なぜ大塚製薬は東京マラソンを支え続けるのか

──大塚製薬は第1回大会から東京マラソンにパートナーとして参画されています。どのような経緯でパートナーになられたのでしょうか。

佐藤 東京マラソンが始まる前の2004年から2006年にかけて、私たちはホノルルマラソンをサポートしていました。ホノルルは制限時間がなく、誰でも参加できる市民マラソンとして世界的に知られています。長距離をゆっくり走ることが健康づくりにつながるという考え方があり、「健康」と「誰もが参加できるスポーツ」という理念は、私たちの事業とも親和性が高いと考え、協賛を始めました。その後、2007年に東京マラソンがスタートしました。当時としては、市民ランナーと世界のトップアスリートが同じ舞台で走る大会は珍しく、観光や都市の活性化にもつながる新しい大会として期待されていました。また、初心者にも門戸を開き、「東京がひとつになる日。」というコンセプトを掲げる大会づくりにも共感しました。健康づくりへの思いを実現する場として、ぜひ一緒に取り組みたいと考えたからです。

──ランナーのサポートにあたっては、さまざまなご苦労もあったと思います。

佐藤 (当時)3万人を超えるランナーに対して、どれだけの量を、どこへ、どのタイミングで届けるのか。ロジスティクスの設計は非常に難しく、毎年試行錯誤の連続だったと聞いています。現場では「ここは足りなかった」「こちらは余った」といった検証を大会側と一緒に重ねながら、さまざまな状況をシミュレーションし、給水体制を少しずつ改善していきました。東京マラソン財団の皆さんと連携しながら、ランナーに安定して提供できる体制を築いてきました。

早野 3万人を超える大規模大会の運営には前例がなく、給水をはじめとしたロジスティクスは毎年が挑戦でした。暑い日は想定以上に飲まれますし、寒い日は逆に余ることもあります。そうした経験を一つずつ積み重ねながら、給水体制も大会運営も一緒に成長してきたと思っています。大塚製薬さんが、エリートランナーだけでなく、市民ランナーの健康づくりへとサポートの対象を広げていったことは、東京マラソンが目指してきた方向性とも重なります。トップアスリートのパフォーマンスを支えながら、一般ランナーが安心して完走できる環境も整える。その両方を実現しようという考え方は、東京マラソンを象徴する取り組みの一つです。大会だけでなく、東京マラソンという文化を一緒につくってきたパートナーだと感じています。

第1回大会のスタートシーン。ランナーへの補給を通じて、挑戦を支え続けている ©東京マラソン財団

アスリート支援から大会全体のサポートへ

──当初はどのような製品を提供されていたのでしょうか。

佐藤 最初は「アミノバリュー」を中心に提供していました。その後、東京マラソンが世界的な大会へと成長するなかで、サポートの考え方も変化し、現在は「ポカリスエット」に加え、「アミノバリュー」「カロリーメイト ゼリー(5大栄養素をバランスよく摂れるゼリータイプの栄養調整食品)」「ボディメンテゼリー(乳酸菌B240を含有したコンディショニングフード)」「/zeroz ゼロズ(酸素を活かす植物由来の成分「ケンフェロール」を含有したセルフコンディショニングフード)」などを組み合わせ、大会当日だけでなく、その前後も含めてコンディショニングを総合的にサポートしています。さらに、対象をランナーだけでなく、ボランティアや大会スタッフ、沿道で応援する方々にも広げました。大会を支えるすべての人のコンディションを支えることも、私たちの役割だと考えています。私たちの考える「サポート」は、単に大会当日に飲む、食べるということではありません。大会前から日常の体調管理まで含めたトータルコンディショニングへと広がっています。

東京マラソンEXPO 2026大塚製薬ブース。補給に関する情報発信や製品体験を通じて、ランナーを大会前からサポート ©東京マラソン財団

ランナーの「ありがとう」が社員の力になる

──大塚製薬の社員も、東京マラソンの給水ボランティアとして参加されています。社内にはどのような効果があるのでしょうか。

佐藤 参加者へのアンケートなどを通じて、社員がこの活動をどのように受け止めているのかを把握する取り組みを始めています。まだ十分に分析できているわけではありませんが、継続して参加する社員が多く、満足度は非常に高いと感じています。ボランティアとして大会に関わる経験は、普段の業務ではなかなか味わえません。ランナーを間近で応援し、「ありがとう」と声をかけてもらうことで、自分も東京マラソンをつくる一員なのだと実感できます。

早野 東京マラソンには「走る喜び」だけでなく、「支える誇り」と「応援する楽しさ」があります。ランナーだけではなく、審判員、ボランティア、大会スタッフ、そして何時間も沿道で声援を送る人たちにも、水分や栄養の補給が必要です。大塚製薬さんが大会に関わるすべての人に目を向けられていることは、東京マラソンにとって大きな意味があります。

佐藤 ボランティアの方から「参加してよかった」という声を聞くと、私たちも一緒に取り組んできてよかったと感じます。自分たちの会社が、どのような理念で社会やスポーツに関わっているのかを再認識する機会にもなります。インナーブランディングや会社へのエンゲージメントという意味でも価値があります。

早野 東京マラソンは「東京がひとつになる日。」という考え方を大切にしています。ランナー、ボランティア、沿道で応援する人、テレビで観戦する人。一人ひとりの関わり方は違っても、同じ大会を通じて気持ちを共有できることが大きな価値です。パートナーの皆さんにも、「東京マラソンが開催できているのは、自分たちの仕事も役に立っているからだ」と胸を張っていただきたい。それが私たちの目指すパートナーシップだと思っています。


酒井政人

著者プロフィール 酒井政人

元箱根駅伝ランナーのスポーツライター。国内外の陸上競技・ランニングを幅広く執筆中。著書に『箱根駅伝ノート』『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。