スポーツの持つ力は無限大――。計り知れないポテンシャルを秘めるからこそ、世界を知るアスリートが熱視線を送っている。ラグビーのニュージーランド代表「オールブラックス」で活躍したフィッツパトリック氏は「スポーツは世界を変える力を持っている」との考えから、ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団の活動に携わっている。「スポーツを通して子供たちの命を救いたい。大切なのは私たちが団結すること。スポーツは人々を結びつける」と語った。

 現役時代に欧州でも活躍した中田氏は、現役時代に多くのチャリティーマッチに参加。「いろんなチームの人たちと一緒に試合をするのは通常ないことなので楽しかった」と振り返るも、引退後に自身がチャリティーマッチを企画した際には苦労があったという。「一定の活躍をする選手は財団を持っている人が多かった。彼らは自分たちの国でチャリティーマッチや社会貢献活動をしていたけど、彼らが何をしているのか知る術がなかったので、情報を集まる場所が必要だと思った」と経験談を踏まえた上で「アワードをつくれば自分1人だけじゃなくてさまざまな選手とコラボレーションできる」と意義を語った。

 日本財団の理事長を務める笹川氏はフィッツパトリック氏の理念に共感を示した。「アスリートが社会にとって不可欠になった。トップアスリートは競技の枠を超えて社会問題を解決するリーダーだと思う」ときっぱり。その1つが24年1月に発生した能登半島地震の復興活動だ。「HEROs」は積極的に参画し、被災者たちを支えてきた。

 「能登の復興は『HEROs』がなかったら、進んでいないと思う。アスリートのみなさんの力は本当にすばらしい。夢がない子供たちがいる中で、アスリートが行くことで夢や目標を持てるし、生きる力をもらえることができる」とメリットを強調した。

 ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団は「社会的な変化を促進して、恵まれない環境下にある子供や青少年たちに明るい未来を約束する」ことを目的とした組織。フィッツパトリック氏は「私たちの社会のためにいい人を育てたい。それはスポーツが生み出すもものでもある」との見解を語ったが、実際に中田氏はローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団のイベントを通じて気づいたことがあったと明かす。

 以前の中田氏はサッカー以外のアスリートとの接点が少なかったことから「世界中のアスリートがイベントに来て、その人たちに会えたことは自分にとって大きな経験だった」と回想。サッカー界以外の考え方、常識、思いに触れたことで「サッカーだけでなく、さまざまなスポーツが1つに集まる時のパワーはすごい。そういった形のアワードをつくりたい」との答えに至った。

 その願いが「HEROs AWARD」の活動につながっている。しかし、これらの活動は目的ではなく、あくまで手段に過ぎないとの認識だ。「アスリートは社会貢献をする力があるということ以上に、何百万人、何千万人を動かす力がある。アスリートは現役の時だけ価値があるわけじゃなくて、現役をやめた後でも価値がある。自分たちがその価値を使うためにはどうしたらいいかわからない人も多いと思うので、それらをすべて1つの場所に集めていくことでさらに力になると思う」と分析。さらに「アスリートが1人でやるのではなく、アスリートには人を動かす力があるので、いかに多くの人を動かせるかが社会貢献の一番のキーだと思う」と声を大にした。

 一連の行動はゴールの目指すにあたっての軌跡に過ぎない。ただ、今のままではどこかで壁にぶつかってしまう。フィッツパトリック氏は「現在はほとんどが民間による資金提供によって活動しているが、世界中の政府が疑うことなく、もっと社会貢献活動に資金を投入するべきだと思う」と指摘。中田氏は「スポーツは人を動かす力がある。その人たちが集まってさらに大きな力となって世の中を変えていきたい」と決意した。

 フィッツパトリック氏、中田氏、笹川氏はスポーツの力を信じ、スポーツを通じた活動に尽力している真っ只中。明るい未来づくりへ、これからも歩みを進めていく構えだ。


中西崇太

著者プロフィール 中西崇太

1996年8月19日生まれ。愛知県出身。2019年に東京スポーツ新聞社へ入社し、同年7月より編集局運動二部に配属。五輪・パラリンピック担当として、夏季、冬季問わず各種目を幅広く担当。2021年東京五輪、2024年パリ五輪など、数々の国内、国際大会を取材。