痛恨の黒星に勝負どころの連敗
前評判は良かった。シーズン前の評論家らによる順位予想では、1位阪神に次いで2位に中日を推す意見が多かった。右の高橋宏斗、昨年のドラフト1位で左の金丸夢斗ら投手陣の駒がそろい、戦力が整ってきたとの見立てだった。一昨年まで3年連続して最下位に沈んでいたが、井上一樹監督の就任1年目の昨季に4位へ浮上。しかも優勝した阪神にリーグで唯一勝ち越したこともあり、期待感は膨らんだ。井上監督はシーズン前、ある激励会の場で次のように意欲を口にした。「秋にはいいご報告ができるように、盛大な祝賀会になるようにまい進したいと思います」と力強く宣言した。
しかし、開幕戦で大きくつまずいた。3月27日、マツダスタジアムでの広島戦。4点リードの九回に抑え役に送り込んだアブレウが打ち込まれ、まさかの同点に追い付かれた。結局、延長十回で5―6とサヨナラ負けした。守護神の松山晋也投手がけがで出遅れた影響もあり、勝利濃厚の状況から黒星発進。4月1日まで開幕5連敗と最悪のスタートを余儀なくされた。
故障者が続出したことも響き、痛恨の敗戦が重なった。5月20日の甲子園での阪神戦は、七回表を終了して7―0と大量リードを奪ったが、その裏に4点を献上した。八回に追い付かれ、九回サヨナラ負け。またもや勝ちムードからのショッキングな黒星を喫した。14年ぶりのクライマックスシリーズ(CS)進出に向け、8月28日からは3位DeNAとの大事な3連戦だった。DeNAと2・5ゲーム差で迎えた勝負どころで、逆転サヨナラ負けなどで3連敗。Aクラスが遠くかすんだ。
神通力通じず逆転負けの嵐
球団創設90周年の事実は当初、追い風になるのではと前向きに捉えられていた。というのも、同じくメモリアルイヤーだった2024年の巨人、昨年の阪神が続けて優勝していたからだ。いわば〝神通力〟に似た節目で、ファンの願いが重なった。しかし終わってみれば60勝81敗2分け。優勝した阪神と19ゲーム差、3位DeNAとは11・5ゲーム差の惨敗に終わった。井上監督はシーズン終了前の9月29日に辞意を表明した。
その少し前の9月21日。バンテリンドームナゴヤでの本拠地最終戦で、井上監督は試合後のセレモニーでファンにこう挨拶した。「春先のつまずきから挽回しようと必死になってやってまいりましたが、現段階の地位に甘んじていることを心よりおわび申し上げます」。潔く謝罪するしかなかった。
苦い負け方の象徴として、逆転負けが敗戦数のほぼ半分の40試合に上った。数字にも表れており、イニング別のチーム失点で最多は六回の72失点、2番目に多いのが七回の71失点、3番目は四回と並んで八回の62失点と試合後半が多かった。セ・リーグ個人投手成績(規定投球回以上)で、中日は上位11人のうち3人が入ったように先発陣はおおむね奮闘。内訳は防御率2・34で5位の柳裕也、2・45で7位の大野雄大、2・91で11位の金丸だった。リーグ2位の31セーブをマークした松山にどうつなげるか。救援陣が踏ん張り切れずに試合をひっくり返される課題を最後まで克服できなかった。
根強い人気の秘けつ
成績と反比例するように観客数は伸びた。球団の発表によると、今季の主催71試合の観客動員は253万3782人。主催72試合で252万832人を集めた昨シーズンを上回り、実数発表が始まった2005年以降で最多を更新した。ファンクラブのメンバーによると、以前は希望通りのチケットを取れていたがここ1、2年はなかなか確保できなくなったという。
CS進出は2012年、リーグ制覇は落合博満監督時代の2011年、日本一となれば同じ落合政権下の2007年が最後。興行でもあるプロ野球で、好成績が伴わなくても応援の熱烈さが増しているのは不思議な状況だ。一つには球団のPR戦略が奏功している面がある。バンテリンドームナゴヤでは若者や女性の観客が目を引く。最寄りの大曽根駅やナゴヤドーム前矢田駅からはお気に入りの選手のユニホームを着たり、メガホンを持ったりして楽しそうに球場へ足を運ぶ光景が広がる。球場内では人気マスコットのドアラの耳をかたどったカチューシャを着け、笑顔で歩いている人々らの姿がある。試合を多角的に堪能している様相を呈していた。
順位に関係なく根強い人気がある。その秘けつに迫るような動きは、中日をテーマにした近年の著作物にも表れた。「人生で残酷なことはドラゴンズに教えられた」(小学館新書)、「中日ドラゴンズが優勝できなくても愛される理由」(光文社新書)―。 市民の間からは「たまに勝つから心が離れないのかも」と、パチンコや競馬などの愛好者に通じるような〝ギャンブル理論説〟も上がった。ただ、あるファンクラブ会員は「もうそろそろいい加減にしてよ、という感じ。10月もがっつり応援できる状況がうらやましいですよ」と漏らした。
名古屋に残されたピース
好成績を渇望されている球団にシーズンオフ、サプライズがもたらされた。新監督に工藤氏の就任が決まったからだ。現役時代に左腕として通算224勝。西武を皮切りにダイエー(現ソフトバンク)、巨人などに所属して11度の日本一に輝いた。指導者としてもソフトバンクの監督を2015年から7年務め、5度の日本一に導いて卓越した力を発揮した。研究熱心で、筑波大大学院でスポーツ医学を学ぶなど野球への情熱、探究心は並々ならぬものを持っている。
工藤氏が愛知県出身という背景も一部でファンの心をくすぐっている。本人も15日の就任記者会見で「名古屋の人に少しでも恩返しがしたい」と地元愛を漂わせた。名古屋電気高(現愛工大名電高)を卒業後に西武に入団。選手、指導者時代を通して中日のユニホームに袖を通したことはなかったが、苦闘続きのチームを引き受けた。在籍経験のない指揮官の誕生は1984年の山内一弘氏以来。外部人材の起用に、交渉に当たった球団幹部は「勝ち方を知っている方だと思うので、そこに非常に期待している。(工藤氏は)まず鍛えることは最重要課題でしょうねとおっしゃっていた。あくまでも話し合いを重ね、選手が納得して取り組んでくれるかが大事だともおっしゃっていた」と明かした。チームを抜本的に立て直すことが待望される。
名古屋では世界最新鋭の設備を持つ屋内施設「IGアリーナ」が2025年に開業し、コンラッドなどラグジュアリーホテルが近年、次々に誕生。今年は国際総合競技大会のアジア大会、アジアパラ大会の舞台となるなど街が活性化して〝名古屋飛ばし〟は消え去りつつある。心強い新監督の下での〝強竜復活〟は、名古屋が全国的にさらに存在感を放つ上で、パズルの貴重なピースといえる。