8月21日、都会のど真ん中に作られた特設のバーチカルランプ(スケートボード用のコースの一種)に、平野歩夢さんが兄の英樹さんと弟の海祝さんと一緒に登場した。

 2014年のソチ冬季五輪、2018年平昌冬季五輪では銀メダル、そして2022年の北京冬季五輪で念願の金メダルと26歳にして既にメダル3つを持つ。そんな伝説のオリンピアンの平野歩夢さんは、スノーボードだけでなくスケートボードも幼い頃から親しんできた。2021年には東京夏季五輪のスケートボード競技の日本代表に選ばれ、日本人史上5人目となる夏季と冬季の両方に出場したアスリートとなっている。また、海祝さんも北京五輪に出場して、メダルこそ獲得できなかったものの、高さのある技を繰り出し話題となった。

 平野三兄弟は子供の時からスケートボードとスノーボードを兄弟で楽しんできた。そして、そんな我が子のため、またスケートボードを親しむ若者たちのために、父の英功さんが当時、地元自治体と掛け合って、自らも借金をしてスケートボードの練習場を完成させたのは有名な話だ(※現在は既にその練習場は閉館)。歩夢さんはスケートボードの技をそこで磨き、最終的には夏季五輪に辿り着いている。

 歩夢さんは「久しぶりのスケートボードで、バーチカルを滑るのも5、6年ぶり。緊張している」と話したものの、三兄弟によるオープニングのパフォーマンスではそろって見事な技を披露して見せ、参加する子供達も目を輝かせていた。

 その後、三兄弟によるスケートボード指導が行われ、バーチカルランプとフラットスペースの板場に分かれて、スケートボードの乗り方や動かし方などを直々にレクチャーした。イベント当日は30度を超える炎天下だったが、子供達は約2時間みっちりスケートボードを楽しんだ。参加した子供の1人は「楽しめて、もっともっとやりたくなった」と感想を述べた。

歩夢さんからは「止めないこと、辞めないこと」を子供達にアドバイス

 ユニクロの次世代育成プログラムに参加するのは3回目だという歩夢さんは、「(子供達と)一緒にやる機会は多いわけではなかったので、自分もこれまでのキャリアを通して皆の夢や希望に少しでも力になれることがあればと思って参加させてもらった」と話した。

 その後、場所をミッドタウン内のアトリウムに移し、『好きなことを見つける大切さ」『チャレンジする大切さ』をテーマにしたトークセッションを行った。

 司会から自身の小学生の頃について問われた平野歩夢さんは「ひたすら、同じことをやり続けることしかわからなかったし、ただ上達すること、少し上達する瞬間を地道に積んできた。シンプルですけど、ただやり続けてきた」と話し、「スケートボードとスノーボードしか知らなかったというのが大きいが、だからこそ一生懸命になれたかもしれない」と振り返っていた。

 その後の参加者の子供達との質疑応答コーナーでは、一人の参加者から「私はダンスをやっていて上手く踊れなくて嫌になる時がある。歩夢くんはそういう時はどうやって切り替えるか教えてください」といった質問に、平野歩夢さんは「僕は性格的に負けず嫌いなところがあって、できるまでやり続ける。自分の中でも嫌になることもあるが、とにかく意識していることは、止めないこと、辞めないこと。嫌な状況になってもやり続けて、その中で新しい発見がある。やれないことの先に自分に返ってくることがあって、そこで向き合って一歩前に進めた時は、やっぱり進んで良かったと思うし、あそこで辞めなくて良かったなということが今まであった。そういう日々を今まで繰り返してきた」と答えた。

© UNIQLO Next Generation Development Program with Ayumu Hirano 2025

 40分ほどのセッションが終わった後は参加者の子供達とハイタッチや記念写真など触れ合った。

 イベントを終え取材に対応した三兄弟は、イベントの感想を聞かれ、「小さい頃からこの三兄弟でスケートボードとスノーボードの横乗りをしてきたので、自分たちが経験した気持ちを子供達に伝えられる機会が、こういう大きい舞台であったので、自分たちもめちゃくちゃ嬉しかったし、良い経験になった」(英樹さん)

「スノーボードを今までしてきて、スケートボードも同時にしてきた。スケートボードは今でも自分にとってスノーボードと同じくらい大事なものになっている。スケートボードもすごく盛り上がっていて五輪競技になっていて、この競技(バーチカルランプを利用した種目)ももしかしたら五輪競技になっている可能性もあるので、子供達に少しでもスケートボードを好きになってもらったり楽しいと思える時間になればという思いで、自分も楽しませてもらった」(歩夢さん)

「自分はスノーボードをやる前はスケートボードから始めた。その時は今日のようなバーチカルからやっていた。そこからスノーボードにフォーカスするようになって五輪に行って、徐々にバーチカルをする時間が少なくなっていたので、今日久々に楽しめた」(海祝さん)
とそれぞれ思いを語った。

半年を切った冬季五輪への思い

 また、歩夢さんと海祝さんはミラノ・コルティナ冬季五輪の出場を目指す。大会まで半年を切っている。2人は五輪に向けての意気込みを問われると、歩夢さんは「残り半年もないので、今まで以上の気持ちを持って全力で臨みたい。自分が後悔しないように、それまでに怪我しないようにして、自分のベストを持って行けたら」と答えれば、海祝さんも「去年は足首を2回骨折して大会も出られず、自分の大好きなスノーボードができない悔しさがあった。その思いを全てぶつけて、今年は人生を変えるつもりで頑張りたい」と意気込んだ。

 特に歩夢さんは2大会連続の金メダルが期待されている。

「僕も去年怪我が続いてなかなか自分の思う成績が出せなかったけど、それも経験にして切り替えたいと思っている。今は地元の(新潟県)村上で新しいハーフパイプの練習場が去年できてから、夏でも練習ができて、雪がなくてもできる。ほぼ毎日練習ができているので、自分のチャレンジしたいことだったり、あらたな可能性に向けて色んな取り組みを試している最中。五輪に向けて自分のやりたいことは定まってきていて、あとはどこに向けてピークを持っていくか。自分らしい形で五輪でも(技を)出せたら。技は色々まだ模索中。ベストな状態までもっていきたい」(歩夢さん)

 そんな現役アスリートの弟2人へ、英樹さんからは「もちろん(2人に)頑張ってほしいし、一番はメダルを取ってほしい期待はある。やってきたことがそこで一番良い形で残ればいいですけども、終わってから2人とも人生は長いし挑戦も続くと思う。3人で常に挑戦し続けられる兄弟でありたいと思っているので、頑張ってメダルを取ってほしい」と長男ならではの温かいエールを送っていた。


大塚淳史

著者プロフィール 大塚淳史

スポーツ報知、中国・上海移住後、日本人向け無料誌、中国メディア日本語版、繊維業界紙上海支局に勤務し、帰国後、日刊工業新聞を経てフリーに。スポーツ、芸能、経済など取材。