インタビュー=岩本義弘

【第一回】中田英寿がFIFAでやろうとしていること

中田英寿が現在、FIFAの評議機関であるIFAB(国際サッカー評議会)のオファーでFootball Advisory Panel (サッカー諮問委員)を務めていることを知る者は少ないだろう。自ら語るように、現役引退後はサッカーを通じた社会貢献に意義を見いだし、協会やクラブによる強化・発展の取り組みとは一線を画してきた。そんな彼が今、サッカーのルールを検討・変更することができる唯一の機関、IFABにどんな思いで参加し、何を感じているのか。そこでの活動を通じて認識を新たにした、日本サッカー発展の課題や可能性と併せて、大いに語ってくれた。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

僕らの時代は、一人でゲームを変えられるような華のある選手がたくさんいた

——FIFAと言えば、昨年2月、ジャンニ・インファンティーノ氏が新会長に就任しました。インファンティーノ会長になって、FIFAは変わったと感じますか?

中田 ブラッター時代のイメージを何とかして変えようとしているのは、とても感じますね。あとは元選手たちへの扱いも変わったかな。これまでは、元選手はしょせん元選手という感じだったのが、今は元選手達をFIFAの現場でも上手く使おうとしている感じがします。例えば、各国のいろいろなイベントでも、FIFAの幹部が集まるだけじゃなくて、元選手達も呼ぶことで、メディアからの注目度も増しますし、また実際に現場でのイベントなども多く出来るようになります。だから、そういった意味でも、より選手出身の人を使っていけばいいということに気づき始めているんじゃないかなと思います。

——確かに、ブラッター会長時代は、元選手を重要なところで起用する、というのはあまりなかったイメージがありますね。

中田 そこは間違いなく、変わったと思います。インファンティーノになって明らかに変わりましたね。特に、僕と同じ時期にプレーしていた選手達が、それこそ、レアル・マドリーの監督であるジダンを筆頭に、各チームの監督だったりコーチを務めるのはもう当たり前になってきてるし、各国協会の会長とかをやってる人も増えてきている。なので、その当時の選手達とはイベントなどでは良く会いますね。

——ヒデさんがやってた時は今振り返ると、本当にサッカーの価値がぐっと上がった時代ですよね。

中田 言い方はちょっと悪いかもしれないですけど、言わば、サッカーのバブル期の最初だったんじゃないかと思います。だから、チャリティーマッチとかもそうですが、ここ10年くらいのサッカーイベントに集まる元選手たちは、ほとんどがあの頃、特にイタリアでプレーしていたメンバーが多いです。きっと、バブルだったからこそ、その時代にプレーしていた選手たちのバリューがすごい上がったんだと思います。それは、もちろんサッカー選手としての価値が上がっただけじゃなくて、例えば、サッカー選手がファッション関連のCM、それこそ、アルマーニやドルチェ&ガッバーナのCMに出始めたりと、サッカーやスポーツ関連じゃないジャンルの企業の顔として起用され始めたのも、僕らの時代からだと思うし。日本だけじゃなく、世界的に、一気にそういう流れになった時代だった。そういうこともあって、結局、サッカー選手としてだけじゃない付加価値が選手にたくさんついた時代なんだと思います。

——確かに、ヒデさんたちの時代の選手たちは、本当に華がありました。

中田 サッカーの移り変わりもあるけれど、僕らの時代は多分ファンタジスタがいた最後の時代なんですよね。僕らの後の時代になると、途端にファンタジスタがいなくなってきた感じがします。現在のサッカーでは、どの選手も役割がきっちりと決まっていて、しかも、よりフィジカルな側面が強くなってきている。僕らの時代はまだ、ファンタジスタがワンプレーですべてを変えることがあり、それもなんとなく華やかさがありました。もちろん、今が悪いと言いたいわけじゃなく、今のサッカーにはまた違う魅力があると思うけど、僕らの時代は、ファンタジスタに代表されるような、一人でゲームを変えられるような華のある選手がたくさんいた、最後の時代だったんじゃないかなと思います。

スポーツと社会は切り離せないものだと思う

——同じ時代にプレーしていた選手たちのように、それこそ、ヒデさんもサッカーのど真ん中の組織に入る、という可能性はないんですか? 監督やコーチをやるつもりはない、という話は以前にも聞きましたが、例えば、FIFAの中核に入って、世界のサッカーを変えていくようなことには興味がないですか?

中田 サッカーは好きだし、関わっているのもいいと思うんだけど、やっぱり、なんだろうな……。2006年にプロを辞めて世界中を回ったときに、自分としては、プロスポーツとしてではないところでのサッカーの影響力とか、そういうものの大きさを、感じ取ったんだと思います。サッカーの人と人を繋げる力、というか……。社会貢献を含め、そういうことをもっと広めていったり、力を入れていったほうが、プロスポーツとしてのサッカーも、より魅力的になって大きくなると思う。本当は、FIFAやJFAといった大きな組織が、先陣を切って、社会貢献的な事業やチャリティー関連の事業を、もっともっとやっていくのであれば、組織に入ってもいいとは思います。そういう役割の担当として。だけど、プロスポーツとしてのサッカーをメインにやっている現状の組織の仕事は、別に僕じゃなくてもいいなと思います。それは他の人たちのほうがもっとちゃんとできるから。

——スポーツとしてではないサッカーに力を入れている組織は、確かに、現状は見当たらないですね。

中田 くり返しになるけれど、僕はFIFAやJFAといった組織が、社会貢献の部署をどんどん大きくしてやっていくべきだと思う。スポーツと社会は切り離せないものだと思う。スポーツをより文化として根づかせていくためには、そういう活動が絶対に必要。逆にそうやって広げていくと、今よりもより多くの人々がサッカーに興味を持つだろうし、サッカーが社会にとってより意味があるものになるんじゃないかなと。もちろん、単純に楽しむだけのサッカーもいいんだけど、だけどそれだけがサッカーの形じゃないと思うから。そういう部署ができるといいなと思いますし、そういう部署のことであればぜひやってみたいと思います。

