前日に卒業式を終えた増子は充実の高校生活をこう振り返った。

「3年前、学法石川高校のユニフォームを着て、全国高校駅伝で優勝するという目標を立てました。それを達成し、卒業式を迎えることができて、やりきったなという思いです」

 中大時代に学生駅伝で活躍した松田和宏監督が就任して、相澤晃、阿部弘輝、遠藤日向、山口智規ら数々のスピードランナーを輩出してきた学法石川高。そのなかでも増子は〝特別な選手〟だった。

 鏡石中3年時に地元・福島で行われた全中3000mを8分18秒49の大会新で制し、国体少年B3000mで8分11秒12の中学記録を樹立。学法石川高に進学後は5000mで高1歴代2位の13分54秒16、高2歴代最高の13分34秒60をマークするなど、確実に成長した。しかし、最後のインターハイ路線で〝悪夢〟を経験している。

 貧血に苦しんでいたこともあり、6月中旬の東北大会は5000mで7位に沈み、全国大会の出場を逃したのだ。「悔しい思いでいっぱいでした」という増子だが、挫折をエネルギーにする〝たくましさ〟があった。

「どんなに悪いことが起きても、それは良い方向に向かう近道だと思って競技に取り組んできました。インターハイは悔しかったですけど、あの期間があったから、全国高校駅伝で優勝できたと思っています」

 鉄剤や食物繊維を一旦減らす「ファスティング」を試すと、身体のだるさがなくなり、フェリチンの数値も改善。体調が上向いてきたという。秋には〝世代ナンバー1〟が復活した。

 10月23日の福島県高校駅伝は1区を28分20秒で独走。5年前に山口智規がマークした区間記録を50秒も塗り替えると、11月16日のNITTAIDAI Challenge Games(NGC)5000mで高校歴代3位、U20日本歴代6位となる13分27秒26を叩き出したのだ。

 そして12月21日の全国高校駅伝を迎えることになる。

 増子は1年時に1区を区間5位(29分06秒)、2年時に3区を区間4位(24分13秒)と好走している。2年ぶりの1区に起用されると、驚愕の走りを見せた。

 序盤から果敢に引っ張り、5kmを14分21秒で通過。6.6km付近で「一番意識していた」という本田桜二郎(鳥取城北高)を引き離すと、7.5kmでインターハイ5000m王者の新妻遼己(西脇工高)を突き放す。単独トップに立った後も圧巻のスピードを披露した。

「7.5km地点が体力的には一番きつかったんですけど、そこで高校の先輩である田母神一喜さんのことが頭に浮かんだんです。田母神さんなら1500mは3分45秒くらいでいける。自分もそれくらいのペースでいこうと思いました。走り終えてみると思ったより良いタイムだったので驚きましたね」

 増子は前年に鈴木琉胤(現・早大)が樹立した日本人最高記録(28分43秒)を23秒も塗り替える28分20秒で走破。新妻が28分40秒、本田が28分52秒の好タイムで続いた。

 最後の全国高校駅伝では非厚底といえるナイキ ストリークフライ 2を履いていたのも関係者のなかで話題になった。どんな理由があったのだろうか。

「スパイクから厚底への移行期間がなかったこともあり、できるだけスパイクに近いシューズを履きたいと思っていたんです。ストリークフライ 2 は軽くて、スパイクでロードを走っている感覚があり、自分のしたい接地をサポートしてくれる。また、全国高校駅伝の1区は(5~7kmに)上り坂があるので、シューズの反発を使わずに、自分の脚で上りたいと考えていました。ストリークフライ 2は自分の感覚と考えにハマッたシューズだったと思います」

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 4月からは早大に入学。全国高校駅伝1区で競り合った新妻と本田がチームメイトになる。「今までライバルだった選手たちと一緒に生活して走れることは凄く楽しみです」と声を弾ませた。

 一方、スーパールーキーとして注目を浴びることになるが、冷静に自分を見つめている。

「自分はひとつのレースに120%をかけてしまうタイプなので、1年目は100%に落として、連戦できる身体づくりをしていきたいと思っています。 駅伝シーズンはレース間隔が短くなるので、毎回100%のパフォーマンスを発揮することが大切だと思っています」

 なお箱根駅伝では「4区を走りたい」という。「鈴木琉胤さんの記録(日本人最高1時間0分01秒)を更新したい。鈴木さんの背中を目指して頑張っていきたいと思っています」と国体少年Bでも競り合った1学年上の先輩を強く意識した。

 そして大学在学中の目標を「5000m12分台、10000m26分台」に掲げた。現在の日本記録(5000m13分08秒40、10000m27分05秒92)を上回るタイムをターゲットに取り組んでいくつもりだ。

「今までの自分の記録や結果をプレッシャーに感じることなく、失敗してもいいので自分のしたいことをしていきたい。世代トップであることを意識しながら、自分の芯は絶対にブレさせたくないですね。今は間違いながら陸上をしているかもしれませんが、正解に近づけるように陸上をできたときが自分のピークだと思っています。その時々で正解を見つけていきたいです」

 増子は3月21日に行われたSpring Trial in Wasedaの1500mに出場。高校・大学の先輩に当たる山口智規がペースメーカーを務めたレースで3分45秒72の自己新をマークした。花田勝彦駅伝監督が就任して、上昇気流をつかんでいる早大。注目のスーパールーキーが名門に〝新時代〟をもたらすだろう。


酒井政人

著者プロフィール 酒井政人

元箱根駅伝ランナーのスポーツライター。国内外の陸上競技・ランニングを幅広く執筆中。著書に『箱根駅伝ノート』『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。