セ・リーグは2位巨人と3位DeNAの間に大きな差が開いており、残り30試合ほどの状況で、優勝争いは現実的に阪神と巨人にしぼられつつあるといえるだろう。そのDeNAを0.5ゲーム差で追うのが4位ヤクルト。そこから、さらに3ゲーム差で5位中日、6位広島と続く構図となっている。特に、8月に入って激しくなっているのがDeNAとヤクルトのCS進出争いだ。まずは、序盤と夏場で対照的な勢いを見せる両チームの、ここまでの戦いぶりを振り返ってみる。
序盤に快進撃を見せたヤクルト
ヤクルトは、開幕カードでDeNAに3連勝して勢いに乗ると、6月3日に貯金を最大11まで積み上げ、同30日まで首位を守った。主砲の村上宗隆が米大リーグ・ホワイトソックスに移籍し、戦力的にも多くの評論家やメディアが苦戦を予想していた中、前年最下位だったチームの躍進は大きな話題となり、間違いなく序盤のセ・リーグの主役を演じたといえるだろう。
原動力となったのが、2軍を長く指導してきた池山隆寛新監督による若手の積極的な登用だった。野手では西武から新加入の日隈モンテル、ルーキーの石井巧、プロ3年目の伊藤琉偉、捕手の鈴木叶らが台頭。投手では山野太一や松本健吾ら本領を発揮できずにいた選手たちが才能を開花させた。バントをほとんど使わない攻撃的なスタイルも嚙み合い、シーズンの流れを引き寄せた。
ただ、交流戦あたりから歯車が狂い始める。ほぼ直球のみという特異なスタイルで相手打者を圧倒し、守護神としてチーム躍進の立役者となっていたホセ・キハダが、20試合2失点と圧巻の成績だった5月までとは一変。6月に防御率6.75、7月に同7.11、8月に同16.20と大きく調子を落とし、8月5日に出場選手登録を抹消されると、その後も抑えを固定できない状況が続いている。
それに連動するように、チームの勢いにも陰りが見え始める。3・4月の17勝11敗、5月の14勝9敗1分けから、6月に7勝11敗と今季初めて月間で負け越すと、7月は6勝17敗と急激に失速。8月もここまで6勝12敗と苦戦しており、借金10で優勝争いから大きく後退してしまった。8月14~16日にDeNAとの直接対決で3連勝し息を吹き返しかけたが、その後もなかなか調子は上がらず。比較的狭い神宮球場をホームとしながらチーム本塁打数はリーグ最少の64。若手の躍動を牽引力に接戦を勝ち切ってきただけに、救援陣の不安はそのままチーム成績に跳ね返ってきており、8月18、19日の阪神戦や同22日の中日戦では終盤に救援陣が耐え切れず、1週間で3度のサヨナラ負けを喫した。
DeNAは反転攻勢
逆に、DeNAはスタートで大きくつまずいた。昨季までチームを率いた三浦大輔氏に代わって相川亮二監督のもとでの新体制となったチームだが、開幕4連敗でスタートダッシュに失敗。3・4月は13勝13敗の勝率5割で踏みとどまったものの、5、6月は負け越す結果となった。特に交流戦で5勝13敗と苦しんだのが響き、6月は4勝しか挙げられないほど低迷した。6月終了時点での借金は15、順位は5位。28年ぶりの優勝どころか、5年連続のCS進出すら厳しい状況に立たされた。
ところが、ここから反転攻勢を開始する。7月のスタートで5連勝を飾ると、同月は12勝9敗1分けでフィニッシュ。8月も、ここまで11勝8敗と好調を持続し、8月8日には約3か月ぶりの3位浮上を果たした。
要因となったのが、積極的な“テコ入れ”だった。5月には山本祐大をソフトバンクにトレードで出し、尾形崇斗、井上朋也を獲得。正捕手格だった選手の放出に賛否が渦巻いたが、その後の展開を見ると、それが正解だったか否かは別の問題として、少なくとも改革への本気度を示す一手になったといえるだろう。
7月2日には打撃育成兼巡回打撃育成補佐コーチとして主に2軍を担当していた鈴木尚典氏を1軍打撃戦術・育成コーチに、大村巌打撃育成コーチを1軍打撃育成コーチ兼スコアラーに配置転換。さらに、外野手のヘラル・エンカーナシオン、投手のオズバルド・ビドと投打の新外国人を獲得し、7月10日には右腕の浜地真澄を支配下登録するなど、シーズン途中ながら積極的な戦力の強化も図った。
