メインではPFP(パウンド・フォー・パウンド)十傑入りも果たした寺地拳四朗(BMB)がリカルド・サンドバル(アメリカ)を相手に保持するWBC(世界ボクシング評議会)とWBA(世界ボクシング協会)フライ級王座をかける。また比嘉大吾(志成)はWBAバンタム級王者アントニオ・バルガス(アメリカ)に、高見亨介(帝拳)がWBAライトフライ級王者エリック・ロサ(ドミニカ共和国)に挑むもの。いずれも軽量級ながら好戦的なスタイルを持つ選手とあって、当日は好試合が大いに期待されている。

変貌遂げたスタイルで頂点を目指す

 中でも、比嘉は超エキサイティングなファイターとして一世を風靡した元WBC世界フライ級チャンピオン。沖縄出身らしい熱いファイトでデビュー以来15連続KO勝利の日本タイ記録を樹立。この中にはフアン・エルナンデス(メキシコ)を6ラウンドTKOで破った世界獲得戦も含まれている。

 そのキャリアが暗転したのは、16連続KO勝利、世界フライ級タイトルV3のかかった2018年4月の試合だった。すでにフライ級の限界を超えていた肉体は悲鳴をあげ、比嘉は体重をつくることができず計量に失格。秤の上でチャンピオンベルトを失ったあげく、なんとか出場した試合でも精彩を欠いてクリストファー・ロサレス(ニカラグア)に9ラウンドTKO負けを喫したのだ。

 日本の世界チャンピオンが体重超過で王座はく奪となるのは初めての例で、事態を重く見たJBC(日本ボクシングコミッション)から比嘉はボクサーライセンス無期限停止処分を科される。これが解除され、比嘉がリングに戻ってくるまで1年10ヵ月もの時間が流れた。

 このままボクシングをやめようとも考えながら、結局は階級を上げてカムバックした比嘉だが、当初は精神面も整わずピリッとしない試合が続いた。2階級重いバンタム級でフライ級時代の攻撃一辺倒のボクシングが通用しづらくなった影響もあったろう。ジムを移籍して出直した比嘉はやがてボクシングスタイルも左ジャブを基にした万能型へと変貌を遂げていった。

 新階級で世界のチャンスが訪れたのは、昨年9月。比嘉にとっては実に6年5ヵ月ぶりの大舞台だった。

三度目の正直なるか

 武居由樹(大橋)の持つWBO(世界ボクシング機構)王座にアタック。試合は強打者同士が死力を尽くした名勝負となり、結果は最終12ラウンドを攻めて獲った武居に軍配が上がった。

 試合直後の記者会見では「やりきった」と繰り返し、この世界挑戦失敗をもって現役引退も示唆した比嘉。しかし、これを惜しむ声は多く、実際に早々と比嘉には再挑戦のオファーが届いたのである。今度は、WBA王者の堤聖也(角海老宝石)に挑まないか、というものだった。

 同じ1995年生まれの比嘉と堤はアマチュア時代から対戦経験があり、プロでもすでに一度ノンタイトル戦で戦って引き分けていた。もう一度続けよう、と決めてジムに戻った比嘉は、今年2月、世界タイトルをかけて堤と再戦した。

 これがまた武居戦に劣らぬ激闘となった。序盤優位に進めた比嘉は9ラウンドに左フックを決めて堤からダウンをマーク。と思ったら、次のシーンでは猛攻の比嘉に堤が右ショートをカウンターして倒し返す。比嘉は立ち上がれたのが不思議なほどのダメージだったが、以降のラウンドは堤が挽回し、ジャッジ全員が同点のドローに終わった。

 最後と決めて臨んだリングが引き分け……比嘉の去就が俄然注目された。そこに「みたび挑戦」の機会が訪れた。

 日本人ボクサーで3試合続けて、しかも異なる世界王者に挑んだケースは過去にない。これまでの惜敗、ドローの内容もさることながら、試合のおもしろさもひっくるめた比嘉の商品価値の高さを示しているだろう。今回挑む王者バルガスは、比嘉戦後に目の手術をした堤がWBAの「休養王者」にシフトされたのを受け、暫定王者から正規王者に繰り上がった選手だ。スピードとパワフルなコンビネーションの攻撃力が売りの反面、ディフェンスに隙がある。おそらくバルガス−比嘉もファンを引き付ける試合になるだろう。

 勝てば、ボクサー比嘉のストーリーは非常に興味深いものになる。堤が戦線復帰した際の決着戦をはじめ、いまこのクラスの日本人ライバルは事欠かない。

 比嘉はとにかく「三度目の正直」を体現しなければならない——。


VictorySportsNews編集部