めまぐるしい展開となった対決の時計の針を最初の地点に戻してみよう。1月28日、1次リーグ最終戦。引き分けでも決勝トーナメント進出が決まる状況だったレアル・マドリードだが、アウェーのリスボンでの一戦は2―3とリードされたまま終盤へ。アディショナルタイムの90+2分にラウル・アセンシオがラフなスライディングタックルで2度目の警告、90+6分にはロドリゴが主審へ不用意な抗議で2度目の警告を受けてそれぞれ退場処分となった。レアル・マドリードにとっては負けが確実となったところで、この試合の意味はほとんどなくなったのかもしれないが、ドラマは実はここからだった。

 90+8分、逆転でのプレーオフ行きを目指すベンフィカが起死回生のゴールを奪う。この1点により、得失点差で24位に滑り込んでプレーオフ切符を手にしたのである。しかも、劇的なゴールを決めたのがGKだったのだから、ホームスタジアムの熱狂は最高潮に達した。右サイドからのFKに、ラストワンプレーで攻め上がっていたGKトルビンが、頭で合わせてFW顔負けの一撃を見舞った。

 大会公式サイトによると、ヒーローとなった守護神は興奮気味に喜びを語っている。「(勝ち上がるための条件で)何が必要なのか分かっていなかった。みんなが『上がれ』って言うから上がったんだ。なんて言えばいいのか分からない。(得点するのは)僕にとっても初めてのこと。信じられない」。観客からの喝采を浴びながら、ウクライナ代表でもある背番号1のトルビンは気持ちよさそうにピッチへ膝からスライディングしてみせた。

 かつてレアル・マドリードを率いたこともあるベンフィカのモウリーニョ監督は「3―2で十分かどうかも分からなかった。(POに回れるかどうかの)手がかりはなかった。この勝利は歴史的だ」と、大きく命運を左右した最終盤の1点による「勝利」を喜んだ。レアル・マドリードは勝ち点1及ばずに、プレーオフへ回った。

 組み合わせ抽選によって、再び顔を合わせることになった2チームによるプレーオフ第1戦は2月17日。再びベンフィカのホームで行われた一戦は、不穏な空気に包まれることになる。

 後半5分、ビニシウス(レアル・マドリード)が左サイドから仕掛けると、中央へと切り込んでから、はかったように対角線の右上隅へ右足で鮮やかなゴールを挙げた。ブラジル代表アタッカーは、ベンフィカのクラブロゴが描かれたコーナーフラッグ付近で、腰を振りながら喜びのダンス。その後、キックオフで再開する前に問題は起こった。

 ビニシウスが主審のもとへ駆け寄り、何かを必死にアピールする。AP通信などによれば、ビニシウスはベンフィカの20歳の選手、プレスティアンニから「猿」と差別的な発言を受けたと主張。両チームの選手らがもみ合う形となり、試合は約10分間、中断した。ビニシウスの得点後のセレブレーションをベンフィカ側が侮辱的な行為と受け取ったという見方もあるが、レアル・マドリードのエムバペも試合後には「二度とチャンピオンズリーグでプレーすべきでない」と差別的な発言をしたとされるプレスティアンニを厳しく批判した。

 一方のプレスティアンニは、ビニシウスの主張する自身の発言内容を否定する。「彼に対して人種差別的な侮辱を一切行わなかったことを明確にしておきたい。残念ながら彼は発言の内容を誤解した」と釈明した。中継映像には同選手が口元をシャツで隠しながら、何かを口走る姿が残っている。UEFAの規定では、最大で10試合の出場停止になる可能性もあると指摘されている。

 欧州のサッカースタジアムでは、人種差別がたびたび問題となる。観客からのヤジもあれば、相手選手からの場合もある。ビニシウスは近年、その被害を幾度となく訴えてきたという経緯もある。レアル・マドリードは関連する証拠を欧州サッカー連盟(UEFA)に提出したことを明らかにするとともに「受け入れがたい人種差別の出来事について、UEFAが開始した調査に積極的に協力している」との声明を出した。

 欧州チャンピオンズリーグ(CL)は、世界中のサッカーファンが固唾をのんで見守る最高峰の大会。最高のチーム、最高の選手が、最高の戦術と最高の技術を発揮する舞台だからこそ、普段以上に感情の振れ幅も大きくなる。両チームだけでなく、世界中のサッカーファンが固唾をのんで見守る第2戦は日本時間26日午前5時にキックオフの笛が鳴る。


VictorySportsNews編集部

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