その瞬間、ローン・デポパークは熱狂の渦に包まれた。最後の打者を三振に斬った守護神パレンシア(カブス)はグラブを放り投げ、捕手で主将のペレス(ロイヤルズ)はミットを高々と掲げた。大歓声の中、ロペス監督は「この瞬間をずっと夢見てきた」と、万感の表情で歓喜に酔いしれた。

 中南米系の人が多く住むマイアミ。ホームのような空気感は間違いなくベネズエラを後押しした。同国には、今年1月にトランプ米政権による軍事攻撃を受けた“因縁”もあった。ただ、勢いや熱狂、政治的背景が初優勝に至る全ての要因だったわけでは、もちろんない。MVPに輝いたガルシア(ロイヤルズ)は 「われわれはプレーの細部へのこだわりを貫いた。それが優勝できた理由だ」とキッパリ。まさに、この言葉に象徴される試合をベネズエラはこの大会で見せ続けた。

 決勝の米国戦では、2点を先取しながら八回に回をまたいで登板したマチャド(オリックス)がハーパー(フィリーズ)に2ランを浴び、同点とされた。前回大会では米国と準々決勝を戦い、同じ八回にターナー(フィリーズ)に逆転満塁ホームランを許して敗れた。よぎる悪夢の再来。しかし、2-2で迎えた九回の攻撃で真骨頂を見せた。

 まず、アラエス(ジャイアンツ)が先頭で冷静に四球を選ぶと、代走のサノハ(マーリンズ)が二盗に成功。無死二塁からE・スアレス(レッズ)がしっかりとコンタクトして左中間にはじき返した。勝負どころで機動力を絡め、値千金の1点をもぎ取ったのだ。

 準々決勝の日本戦でも5―4の6回、エンドランで無死一、三塁とする足を絡めた攻撃から、アブレイユ(レッドソックス)の逆転3ランが生まれた。イタリアとの準決勝では1点を追う七回2死一、三塁からアクーニャが三遊間の深い位置へ巧みにゴロを転がして三走を生還させて同点。自らも快足を飛ばして勝ち越しにつながる内野安打をもぎとった。2023年に41本塁打を放ち米大リーで最優秀選手(MVP)に輝いたアクーニャ(ブレーブス)、3年連続ナ・リーグ首位打者のアラエスと世界屈指の強打者が揃うベネズエラだが、決して一発長打だけに頼ったチームではないことが、これらの攻撃からもよく分かる。

 「スモールベースボール」と称される足を絡めた隙のない野球は、本来日本が国際舞台において武器としてきたものだ。大谷(ドジャース)、鈴木(カブス)、吉田(レッドソックス)、村上(ホワイトソックス)、岡本(ブルージェイズ)ら“重量級”をメンバーに多く並べ、過去最多8人のメジャーリーガーを擁して戦った今大会の日本は、全39点中22点を本塁打で挙げるなどパワーを示したが、盗塁は前回大会の10から4へと減った。優勝したことで7試合を戦った前回大会から試合数が準々決勝敗退により5に減ったとはいえ、戦い方の変化は明らか。「前回大会を見ても、優勝する上でホームランは必要不可欠」とは大会を前にした日本代表・井端監督の弁。しかし、頂点に立ったのは、ここぞで「スモールベースボール」を巧みに使ったベネズエラだった。

 ベネズエラの強さの一因として、「マネジメント力」の高さも挙げられる。決勝では6人ものリリーフを投入し、ジャッジ(ヤンキース)らを擁し最強と言われた米国打線を2点に封じた。決勝に登板したブット(ジャイアンツ)以外の4投手が連投だった。

 ロペス監督によると、決勝当日の朝、異なる3球団から「投手を連投させないでほしい」との要請が届いたという。3月末に控えるシーズンを前に、代表に選手を供出する球団は特に投手の起用に関して制限を設けるのがWBCでは通例。しかし、ベネズエラは粘り強く交渉し、所属球団との合意形成に成功した。大会全体ではクローザーのパレンシアをはじめ、マチャド、セルパ(ブルワーズ)、バザルド(マリナーズ)が7試合中6試合に登板し、いずれも決勝ラウンドで3連投。総力を挙げて大会に臨めたことも、勝因の大きなウェイトを占める。

 平良(西武)、石井(阪神)、松井(パドレス)の3投手がけがで出場を辞退し、救援のスペシャリストを追加招集できない形となった日本とは、対照的だった。種市(ロッテ)、隅田(西武)と普段は先発を持ち場とする投手は、どうしても連投に不安がある。前回大会では先発、抑えにフル回転した大谷も投手での起用は見送られた。不可抗力とはいえ、選手選考やマネジメントの重要性は今大会でクローズアップされた。

 さらに、ベネズエラに目立ったのが抜け目のない戦いぶり、戦略性だ。ロペス監督は日本を破った後の会見で、長時間のミーティングを行い、投手の傾向などをデータや映像を用いて入念に分析したことを告白。日本の投手が得意とする低めの変化球をカットしたり、反応しなかったりと、チームとして見極めを徹底していたことが、打者の反応からもうかがえた。

 大谷は大会後、日本のデータ活用について「資料をうまくまとめてくれて感謝している」とした上で「現場として常日頃から使ってはいなさそうだなという雰囲気は出ていた」と、進歩を実感しつつも少しのギャップを感じたことを示唆している。大会後には国内組の選手たちから、投球間隔の時間制限「ピッチクロック」やサインの伝達に使われる電子機器「ピッチコム」のNPBへの導入を提言する声も上がった。メジャーリーグの舞台で導入されている“世界基準”のルールを日常的に体感しているか否かは、各国のWBCへの本気度が増せば増すほど、差になって表れてくる。

 次回大会は2029年または30年に開催される見込み。その前の28年には野球が復活するロサンゼルス五輪がある。パワー一辺倒ではなく機動力も絡めた緻密な「スモールベースボール」への高い意識、選手招集や運用における「マネジメント力」、徹底した「データ分析」。この3点で特筆すべき成果を上げ、世界一へと駆け上がったベネズエラの戦いぶりは、日本をはじめ捲土重来を期す世界の国々にとっても、これ以上ない“お手本”となったはずだ。


VictorySportsNews編集部

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