疲労回復パジャマ「BAKUNE」などリカバリーウエアで知られるTENTIALは2018年に創業し、2019年にコンディショニングブランドとして「TENTIAL」を立ち上げた。疲労回復、健康促進を助けるウエアなどの商品を中心に展開し、またアスリートたちとも提携していくことで、スポーツ界への取り組みを増やしている。
そのTENTIALが9月28日に東京・有明で始まったテニスの国際大会「木下グループジャパンオープンテニスチャンピオンシップス2026」で、出場選手たちが利用できる「TENTIAL リカバリールーム」を提供している。
試合会場の有明コロシアムの隣にある建物2階のフロアを活用し、出場選手がリラックスしたり休むことができる空間をTENTIALが設計した。昨年の同大会で初めて設置され、今回が2回目となる。
計算されつくされた空間設計
9月25日に報道陣向けにリカバリールームの内覧会が行われた。
有明コロシアムのすぐ隣に小さな建物があり、リカバリールームのある2階に上がった。すると、出場する海外選手たちがちょうどビリヤード台でゲームを楽しんでいた。他にも飲み物やアイスクリームやお菓子が用意され、くつろげられる様になっていた。
そして、フロアの半分がリカバリールームになっていて、木目調の高さのある囲いから作られた入り口にはTENTIALのブランドカラーである青色の暖簾がかけられていた。
リカバリールームの内部の様子 暖簾をくぐると、手前の明るい部屋から一転、別空間に入り込んだ感覚になった。薄暗い照明に、アロマの香りがし、リラックスできるBGMが流れている。インテリアのいくつかは青色だった。
休息を取れるブースが計6箇所あり、流線型でデザインされた敷居壁で仕切られ、リラックスチェアやビーズソファなどが置かれていて寛げられるようになっている。マッサージガンやふくらはぎを空気圧でマッサージする機器も用意されていた。
部屋の一番奥には高機能ベッド3台が用意されていた。アスリートが試合前に休むために、背もたれを少し上げて足のふくらはぎの位置が胸と同じ位置に上がるような設定ができる。それぞれカーテンで遮ぐことができ、明かりもほぼ入らず睡眠しやすい環境になっていた。
選手の休息を支える空間設計。そして、コンディショニングのために用意した製品・設備。TENTIALというとやはりリカバリーウエアというイメージが強いだけに、こういうこともできるのかと感心させられた。
自社の研究所で得た知見を生かし
そもそもTENTIALは単なるリカバリーウエアのメーカーというわけではない。こういった空間設計に取り組める背景に、自社で「コンディショニング研究所」を持っていることがある。研究所で、どうやったらリラックスやリカバリー効果を生み出せるかなど調査や研究をしている。商品開発だけでなく、空間設計にも研究所で得た知見は生かされている。
リカバリールームを担当したTENTIALの事業統括本部の岩本孝士さんは、設計でのこだわりについて知覚情報を大切にしたという。
「暖簾をくぐって一番大きく空間が切り替わったことを感じられるようにしたかった。明るさの照度では心が一番落ち着けるという10ルクス以下にし、色温度は暖かめの色がリラックスに効果的ということから2500から3000ケルビンにしました。内部は(インテリアなど)角がないように全体的に流線型にしているのも心を休めるため。空間に青色が多いのは、鎮静効果があるからです。休むための場所として直感的にわかるような空間を目指しました」
視覚だけでなく、リラックス効果のある香りを出す機器をいくつか設置していたり、マッサージ店で流れるような音楽など、嗅覚や聴覚からもリラックス効果を引き出すようにしてある。
「こだわりを持って作った部分では、明るさが1番強いんですけど、音と香り、そしてルームの奥まで全部見えるようにして不安感が無い状態を作ることには色々と検討を重ねて作りました」(岩本さん)
公益財団法人日本テニス協会の常務理事で事業マーケティング本部本部長の坂井利彰さんは、今回もリカバリールームが設置されたことを喜び、「テニス界に隠された秘伝のタレをついにオープンする時がきた」と笑い、昨年いかにこのリカバリールームの反響が大きかったかを力説してくれた。
「昨年リカバリールームを初めて設置したら、選手やATP(男子プロスポーツ協会)から高い評価を得ました。この様な高いレベルのリカバリールームを備えたATPの大会はなかったそうです。選手から好評だった理由は、ただここで休めるだけではなく、リラックスして、フィジカルだけではなくメンタル面でもここを利用することでリフレッシュができて疲労回復ができましたと。特にツアーで世界中を回っている選手達にとって、メンタルの疲労は蓄積しますし」(坂井さん)
決して、ATP側から絶対条件として設置を求められているわけではない。「ジャパンオープンにおける付加価値」(坂井さん)ではあるが、「少しでも選手に良い環境を作りたい。そういう中で、TENTIALさんがこういうリカバリーというテーマでパートナーになっていただいた。ルームの中に入ってびっくりした、もう『ワォ!』ですよ。限られた施設の中で、ありがたいことにオーダーメイドでやっていただけた」と感謝する。
昨年大会ダブルス決勝で勝敗を分けた要因?
