インタビュー=岩本義弘

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「実際に話し合いに参加してみたら、これが意外に面白い」

――まずは、インタビューのテーマから説明します。今日のインタビューでは、普段、あまりサッカーについて語らないヒデさんに、ガッツリ1時間、サッカーについてのみ語っていただこう、というテーマです。

中田 難しいテーマですね(笑)。

——まずは、Football Advisory Panel(サッカー諮問委員)の話から聞かせてください。2015年から、FIFAの評議機関であるIFAB(国際サッカー評議会)のオファーでFootball Advisory Panelにアジア代表として参加しているとお聞きしました。サッカー関係者ですら、ヒデさんがFIFAの仕事をしているということを、ほとんどの人が知りません。

中田 とくに、言ってないですからね。

——とはいえ、ほとんどの人は、サッカーを通じて中田英寿を知ったわけですから、ヒデさんとサッカーとの関わりは当然気になります。話せる限りで、ぜひFIFAでの活動について教えてください。

中田 話せる限りというか、何も隠しているわけではないです。ただ、僕が関わっているFIFA絡みの活動は、表に出るような役割の仕事じゃないですから。だから、それについてメディアに聞かれることもないし、自分からわざわざ言うことでもないと思います。

——そこも含めて、ぜひ教えてください。

中田 例えば、僕が参加しているFootball Advisory Panelは、サッカーのルールを話し合っていく委員なんですが、2つのグループに分かれているんです。一つはレフェリーだけのもの。僕が参加しているのはもう一つのほうで、そちらは、例えば各国協会の人間だったり、リーグの人間だったり、元選手だったりと、レフェリー以外のサッカー関係者で構成されてる。立場の違う人たちが集まっていることに加えて、それぞれの大陸代表が参加していて、僕はアジア代表として参加しています。あとは、やっぱり、サッカーの母国イングランドのFAからも人は来ていて、今もFAの会長が議長をやってるくらいイングランドの影響力は強いと思います。

——どれくらいのペースで、Football Advisory Panelの会議はあるんですか?

中田 基本は年2回。毎回違う場所でやっていますが、みんなが集まりやすい空港近くのホテルに集まって、終わったらみんなすぐにそれぞれの国に飛んで戻っていく、という感じです。

——最近の会議だと、どういう話をしてるんですか?

最近だと、ビデオジャッジメントの話が多かったですね。あとは4人目の選手交代の話とか。とにかく、いろいろな話をしてますよ。

——そこで話し合ったことが採用されているんですね。

中田 いや、厳密に言うとそうじゃないです。結局、僕らの役割は、そこで新たなルールを決定することではなくて、まずは議論をしましょう、ということ。それで、論議を何回もして、じゃあ試そう、となったルールを、どこかのリーグやアンダー世代の大会で試してみたり。僕らの話し合いによって出た様々なアイデアを、最終的には当然、FIFAが決定することになる。簡単に説明すると、僕らのミッションはFIFAへの提言という感じです。でも、実際に話し合いに参加してみたら、これが意外に面白い。ルールの話だから、常にトレンドのサッカーをわかっていないと難しい、というものじゃない。ルールというのは、選手にとって、というよりも、見てる人にたいしてより見やすく、楽しめるようにするためのものだと思います、まず、そういう視点でルールについて考えたことがなかったから、それだけでも面白い。あとは、例えば、ルールブックがありますが、あれもかなり前に書かれた時から、ほとんど言葉遣いが変わってない。言葉遣いが古いだけじゃなくて、基本的には否定的な表現が多かったりするわけです。それを、今の時代だったら、こういう表現じゃなくて、もうちょっとこういう書き方がいいだろうとか、そんな話までしてます。だから、一つひとつ、すごく時間がかかる。ルールを変えるというのは、それだけ大変なんです。

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「一つのルールでも、すごくいろいろな側面があって、様々なことを考えさせられる」

——ルールを変えることによるプラス面とマイナス面を出し合って、それをもとに議論していくんですか?

中田 昨年末のクラブワールドカップでも新ルールがありましたよね。すごく話題にもなったビデオアシスタントレフェリーです。あれも、普通はみんな当然、100%導入すればいいと最初は思う。でも、実際にはいろんなことを考えていかなければならない。例えば、グラウンドにいる主審の判断が優先されるのか、それとも映像でチェックしているレフェリーの判断が優先されるのか。後は、どのファールまで映像チェックをしていくのか。他にもビデオジャッジするレフリーはどのレベルのレフリーがやるんだ、というのもあります。それから、このシステムというのはこれだけの映像(カメラ)があって初めて成り立っているから、じゃあどのカテゴリーまで入れるのかとか。それをすべてのカテゴリーで導入したら、今度はどれだけコストがかかるという話も出てくる。だから、そういうさまざまな視点から見ていくと、導入すればいいとは思っているけど確かに難しい面もあるなとか、いろいろな話が出てくる。そういう話し合いを、多角的に何度も何度もやる、という感じです。

