関節の可動域を広げたりと根本的な部分を上げていくことが、将来的に重要になるとの思いがありました」と説明する。会員は右肩上がりで現在約800人。下北沢や六本木に店舗を増やした。
蓄積されたノウハウは機能的に動ける体づくりの他、体のゆがみ改善や頑固な肩こりや腰痛の解消、さらには神経系の働きなど多岐にわたって応用される。フラックスで重要視しているのが「体の評価」。初回に約1時間、姿勢や体の動きをカメラで詳細にチェックする。「お一人お一人、筋力とか関節の可動域は違うので、評価を基に各トレーナーがメニューを組んでいきます」と湯本氏。有名アスリートに専属トレーナーがつくように、フラックスでは会員それぞれがきめ細かいサポートを受けられる。
コンディショニングの土台づくりは大事。実はこの領域、フラックスではアスリートに施す方法と同じという。呼吸を見直して関節の可動域を広げ、コア(体幹)を鍛える。その上で必要に応じて全身の筋肉つけていく。これらを約3カ月で行う。湯本氏はこう解説した。「肩や首などがこる方は呼吸で息をしっかり吐けておらず、緊張している状態が多い。だから最初に肋骨とか胸骨といった胸郭の動きを出すエクササイズをして、固まっている体を動かしていきます。その後に頸椎・胸椎などの脊柱のしなやかさを出していき、股関節や骨盤帯をコントロールする為のトレーニングを行います。」日常に直結するポイントを整えることで、体をコントロールしやすくなったり疲れにくくなったりする効果も期待できる。
マッサージで良くならなかった腰痛を解決
コンディショニングを扱うジムには多様なニーズがある。姿勢を良くしたい、産後ケアをしたい、はたまたゴルフでもっとボールを飛ばしたい、マラソンでもっと速く走りたいなど具体的な希望を抱く人もいる。湯本氏によると、最近では肩こりや腰痛の改善を求めて来る人が増えた。「10年前だったら多分、腰が痛いのでジムに行こうという人はあまりいなかったと思います。コンディショニングという言葉が徐々に浸透し、体を整えるにはちゃんとプロのトレーナーに教わることが必要との認識が広まっていると思います」と世間の変化を感じている。
こんな症例があった。長引く腰痛で悩んでいたビーチバレーボール選手がいた。よくよく体の評価や問診をしたところ、背中にある広背筋の柔軟性をケアしていなかったことが判明。硬い状態のままでアタックを打っており、腰を反っていたことが原因であることを突き止めた。広背筋をほぐしてしっかりと肩が回るようになったら腰痛はなくなったという。「腰自体が原因ではなく、負担がかかっていたことが良くなかったんです。マッサージに行ってもなかなか良くならなかったのを、私たちはコンディショニングの観点から解決しました」と打ち明けた。
年齢層も多彩で、それぞれのライフステージに合わせたメニューづくりをする。湯本氏は年代の違いについて次のように分析する。「20代から30代前半の方は容姿が目的の場合が多いです。かっこいい体になりたいとか、きれいになりたいとか。出産を経験された方は、出産前の体に戻るためにちゃんとしたトレーナーに見てもらいたいという方もいらっしゃいます。男性も40代くらいになるといつまでも若々しくいたい、子どもにかっこいいところを見せたいとおっしゃる方が少なくありません。50代や60代になると長生きするため、いつまでも自分の足でしっかり歩きたいとかですね」。若者から高齢者まで、コンディショニングで幅広い対応が可能となる。

運動習慣でさまざまな効能
スポーツジム初心者の女性にとっても、最初の一歩を踏み出すハードルは低そうだ。フラックス下北沢店で人気なのが、女性向けに特化した姿勢リセットのコース。湯本氏は「姿勢が悪いと腰が痛くなるとか、スタイルも悪くなるとか、ここ数年、姿勢という言葉は非常に響きやすい」と明かす。長く通う50代半ばの女性会員は、今ではキックボクシングにも取り組むなどでアクティブに変身して人生を謳歌。湯本氏は「最初は〝普通のOLさん〟という感じでした。姿勢のラインが整い、体型がすごくきれいになった方も多い。手術を視野に入れていた方が手術をしないで済んだ例もあり、長く通った方はより効果を実感していただいています」とメリットを説く。
日常生活の充実に直接影響するからこそ、カスタマイズされた無理のないメニューで継続しやすい面がある。湯本氏によると、入会後1年在籍した会員は9割近く、その後も通い続けるというデータがある。体を動かすことが定着すれば、運動習慣もできてくる。同氏は「男性を含め、40代からコンディショニングをやり続ければ50代、60代になっても体は変わらず、機能面も落ちません。反対に60代で始めても40代の体に戻ることは難しいかもです」と指摘する。
大リーグでは大谷選手の他にもダルビッシュ有投手(パドレス)や菊池雄星投手(エンゼルス)らもコンディショニングを大事して世界最高峰の舞台でプレーしている。しかし、フラックスの人気に象徴されるように、コンディショニングが心身の健康に効果を発揮するのが、アスリートだけのものではないことは明白。「運動習慣が身に着くと、日々のコンディショニングのためにやるべきことが明確になっていきます。そうなると病気、ぎっくり腰やヘルニアといった外的障害になりづらくなる効果も予想され、年齢を重ねても病院にかかりにくくなると思います」と湯本氏。将来にわたって高い医療費を何度も支払うことを考えると、会費を払っての健康増進は、経済的といえるかもしれない。