岩本さんは「冗談ではありますが」と前置きしつつ「昨年大会では、ダブルスの決勝前に奥にある3台のベッドでダブルス出場の4選手中3選手が寝ていたのですが、優勝したのは2人とも寝ていたペアでした。『寝る子は強い』というのが小さい実績かもしれませんが実証できました」と笑った。
岩本さんたちによると、他にも躍進した選手たちが試合前にもかかわらずあまりによく寝ていて、心配してしまうほどだったという。
「彼らに直前まで寝て試合に影響しないのかと質問すると、完全にオフにして休みきってから試合前のアップでテンションを上げきる。落差を付けた方がピークを持っていきやすいと応える選手が多かった」
TENTIALが提供しているリカバリールームは、今年2月の野球日本代表「侍ジャパン」の事前合宿でも提供されている。
ただ、現状としてはあくまで実証実験的な要素がまだ強い。今回のジャパンオープンでのリカバリールームもこの大会のためのオリジナル設計。他で転用ができるかというとそう簡単ではない。その時その時でルームの設置に使える面積や、空調コントロールをしやすい機器がそろっているかによって設計が変わったり、設置可能かどうかも分かれる。とはいえ、岩本さんはリカバリールームのさらなる提供に意欲的だ。
「他でも今回の様なリカバリールームを、一部は対応できます。ルーム全体の囲いの寸法は、会場に特化しているのでまるっと同じことはなかなか難しいですが、中の什器とかは点在させることができる。実は組み立て式にしていたりするので、これからそういう置き場所が増えているかもしれないし、こういう(短期)スポットだけではなく、常設でも使える場所をどんどん手がけていきたい」
将来的には、スポーツの現場はもちろん、それ以外のさまざまな用途・場所でのリカバリールームの設置を見通している。
「テニスに限らず、パフォーマンスを上げて良い成績を残すためのリカバリースペースというのがテニス以外にも広がっていけばと思います。スポーツの現場だけではなく、社会の中で体を休める、気持ちをリセットするために活用することが我々としても描ける可能性があると見ています」
リカバリールームが各地で増える未来
説明を聞き、リカバリールームを見学しながら、これは色んなところで広がるかもしれないと感じた。
例えば、今も多く残るかはわからないが、新聞社や病院など夜勤のあるところでは狭い仮眠室がある。しかし、大半がちゃんと体を休められるかというと微妙だろう。TENTIALの設計思想に基づいたリカバリールームがあれば、短時間の睡眠でも疲労回復に大きく貢献するかもしれない。また、取材で渋谷にある大手IT企業らのオフィスを訪れる機会があるが、それらのオフィス内部のデザインとこういったリカバリールームは間違いなく合うはず。他にも空港や大学の理系研究所、工場も考えられる。
一般社団法人日本リカバリー協会が算出している市場規模は、2024年が6.0兆円、2025年が7.6兆円(推計)と急成長している。さらに2030年には約14.3兆円、2035年は21.1兆円と予測している。
既にTENTIALの主力であるリカバリーウエアは、多くのライバル社が参入して競争が激化している。TENTIALにとって、リカバリーウエア、コンディショニンググッズといったモノの商売だけでなく、リカバリーのための空間、リカバリーの体験といったコトへの商売に目を向けるのは必然だったのかもしれない。その中で、ジャパンオープンのリカバリールーム設置は、多くの選手たちからフィードバックを得られて、事業化にまでたどり着くための絶好の機会なのは違いない。