——実際、クラブワールドカップでは、ビデオアシスタントレフェリーによる判定が下されて、スタジアムでは若干の混乱も起きました。

中田 それはそうですよ。選手もいきなりですからね。1つルールを変えるだけで、それを浸透させるのには莫大な時間が掛かる。結局、サッカーというスポーツが世界一広がっているスポーツなだけに、そう簡単には変えられない。アフリカの奥地でも、このルール変更は採用できるのか、じゃあ誰がどういうふうにやっていくんだ、という話になるわけで。これは本当にいろいろな角度から見てみると面白いですよ。

——サッカーはカップ戦は別ですけれど、リーグ戦の場合はハーフタイムも含めて120分の枠で収まるということが、試合中継の映像価値を上げていると思います。そういうビジネス的な側面も考えると、本当に難しい問題ですね。

中田 他の例だと、ユニフォームの中に小型のチップを入れられるから、そこからリアルタイムで情報が取れる。そうすると、その選手がどれくらい走っているのかなど、リアルなデータがすぐにわかる。それを、ベンチ内で監督が見て判断するのはOKなのか。でも、実際にそれだけのテクノロジーを入れられるチームは資金に余裕があるチームしかできないから、そこで差が出てきてしまうから駄目じゃないか、とか……。

——確かに、テクノロジーの進化に、ルールが追いついていない面は大きいですよね。

中田 そういうことです。逆に、そのテクノロジーを持ち込めるチームと持ち込めないチームがあるということが問題になったり。資金力のあるチームだけが有利になる状況は、どうなんだと。そして、その情報は誰の情報になるのか。それを提供しているユニフォームのメーカーがその情報を得るのか、選手個人が得るのか、チームが得るのか、など権利関係が大事になってくる。個人データなので。蓄積していくと価値になりますからね。そういったデータが、賭けの対象にまでなってしまう可能性すらある。一つのルールでも、すごくいろいろな側面があって、様々なことを考えさせられるし、勉強させてもらっています。

——一つのスポーツの進化の過程に、直接関与できているというのは、すごいことですよね。

中田 そうですね。僕はずっとサッカーをやっていたけれど、今は現場にもほとんど行ってないし、コーチをしてるわけでもない。現在のサッカーの試合についてコメントすることもほとんどない。ただ、こうやってサッカーの根本について話をしているのは意外に面白いです。なので、呼ばれる限りは行こうと思ってます(笑)。

——その話し合いに参加する上で、ヒデさんのスタンスはどのような感じですか? フラットに、そこで感じたことや考えたことを話している感じですか?

中田 そうですね。それと、経験してきた人間としての自分の意見を言わせてもらってます。

——例えば、ヒデさんたちが参加したU-17世界選手権の時には、スローインに代わってキックインが導入されるという、衝撃的なテストがありました。

中田 でもあれ、一発でなくなりましたけどね(笑)。でも、今になって思うと、あれはそういうことだったんだな、というのがよくわかるわけです。当時は、なんでそんなことやるのかよくわからなかったけれど、とりあえず日本は弱いからラッキー、みたいな感じでした(笑)。だって、キックイン・ルールって、どんなに攻め込まれても、一発大きくクリアすれば、もうOKというルールでしたからね。でも、当時もキックイン導入について議論された上で、きっと採用されたわけで、今はそういうことがわかるから非常に面白い。

【第二回】中田英寿がFIFAでやろうとしていること

中田英寿が現在、FIFAの評議機関であるIFAB(国際サッカー評議会)のオファーでFootball Advisory Panel (サッカー諮問委員)を務めていることを知る者は少ないだろう。自ら語るように、現役引退後はサッカーを通じた社会貢献に意義を見いだし、協会やクラブによる強化・発展の取り組みとは一線を画してきた。そんな彼が今、サッカーのルールを検討・変更することができる唯一の機関、IFABにどんな思いで参加し、何を感じているのか。そこでの活動を通じて認識を新たにした、日本サッカー発展の課題や可能性と併せて、大いに語ってくれた。

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岩本義弘

著者プロフィール 岩本義弘

サッカーキング統括編集長/(株)TSUBASA代表取締役/編集者/インタビュアー/スポーツコンサルタント&ジャーナリスト/サッカー解説者/(株)フロムワンにて『サッカーキング』『ワールドサッカーキング』など、各媒体の編集長を歴任。 国内外のサッカー選手への豊富なインタビュー経験を持つ。