日本新記録連発と名古屋の縁
五輪などの国際総合大会で〝大会の華〟と称される陸上競技。昨年に世界選手権東京大会が開催されて陸上への関心度は増した。その流れを引き継ぐように、今大会の日本代表には好調の有力選手が目白押しで、活躍が待ち望まれる。
まず挙げられるのが女子100m障害の中島ひとみ(長谷川体育施設)。6月にアジア大会と同会場のパロマ瑞穂スタジアムで行われた日本選手権で初制覇し、8月に入って日本新記録を連発した。同9日の富士北麓ワールドトライアル予選(追い風2・0m)で従来の記録を0秒07更新する12秒62をマーク。向かい風0・2mの決勝でも同じタイムで走り抜け、地力向上を証明した。6日後のナイトゲームズ・イン福井ではさらに0秒02更新する12秒60の日本新。「あくまでも通過点。アジア大会は金メダルを目指して、笑顔で終われるように準備を進めたい」。大舞台での12秒5台突入へ期待は膨らむばかりだ。
同じ日本選手権で社会人や大学生を抑えて優勝した男子400m障害の後藤大樹(京都・洛南高)もスポットライトを浴びる可能性がある。人気のマラソンでは、名古屋に縁深い女子の佐藤早也伽(積水化学)に注目。世界選手権2大会連続代表の実力者は、名古屋ウィメンズマラソンで2年連続して日本勢最上位の2位と健闘している。特に今年3月には、2連覇したシェイラ・チェプキルイ(ケニア)と最後までデッドヒートを繰り広げ、観衆の心をわしづかみにした。
女子やり投げのパリ五輪金メダリスト、北口榛花(JAL)は8月21日のダイヤモンドリーグ(ローザンヌ)で、今季自己最高をマークして優勝した。世界歴代2位の記録を持つ厳子怡(中国)とのせめぎ合いは激戦の予感。日本陸上陣はトラック、フィールド、ロードのあらゆるカテゴリーで熱視線を集めそうだ。
アマチュアでもプロでも
ゴルフには斬新な代表選手が誕生した。男子の3人のうち、プロの中島啓太と比嘉一貴が選ばれた。ちなみに女子3人はいずれも日本ゴルフ協会のナショナルチーム(NT)に所属するアマチュア。プロがアジア大会日本代表になるのは初めてのことだ。五輪では松山英樹が2024年パリ大会で銅メダルを獲得したように、既にプロが出場していた。今回は自国開催のアジア大会と舞台が整っているだけに、会場の愛知県春日井CCでのプレーぶりが見ものだ。
特に中島は今季から米男子のPGAツアーに本格参戦。世界最高峰のツアーを回る日本選手を、アジア大会で見られるのは以前なら想像できなかった。元々NTと結びつきが強い。アマチュア時代から強豪で、NTでは2015年から昨年までヘッドコーチを務めたガレス・ジョーンズ氏らの指導を受けレベルアップ。アマ世界一に贈られる「マコーマックメダル」を2022年まで2年連続で受賞する偉業を達成した。
プロ転向後、2023年に日本ツアーの賞金王に輝いた。2024年から欧州ツアーに本格参戦し同年3月に初優勝。翌年に賞金ランキング上位に食い込んでPGAツアー出場権の獲得と、着実にステップアップした。今年7月のスコットランド・オープンでPGAツアー自己最高の3位。手応えを次のように表現した。「選手のレベルもかなり高く、その中でトップ5で終われた。かなり自信がついた」。精神的にも前向きな材料となった。
アジア大会では東京・代々木高時代の2018年ジャカルタ大会で個人、団体の2冠を果たした。主戦場のPGAツアーでは、10月8日に神奈川県横浜CCで開幕する秋季シリーズ、ベイカレント・クラシック・レクサスが控える。松山、前年覇者のザンダー・シャウフェレ(米国)らに交じって世界トップクラスのフィールド。その前にアジア大会で〝アマで金、プロでも金〟の快挙を遂げれば、ギャラリーの熱狂が一層増えていくに違いない。
張本きょうだいの悲願
今大会には2028年ロサンゼルス五輪に向けての試金石という面がある。特にアジア勢が世界をけん引する競技ではその色が濃い。中国が支配的な卓球もその一つで、五輪や世界選手権と同レベルでのメダル争いが必至だ。〝打倒中国〟へ、張本美和(木下グループ)と兄・智和(トヨタ自動車)のきょうだいの奮闘が鍵を握る。
8月9日まで横浜BUNTAIで開かれた世界ツアー、WTTチャンピオンズではそろってシングルス制覇と本領を発揮した。美和は準決勝で王芸迪、決勝では昨年覇者の陳幸同と中国勢を立て続けに撃破。智和も準決勝で第1シードの松島輝空(フリー)に勝つなど底力を見せつけた。日本勢のアジア大会での金メダルは、1994年広島大会で小山ちれが女子シングルスを制したのが最後。随分遠ざかっている。団体や混合ダブルスなど計4種目に出場とフル回転するのは美和。「必ず万全な状態にして、最高の結果を届けられるように頑張りたい」と意欲満々だった。
大会準備に絡み、以前から混乱ぶりが取りざたされてきた。開催経費が当初より大幅に増大したり、今年に入って急にテックボール、パデルが実施競技に追加されたり。そして直近になって波紋を広げているのが、8月19日に組織委員会から公表された一部の競技日程の変更。既にお目当ての種目を狙ってチケットを購入していた人たちにとっては痛恨だ。人気のある陸上女子100m障害もスケジュールが変わり、予選と決勝が1日ずつ後ろ倒し。中島が自身のXに「早めからとってくれてた方本当にすみません」と記すほどだった。競技への興味が高まっているだけに、開幕を控えてこれ以上、水を差すような事態は避けたいところだ。
アジア大会は1951年、ニューデリーで第1回が開かれ、今回で第20回の節目を迎えた。陸上陣の飛躍やPGAプレーヤーとしての中島のラウンド、張本きょうだいの悲願―。それぞれの物語に愛知・名古屋大会ならではの魅力が詰まっている。