名古屋のFリーグ連覇は「9」でストップ

 2017年2月25日、2007年に創設されたFリーグの歴史が変わった。これまで9シーズンに渡ってタイトルを獲り続けていたのは、国内で唯一のプロフットサルクラブである名古屋オーシャンズだった。Fリーグのほとんどのクラブの年間予算が1億円前後であるのに対して、名古屋の年間予算は約3億円。その豊富な資金力を生かし、有力な日本人選手を獲得しただけではなく、世界トップクラスの外国人選手をチームに招き、リーグを席捲してきた。これまでの最盛期と言える10-11シーズンには、「フットサル界のクリスティアーノ・ロナウド」とも称されるポルトガル代表FPリカルジーニョを獲得。アスリートとして最盛期と言える25歳で来日した世界的スターを擁したチームは、リーグ戦5試合を残して早々と優勝を決めている。

 この10-11シーズンをはじめ、名古屋オーシャンズは常に日本のフットサル界をリードしてきた。ところが16-17シーズン、名古屋オーシャンズはレギュラーシーズンで1位になることができなかった。15-16シーズン終了後、元フットサル日本代表FP北原亘、元ポルトガル代表FPペドロ・コスタが現役を引退。さらにリーグMVPと得点王を4度ずつ獲得している日本フットサル界の顔とも言える日本代表FP森岡薫には、ゼロ提示を行って契約を更新しなかった。

 その背景には、愛知県が2020年のフットサル・ワールドカップ招致を目指していることがある。名古屋オーシャンズは、この大会に向けて若い日本人選手の育成に取り組むためにも、16-17シーズンの開幕前に世代交代を断行した。チームの得点源であった森岡の代わりには、現役ブラジル代表のFPシノエを獲得することも決まっており、10連覇に向けて不安はないはずだった。

 ところが、シーズン開幕直前になって、「一身上の都合により」シノエが電撃的に退団してしまう。これまでのシーズンは圧倒的な攻撃力で相手を粉砕してきた名古屋オーシャンズだったが、絶対的なエースが不在となったことで、組織的に守りながら接戦をモノにしていくチームへと変わっていった。

 シーズン序盤、順調に勝ち点を積み重ねた名古屋オーシャンズは、2016年7月に開催されたAFCフットサルクラブ選手権では、通算3度目となるアジア王者に輝いた。この大会で若い選手たちは自信をつけ、チームは順風満帆のように思われた。AFCフットサルクラブ選手権による中断期間中には、シノエの代わりに新外国人選手も獲得した。ブラジル代表歴もあるFPサカイ・ダニエル・ユウジだ。シノエは典型的な点取り屋だったが、このときに獲得したサカイ・ダニエルは、攻守でチームに貢献できるバランスを取るタイプの選手だった。突出した個人の得点力に頼らない戦い方を継続した名古屋オーシャンズだったが、11月の6試合を2勝2分け2敗で終えるなど、勝ち点「3」を得られない試合が増えていった。

 ここで首位に浮上したのが、シュライカー大阪だった。元フットサル日本代表選手だった木暮賢一郎監督が率いて3年目を迎えたチームは、15-16シーズンの得点王だったFPヴィニシウス、新加入のFPチアゴ、FPアルトゥールの外国人トリオが大活躍。33試合で186得点という爆発的な攻撃力を売りに、27勝2分け4敗という成績を残して、レギュラーシーズンで1位となった。

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埋められなかったストライカー不在の穴

 それでも、まだ名古屋オーシャンズには10連覇の望みが残っていた。Fリーグは12-13シーズンから、レギュラーシーズン後にプレーオフを行っている。このプレーオフを制したクラブが、優勝クラブとなるからだ。レギュラーシーズン1位のシュライカー大阪は、プレーオフ・ファイナルへの進出が決定。2位の名古屋オーシャンズ、3位のペスカドーラ町田、4位のフウガドールすみだ、5位の府中アスレティックFCが、プレーオフ・ファイナル進出を目指して、プレーオフ・ファーストラウンド、プレーオフ・セカンドラウンドに臨んだ。

 名古屋オーシャンズは24日に行われた府中アスレティックFC戦に2-2で引き分けたが、レギュラーシーズンで上位だったためにセカンドラウンドに進出した。しかし、そのセカンドラウンドで、ペスカドーラ町田に0-3の完敗を喫してしまう。しかも、試合を大きく左右する先制点を決めたのは、15-16シーズンまで名古屋オーシャンズのエースである森岡だった。苦しいときにゴールを奪ってくれるエースの不在が、最後まで響く結果になってしまった。

 15-16シーズンまで名古屋オーシャンズの選手だったペドロ・コスタ監督は、「すべての責任は自分にある」と言い、選手補強における判断を悔やんだ。

「今シーズン、森岡選手が抜けて、チームはその穴を埋めるためにシノエ選手を獲得しました。しかし、そこでいろいろと問題が生じてしまい、チームに穴が空いた状態になってしまいました。シノエ選手が抜けたタイミングで、他の外国人選手の獲得も考えましたが、空いていた穴を埋めるようなストライカー的な存在を獲得するのではなく、チームのバランスを考えてくれるディフェンシブな選手の獲得を考えてしまいました。私も、昨シーズンまでは、今いる選手たちのチームメイトとして一緒にプレーしていました。もっと全体で点を取れると信じていましたが、そこは私の責任です。私の考えが少し甘かったかもしれません。ダニエル(・サカイ)選手は、持っている実力を最大限に発揮してくれたと思いますし、チームにも十分、貢献してくれました。しかし、今、振り返ると、もっとシビアに考えて、(森岡選手と)同じようなストライカーを獲得し、穴を埋めるべきだったかもしれません」(ペドロ・コスタ監督)
【Fリーグ】10連覇を逃した名古屋 ペドロ・コスタ監督「この結果は、すべて私の責任」

 Fリーグ創設10年目という節目に、名古屋オーシャンズは初めてリーグ戦の1位を逃したばかりか、プレーオフ・ファイナルにも勝ち進めなかった。名古屋オーシャンズに代わる新王者は、3月3日、4日に予定されているプレーオフ・ファイナルで決まる。


河合拓

2002年からフットサル専門誌での仕事を始め、2006年のドイツワールドカップを前にサッカー専門誌に転職。その後、『ゲキサカ』編集部を経て、フリーランスとして活動を開始する。現在はサッカーとフットサルの取材を精力的に続ける。