特にエンカーナシオンは39試合の出場で打率.299、9本塁打、34打点と勝負強さを見せ、状況に応じた臨機応変な打撃と安定した守備で攻守に貢献している。6月に打率.233、15本塁打、67得点だったチームは、エンカーナシオンが加入した7月に打率.260、30本塁打、111得点と、課題だった攻撃面が改善。エンカーナシオンを4番に据え、その前後を筒香嘉智や牧秀悟らが固めることで、打線のつながりが大きく向上した。明らかな“新助っ人効果”で打撃力という本来の武器を取り戻し、借金を半減させた。
セイバーメトリクスではDeNA優位
この勢いの差を見るとDeNAに分があるように思えてくるが、セイバーメトリクスの観点からもDeNAの優位が浮き彫りとなる。得失点差からチームの実力を算出する代表的指標「ピタゴラス勝率」を用いると、データ上でDeNAがヤクルトを大幅に上回っているのだ。
「ピタゴラス勝率」とは、チームの総得点と総失点から最終的に帰結する勝率を予測する統計モデルのこと。米国の統計学者ビル・ジェームズが考案し、「ピタゴラスの定理(三平方の定理)」と数式が似ているため、この名がついた。オリジナルの数式は「ピタゴラス勝率=得点の2乗÷(得点の2乗+失点の2乗)」だが、引き分けがある点など日本固有のルールを踏まえた指数として、よく用いられるのが「1.82~1.83の指数」で、セ・リーグ各チームのピタゴラス勝率を「得点の1.82乗÷(得点の1.82乗+失点の1.82乗)」で計算すると、以下の通りとなる。
◆セ・リーグのピタゴラス勝率一覧(8月24日時点)
①阪神 .580(得点417 /失点349/実際の勝率 .573)
②巨人 .527(得点379/失点357/実際の勝率 .541)
③DeNA .500(得点428/失点428/実際の勝率 .459)
④ヤクルト .417(得点346/失点416/実際の勝率 .455)
⑤中日 .490(得点386/失点395/実際の勝率 .430)
⑥広島 .412(得点321/失点390/実際の勝率 .423)
◆参考:パ・リーグのピタゴラス勝率一覧(同)
①ソフトバンク .663(得点543 /失点374/実際の勝率 .627)
②日本ハム .559(得点475/失点417/実際の勝率 .553)
③西武 .543(得点412/失点375/実際の勝率 .571)
④オリックス .435(得点400/失点462/実際の勝率 .486)
⑤ロッテ .433(得点378/失点438/実際の勝率 .476)
⑥楽天 .403(得点358/失点444/実際の勝率 .394)
この数字から分かるのは、阪神や広島は期待と実際の勝率の差が少なく、ほぼ実力通りの成績を残しているということ。巨人も期待値を少し上回るくらいのところに収まっている。
しかし、DeNAとヤクルトに関しては、ここでも極端な数値が出ている。DeNAは得点も失点も同じ428であるため、当然ピタゴラス勝率は「.500」ながら、実際は借金9と期待値を下回る成績となっている。対して、ヤクルトはピタゴラス勝率を大きく上回る成績を残している。これは、接戦での強さや勝負強さの表れともいえるが、接戦には運の要素も絡むとされ、セイバーメトリクスの統計上シーズン終盤に向かうほど実際の勝率はこの期待値に収束する傾向にあることから、ここからDeNAは上振れ、ヤクルトは下振れする可能性が高いといえる。1試合の平均得点はヤクルトの3.12に対し、DeNAは3.82と0.7点の開きがあり、この得点期待値が「ピタゴラス勝率」に大きく影響している。
ダークホースは…
ここで一つ注目したいポイントがある。中日の実際の勝率が大幅に「ピタゴラス勝率」を下回っている点だ。得点力ではDeNAと差があるが、失点数やチーム防御率(3.26)は阪神(2.88)、巨人(2.91)に次いで低く、投手力に秀でていることが数字上からも分かる。投手陣容に不安を抱えるDeNA(3.51)やヤクルト(3.49)に対して強みを持っており、実はデータ的には逆転の可能性はヤクルト以上に中日が秘めているともいえる。
直接対決はDeNAとヤクルトが6試合、DeNAと中日は5試合、ヤクルトと中日も5試合を残しており、最終的にはこの計16試合が行方を大きく左右することになるだろう。今季の直接対決は、DeNAが対ヤクルトで8勝11敗、対中日で11勝8敗なのに対し、ヤクルトは対中日で6勝13敗と負け越している。勢いのDeNAか、若手の爆発力を秘めるヤクルトか、投手力の中日か。この戦績を見ると、最後までどう転んでもおかしくない接戦が演じられるのは間違いなさそうだ。