——そういった活動は、FIFAやJFAに入らなくても、今の活動の延長戦上でもできる可能性はありそうですけどね。

中田 これまでもチャリティーマッチはやって来ました。ただ、FIFAがそれにコミットするとか、JFAがそれにコミットするという形が必要になってくる。現状は、個人個人がそれぞれの形でチャリティーマッチをやっている状況。日本だけじゃなく、海外でもそういう形がほとんどです。もちろん、JFAやFIFAも案件ベースでサポートはしているんだけど、彼らが先陣を切ってオーガナイズしていくべきだと僕は思ってます。

——FIFAや各国協会がオーガナイズすれば、全体の規模感も変わってきますからね。

中田 全然違う。全然違う規模感になるし、やっぱり、いろいろな意味で選手にとっても良いことだと思うし、社会にとっても言うまでもない。僕が今考える中では、FIFAを始めとしたサッカー界の組織に、とても欠けている部分だと思います。

——そういうことを、インファンティーノ会長に直接言ったりはしないんですか?

中田 なんとなくは言ってますけど、彼はまだ、やらなきゃいけないことがたくさんあるから、もう少し時間がかかるでしょうね。

©VICTORY

FIFAはベストプレーヤーと併せて社会貢献部門の表彰を行うべき

——チャリティーマッチを含めて、ヒデさんと同時代にプレーしていた人たちとよく顔を合わせると思いますが、そういうメンバーが集まった時には、どういう話をするんですか?

中田 サッカーの話しもちょっとはしますが、それぞれの今の生活のこととかもよく話しします。しかも、現役の時はほとんど喋ったこともない選手と、逆に辞めてから仲良くなることも良くあります。僕らの時代は、セリエAが一番レベルの高いリーグだったから、ほとんどの選手はイタリアでのプレー経験があって、だから、みんなイタリア語を話せるんです。それはやっぱり楽ですね。

——みんな、英語じゃなくてイタリア語で話してるんですか?

中田 もうほとんどイタリア語。チャリティーマッチとかで集まっても、基本的にはほとんどみんなイタリア語で話してます。もちろん、イタリアでやってなかった人とは英語で話すこともあるけど、でもイタリア語で話す機会のほうが圧倒的に多いです。

——それじゃあ、そのうち、FIFAの公用語(※現在は英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語)の中にイタリア語が入るかもしれないですね。

中田 可能性はあるかも。会長のインファンティーノもイタリア語を話せますしね。

——同世代の元選手の中で、ヒデさんがクレバーだと感じたり、リーダーシップを取れるような人はいるんですか?

中田 クレバーな選手は多いかな。リーダーシップは……例えば、(ルイス)フィーゴなんかは、FIFAの会長選に出ようとしたくらいですからね(笑)。フィーゴだけじゃなく、カフーとかもそうだけど、自分たちの財団をやってる人たちがすごく多い。ジーコもやってるけど、南米の選手で財団をやってる人は多いイメージがある。メッシなんかもやってますしね。だから、本当は他の選手の財団とのコラボなどもやってみたいと思います。チャリティーマッチとかも、単独でやるより、もっと活性化するし、規模も大きくなる。本来は、FIFAはそういう役割をやっていかなきゃダメだと思いますね。

——選手側も、FIFAが「あなたの財団を広くPRしますよ」って言ったら、みんな喜びますよね。

中田 間違いないです。今回、インファンティーノは、FIFAのベストプレーヤー賞をバロン・ドールと分けるという改革をしましたけど、次の改革として、あの賞の一つに社会貢献部門を作ったらいいんじゃないかと。毎年、1月にベストプレーヤーを表彰するタイミングで、今回の社会貢献部門のナンバーワンを選んで表彰したら、きっと、一気にそういう活動が広がっていくと思う。現役の選手でもいいし、引退した選手でもいい。そういう活動をしている選手はいっぱいいるわけだから。このアイデアは、インファンティーノにも直接言ったけれど、FIFAという組織は簡単じゃないから、すぐには実現しないんでしょうね。でも、これは絶対に意味があると思うので、言い続けていきたいと思います。

——JFAやJリーグがそういう賞を設けるのもありですよね。

中田 もちろん。そういうことをJFAやJリーグがやることで、間違いなく、もっと業界全体の価値が上がりますし、選手の価値も上がる。JFAやJリーグが主導してやることで、もっと全体が大きくなるはずです。

【第三回】中田英寿がFIFAでやろうとしていること

中田英寿が現在、FIFAの評議機関であるIFAB(国際サッカー評議会)のオファーでFootball Advisory Panel (サッカー諮問委員)を務めていることを知る者は少ないだろう。自ら語るように、現役引退後はサッカーを通じた社会貢献に意義を見いだし、協会やクラブによる強化・発展の取り組みとは一線を画してきた。そんな彼が今、サッカーのルールを検討・変更することができる唯一の機関、IFABにどんな思いで参加し、何を感じているのか。そこでの活動を通じて認識を新たにした、日本サッカー発展の課題や可能性と併せて、大いに語ってくれた。

VICTORY ALL SPORTS NEWS
岩本義弘

著者プロフィール 岩本義弘

サッカーキング統括編集長/(株)TSUBASA代表取締役/編集者/インタビュアー/スポーツコンサルタント&ジャーナリスト/サッカー解説者/(株)フロムワンにて『サッカーキング』『ワールドサッカーキング』など、各媒体の編集長を歴任。 国内外のサッカー選手への豊富なインタビュー経験を持つ。