放送と配信。今の時代を象徴するような連携といえる。かつては“敵同士”として見られることもあった両者だが、DAZNはプロ野球・巨人の試合中継のライセンスを得る過程で日本テレビと深い関係を築くなど、状況は大きく変化している。8大会連続8度目の出場を果たし、過去最高のベスト8入りが期待される日本代表の試合は、NHKが地上波とBSでグループリーグから全戦、日本テレビがグループステージの1試合を中継し、DAZNは日本の全試合を無料で配信する。地上波で見られるコンテンツであり続けたW杯だが、そこに至る交渉を見ても、もはや配信事業者の存在なくしてスポーツ中継を語ることはできなくなっている。

 対照的なケースとして、2026年春に開催された野球の国際大会、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が挙げられる。同大会は、米配信大手Netflixが日本国内向けの独占配信権を獲得し、地上波、BSなどテレビ中継が一切ない状況となった。放映権料は前回2023年大会の推定30億円から150億円まで高騰したといわれており、広告収入だけでは回収が困難なことからテレビ局が撤退。課金放送に抵抗感の強い高年齢層をはじめ日本では“視聴難民”が続出したことが社会問題になった。放送と配信の関係でいえば、ここでも日本テレビが配信事業者であるNetflixと組み、中継制作を受託したことが話題になった。

 WBCとは違い、配信だけでなく地上波での中継も決まったW杯だが、実は予断を許さない状況にあった。複数の関係者によると、今大会の日本国内における放映権料は300~350億円。当初のFIFA(国際サッカー連盟)の提示額は400億円だったというから、もはや事業規模や経済情勢を考えると、日本のテレビ局が交渉を主導するのは簡単ではなくなっている。

 日本のW杯中継では、NHKと民放各局による「ジャパンコンソーシアム」が、電通の仲介のもと一括して購入した放映権の負担を分担する形が長く続いてきた。しかし、前回カタール大会では高額な放映権料により“テレビ局連合”の足並みがそろわず、最終的にIT大手サイバーエージェントが運営するネットテレビ局「ABEMA」が全64試合を無料配信することで決着。NHKが21試合、テレビ朝日とフジテレビが各10試合の放送権を個別に獲得した。

 1998年フランス大会では5.5億円ほどだった放映権料は、前回のカタール大会で総額200億円ほどにまで上がったとされるなど、高騰を続けており、もはや今回の北中米大会では配信限定となることが不可避と思われていた。一時博報堂がFIFAとの交渉に乗り出すなど紆余曲折を経て、電通がハードな交渉の末に日本における放映権を取得。同社がプレスリリースで「日本国内の幅広い視聴者に世界最高峰のサッカーの魅力を、テレビ放送や動画配信サービスなど多彩な視聴方法で届けることを目指します」と宣言する通り、NHK、フジテレビ、日本テレビによる地上波放送(NHK33試合、日本テレビ15試合、フジテレビ10試合)と、DAZNの有料・無料を組み合わせた全104試合のライブ配信という新たなスキームで決着した。この交渉過程において博報堂は別の配信事業者と連携したとの話もあり、DAZNと組んだ電通が交渉をまとめた格好。配信事業者の思惑一つに、放映権の行方が左右される情勢になっている。

 5月18日には東京都内で日本テレビや産経新聞社など報道各社やDAZN、U-NEXTなどの配信事業者、DeNAなどのIT企業、三井住友銀行など金融大手が会員として名を連ね、スポーツ産業の活性化を図る「一般財団法人スポーツエコシステム推進協議会」のシンポジウムが開かれ、スポーツの放映権に関する話題が取り上げられた。読売新聞グループ本社の山口寿一社長は、「テレビ局や配信会社が大同団結し、独占や外国勢に対抗していくのは、有力な選択肢として持つべきだ」と話し、スポーツの放送権に関する法整備の必要性などにも言及した。WBCがNetflixによる独占配信となったことを踏まえ、スポーツ庁と総務省は有識者会議を設置して今後の政策を検討する方針。英国などで導入されている、国民の関心が高いスポーツの国際大会などを誰もがテレビで視聴できる環境を確保するよう法律で定めた「ユニバーサルアクセス権」の導入を日本で求める声も出ている。

 W杯の放映権をめぐっては中国でも交渉が紛糾した。FIFAは当初3億ドル(約480億円)を提示したが、最終的に6000万ドル(約96億円)ほどに落ち着いたという。ここまでFIFAが折れた要因の一つに挙げられるのが、大会スポンサーとして存在感を示す中国企業の存在だ。中国代表チームは6大会連続で本大会出場を逃し不在だが、中国企業は最上位の「FIFAパートナー」にPC大手のレノボ、それに次ぐ格の「ワールドカップスポンサー」として家電大手のハイセンス、乳製品大手・蒙牛乳業が名を連ね、今大会をサポートしている。

 英データ分析企業GlobalDataによると、カタール大会での中国企業のスポンサー総額は13億9500万ドル(約2230億円)で世界1位だった。北中米大会でFIFAは目標収入を過去最高の109億ドル(約1兆7000億円)に定めており、賞金総額も過去最高の8億9600万ドル(約1400億円)に設定している。出場国が32から48に拡大し、試合数も64から104に増えるなど、「史上最大のW杯」として商業的な成功も史上最大規模を見込む中、FIFAは前回大会で視聴時間も約50%を占めた中国市場を決して無視できないわけだ。

 ソニー、キヤノン、富士フイルムなどW杯のピッチサイド看板で大きな存在感を見せてきた日本企業だが、2014年ブラジル大会でのソニーを最後にその名は消えている。もちろん、広告に対する環境の変化も要因にあるとみられるが、カタールやサウジアラビアの企業が新たに進出する中、FIFAに対する影響力も今後、各国の放映権料交渉の動向を左右しそうだ。

 配信事業者による有料配信に対して、若年層からの抵抗感は少なく、テレビ画面やスマートフォンなどで、いつでも、どこでも見られる自由度の高い視聴環境を歓迎する声は年々高まっている。WBCでは、最後に投手・大谷翔平と打者・トラウトが激突した2023年大会決勝のテレビ朝日の視聴率が42.4%(ビデオリサーチ調べ)を記録し、社会現象ともいえる大きな熱狂を生んだ。どちらが良い、悪いを議論するのは、もはやナンセンス。少なくとも、国際的に価値のあるスポーツイベントを無料の地上波で見られるのが当たり前の時代は、終わりを迎えつつある。


VictorySportsNews編集部

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